2020年5月11日 予言獣、今昔!?

「アマビエ」の絵とか「ヨゲンノトリ」の絵を楽しく描きながら、一方で、ウェブサイト「ファンタジィ事典」にはその類いの記事を載せていない……片手落ちのボク(笑)。まあ、「ヨゲンノトリ」なんて、山梨県立博物館に掲載されていることが全てなので、取り立てて項目立てすることではないんだけど、「アマビエ」については、いろいろと複雑な歴史があったりするので、載せてもいいのかもしれない。

元々、予言獣というのはいろいろある。もっとも古いのは「神社姫」とか「姫魚」みたいな人魚タイプで、龍宮からやってきて、疫病を予言して「自分の写し絵を崇めれば助かる」的な妖怪として大流行した。最も古い記録は19世紀初めの加藤曳尾庵の『我衣』という随筆で、1819年に肥前国(長崎・佐賀)で目撃されたらしい。1850年頃に、越後(新潟)でも似たような人魚が出現して疫病を予言したという。日本の人魚は、ヨーロッパの上半身が美女という素敵な姿とは違って、全身が魚で人間の頭だけが前についている。そして角がはえている場合が多い。いずれにしても、こういう人魚タイプの予言獣が、コロリ(コレラ)の流行とともに、江戸に広まった。

「クダン」という予言獣もいる。「クダン」あるいは「クダベ」は全身がウシで、人間の頭がついている。この予言獣は、ウシから生まれて、突然、人間の言葉を喋り、災難を予言する。最古の記録は1827年だ。「クダン」の場合は疫病だけでなく、戦争や飢饉、災害なども予言する。そして写し絵が魔除けとして有効だ、というわけである。すでに江戸時代の人によって「こんなのは神社姫のパクりだ!」と看過されている。一方で、水木しげるが中国の妖怪「白澤」との関連を指摘している。「白澤」もウシのような偶蹄目の四足獣の身体に人間の頭がついていて、人語を話す(中国では必ずしも人の頭ということではないけれど、日本では人の頭がほとんど!)。予言獣というわけではないが、あらゆることに精通している。黄帝は海辺で白澤と遭遇し、あらゆる「妖怪」の類いについてに、その対策を伝授してもらった。黄帝がそれを部下に記録させたとする書物が「白澤図」で、まさに妖怪対策マニュアルの様相を呈している。そこから、厄除けとして「白澤」の絵を用いることが流行した。ある意味では、「クダン」は人魚パターンの予言獣と「白澤」を組み合わせたような妖怪と言える。

「アマビコ」(アマビ『エ』ではなくてアマビ『コ』!!)という妖怪も知られる。これは3本足のサルの妖怪で、豊作と疫病を予言して、写し絵を広めることで長寿が得られるという。最古の記録は1843年で、以降、日本各地に広まる。江戸時代末期、そして明治など、コレラが流行するたびに、3本足のサルの絵が疫除けとして流行した。

そして、ここで「アマビエ(アマビヱ)」に至る。「アマビエ」の登場は1846年。肥後国(熊本)に出現したという。実は、「アマビエ」の出現はこの1回っきりだ。でも、その絶妙にヘタウマな写し絵と、水木しげるが独特の色合いで描いたこと、ゲゲゲの鬼太郎シリーズに登場したことなども相俟って、非常に有名になった。そして、すでに察しのいい方は分かったと思うが、「アマビコ」と「アマビエ」は名前が非常に似ている。「コ」と「ヱ」を間違えたのかもしれないし、あるいは作者が意図的に読み替えたのかもしれない。その辺はよく分からないが、名前と3本足という側面は「アマビコ」の要素を残し、一方で、人魚パターンも採用している形になる。

なお、「ヨゲンノトリ」は1858年に記録されている。文章の表現などを見れば、明らかに人魚パターンと3本足のサルパターンなどの予言獣の流れを汲んでいるはずだが、何故、首が2つで白黒のカラスの絵に至ったのかはよく分からない。

いずれにせよ、疫病や災害などで不安な世相に合わせてこういう「写し絵」を販売する商法なのかな、と思う。今回も、Tシャツやストラップに描かれて販路に乗っていく流れが出来上がっているわけで、そういう形で広まっていく意思を持った妖怪と言える。

2020年5月10日 疫病退散ッ!!!

「世界の妖怪」研究家として、やっぱりブームには乗っかっておいた方がいいよね。……ということで、前に描いていた「アマビエ」に彩色して、ツイッターに載せてみた。ちなみに、みんな、アマビエに手を描いているんだけど、元の絵には手はないんだよね。人魚だもんね。その辺、リアルにやってみたんだけど、どうだろう。色は……どうしても水木しげるの色に影響されるよね。ただの青にしようかとも思ったし、それもやってみたんだけど、でも、最近のアマビエ祭りで、このパステルっぽいカラフルな色で塗っている人が案外、多いので、もはや、そちらが「正」なのかなあ、と思って、敢えて、その色合いに寄せてみた。さてはて。

併せて、最近、巷で流行り(?)の「ヨゲンノトリ」も描いて、これもツイートしてみた。資料には明確に「カラス」と書いてあるのにインコやワシみたいなのが多いので、ボクは原点に忠実に「カラス」で描いてみた。思いの外、立体感がある絵になったなあ(笑)。

2020年5月7日 ヨゲンノトリ!?

アマビエに続いて、ヨゲンノトリなるものが登場。面白いな、日本人。ヨゲンノトリは、知らなかった。でも、こうやってブームになって消えていくというのが日本人の日本人たる所以なので、いいんじゃないかな、と思う。ツマラナイ記事よりも、こういうバカみたいなことの方が楽しい。

どちらかというと、二番煎じな感じがするし、ブームとして仕掛けようとする空気は感じるし、「我らの姿を朝夕に仰げば難を逃れられる」よりも「その姿を絵に描いて流布すると疫病がやむ」の方がオンライン社会との親和性が高そうだし、キャラデザの特異性から言ったってアマビエの方が明らかに「出来」がいい。

でも、それでも、こういうお遊びに興じれるところが、とても楽しいので、よいと思う。みんな、どんどんやれ!!

山梨県立博物館:http://www.museum.pref.yamanashi.jp/

2020年5月3日 宇宙人だって、ボク的には『世界の妖怪』である!!

先日、アメリカ国防総省がUFOの映像を公開した旨の記事を書いた。これにはちょっとした意図がある。ウェブサイト「ファンタジィ事典」は『世界の妖怪』を扱う事典として編纂されているが、「架空の存在でありながら、その存在が実在と信じられたもの」をその対象としていて、『世界の妖怪』を「神話・伝承に登場する神さまや怪物、未確認生物、都市伝説の妖怪、宇宙人など」と定義している。だから、「宇宙人」というのは、ボクの興味の対象だし、ウェブサイト「ファンタジィ事典」の範疇でもある。

ところが、今までのところ、実はグレイしか項目としては宇宙人を掲載していなかった。ずぅっと、これは看板に偽りありだな、と感じていた。だから、敢えてアメリカ国防総省の記事を書きつつ、昨日までに宇宙人に関する項目をばばばーっと更新してみた。タコ型の宇宙人である火星人、金髪美男子の金星人、虫の目玉を持つベム(BEM)、アンテナを持ったリトル・グリーン・マンだ。そして、改めて、今回、グレイも見直してみた。

そんなわけで、落書き(笑)。何を描いているのだ、と言われそうだけれど。そのうち、ちゃんと彩色してファンタジィ事典に反映させようと思うよ。

ちなみに、エイリアンって、英語ではAlienだけど、ローマ字読みすると……ありえん!! この世には存在しないってことかしら?

2020年5月2日 スピノサウルスは何処へ行く!?

4月29日のネイチャー誌電子版に、スピノサウルスに関する新しい発見が報告された。これまで、スピノサウルスは完全な骨が発見されていなかったが、今回、モロッコで尾の骨まで発掘され、尾の形が復元された。オールのような形をしていて、この骨格の構造から、スピノサウルスは尾をくねらせて泳いでいたことが判明した。

ボクはしばしば、恐竜と妖怪を比較する。恐竜は実在で、妖怪は非実在だ。実在するものには真実の姿がある。ただ、データが不足しているから、よく分からない。考古学的な資料が残っていれば、必ず真実に辿り着く。でも、非実在の妖怪みたいなものは、人の想像力が生み出した産物なので、人によって、時代によって、姿も形も異なる。真実の姿なんてものはない。ツク之助さんが描いているように、スピノサウルスの姿は時代によってかなり変遷している。最初は、ゴジラみたいな二足歩行の恐竜だった。それが、骨盤が鳥に似て前傾姿勢であることが判明して姿が変化し、魚を食べていたことから半水棲であることが疑われて姿が変化し、今回、尾が復元されて、完全に水中を泳ぐ姿に変化した。勿論、これで終わりではなく、新たな発見によって、さらに姿が変わることもある。でも、こういう変化は、真の姿があって、それに近づいていく。妖怪の場合はそうではない。人によって、時代によって、場所によって、さまざまに変化していっても、それは全てが真実なのである。妖怪は、そういう特徴を持っている。そういうのを追いかけながら、人間の想像力を追体験するのが、妖怪の魅力なのである。だから、真の姿なんてものを妖怪に求めてはいけない。

2020年5月1日 宇宙人の図鑑ってないのかなあ。。。

つまらない話ばかりしても仕方がないので、別の話題を。

4月27日にアメリカ国防総省がUFOの映像を3本公開した。すでに巷に流出していたものだが、正式に公開した格好だ。こういう情報が出てきたことで、UFO愛好家は大喜びしているかもしれない。でも、グレイが運転しているとか、タコみたいな火星人や金髪美女の金星人が乗っているとか、三つ目のウンモ星人を目撃したとか、そういうことではない。あくまでも「未確認飛行物体」であって、アメリカ国防総省は「結局、何だかよく分からなかった」と言っているにすぎない。

でも、この時代になっても、何だかよく分からないということがあるのだなあ、と思って感慨深い。人工衛星が飛び回っていて、航空管制で上空の状況が把握できる時代になって、それでもなお、アメリカ国防総省が「結局、何だかよく分からなかった」と言うのだ。

逆に言えば、アメリカ国防総省の目をすり抜けて飛んだ「物体」があるというのは、宇宙人の有無はともかくとして、怖いことだなあ。

2020年4月25日 念願のエジプト神話に着手!!

この新型コロナウイルス下なので、1週間くらい引きこもってファンタジィ事典をいじっていた。念願のエジプト神話の項目が形になった。有名な神さまというのは、たくさんのエピソードがあったり、解釈があって、時代や地域によってもいろいろと変遷していく部分もあるので、それらを咀嚼して、情報を整理してまとめるのは一苦労。でも、概ね、形になった。今回の更新は、イウヌゥ(ヘリオポリス)の神話を軸にしたものなので、本当は、プタハ神とかアモン神、それからアテン神なんかもあるし、もっとエジプト神話の懐は広いのだけれど、全部、やってから更新だと大変なので、取り敢えずはヘリオポリス神話の部分だけ。太陽神ラー、創造神テム(アトゥム)、冥界神ウシル(オシリス)、天空神ヘル(ホルス)なんかが解説できたので、まあ、これはこれで、一段落だろう。

2020年4月17日 インドネシアの妖怪、フィリピンの妖怪!?

インドネシアのニュースを昨日、紹介した。インドネシアの妖怪「ポチョン」に扮した若者が新型コロナウイルス感染対策として、町に出ているというニュース。それに引きずられる格好で、ファンタジィ事典もインドネシアの妖怪をいくつか更新した。スンデル・ボロントゥユルポチョンポンティアナックだ。そして、ついでにフィリピンの妖怪も載せておこうと思って、エクエクチャーナックマナナンガルワクワクも更新した。インドネシアもフィリピンも、仕事で行ったことがある。だから、何となく馴染みがあって、妖怪も調べたりする。どちらも、おどろおどろしい点で、何となく似ている。もっともっと有名になってもいいのにな、と感じる。

2020年4月1日 ウェブサイトをリニューアル!!

4月1日だ。表題のとおり、ウェブサイト「ファンタジィ事典」のリニューアルを完了。海外を飛び回る生活の中で、結局、4年もかかってしまった。

具体的な変更点は、まずは「ヘッダー」だ。図書館の写真を配して、ちょっと格式のある雰囲気にしてみた。かちっと引き締まったデザインだ。そして、今まで2カラムだったものを、3カラムにした。五十音検索や分類別検索がしやすくなって、多少、ユーザビリティが向上するはずだ。

さらには、各項目の説明を順次、付して行っている。サンプルは「北欧神話」のページ。今までは「事典」として項目だけを更新していたが、それらの項目を繋ぐブリッジのようなページを作成することで、それぞれの項目を有機的に結び付けられる。

その他にも、細々したことをかけば、上に戻るボタンをつけたり、最終更新日が表示されるようになったりもしているし、将来的にコラムも追加できる仕様にしてある。

とは言え、テンプレートもそんなには変えていないし、表向きは劇的な変更にはなっていないかもしれない。でも、管理人として、裏側では大きな変更があって、全てのページをExcel上で管理し、メモ帳で作成するtxtファイルと紐づけながら、Excelマクロで全項目のhtmlファイルを自動生成するようにした。だから、テンプレートを一気に変えることもできる。

だから、将来的には属性検索みたいなものを追加できるように考えている。たとえば、火に関連する妖怪を全て洗い出して、各地域を横串にして提示するようなイメージだ。あるいは文献Aに登場する妖怪を全て引っ張り出してくるような使い方もできるかもしれない。

夢は膨らむなあ。取り急ぎ、これでプラットフォームは出来上がったので、ここから先は、いかにエンタメ感を導入して、読んで面白いものにしていくか。ここだけは、システムでは解決できないので、時間をかけてやっていくしかない。そのスタート地点に立ったところだ。

(ちなみに、Joomla!やWordPressみたいな既存のオープンソース型のCMSソフトウェアを使わずにExcelマクロで作成するのかと言うと、プラグインなどの仕様変更が激しかったり、自動更新でデザインが壊れたりするから。結局、誰かのプラットフォームに乗っかると、運営の都合に振り回されるから嫌なのである!!)

2020年3月15日 ミャンマーの妖怪 第3回:ピュー族の城郭都市

第2回でミャンマーの精霊信仰と「37人のナッ神」の簡単な概要を述べたが、第3回はピュー族と「ドゥッタバウン群」について説明したい。

1906年に精霊ナッについて本を出版したイギリス人のリチャード・テンプル氏は「37人のナッ神」を5つの精霊グループと独立した2人の精霊に区分した。これは主に神話・伝承の舞台となる時代背景による分類になっている。その中で、第1のグループである「ドゥッタバウン群」は「マハギリ」、「ナマードゥ」、「シュエナベ」、「シンニョ」、「シンピュ」、「トウン・バーンラ」、「マネーレー」の7人の精霊ナッから構成されるグループで、ピュー族のドゥッタバウン王の統治下で活躍することから「ドゥッタバウン群」と呼称されている。

ミャンマーには大きく分けて8つの部族、全体で135の民族が存在するが、7割近くはビルマ族である。ビルマ族最初の王朝はパガン王朝で、アノーヤタ王が興した。しかし、それ以前にこの土地を治めていたのはピュー族である。

「37人のナッ神」の第1のグループ前に冠されている「ドゥッタバウン王」はこのピュー族の王で、伝承では紀元前5世紀にタイェーキッタヤーを創設したとされる。しかし、それを明確に示す歴史的な資料は存在せず、実際には、8世紀頃の王だと考えられている。

ピュー族は、紀元前2世紀頃にミャンマーの地にやってきて、エーヤワディー河流域に複数の城郭都市をつくった。残っている遺跡としてはベイッタノーが最も古く、7世紀頃にはタイェーキッタヤーがピュー族最大の都市になった。9世紀頃に南詔によってピュー族の都市は破壊され、たくさんのピュー族が拓東に連行された。その後、ピュー族の動向は記録が残されていないが、この空白の2世紀の間に、ビルマ族のパガン国が勢力を拡大して、11世紀にアノーヤタ王がパガン王朝を樹立してミャンマー全域を支配する。

ピュー族の城郭都市は直径2~3キロメートルのレンガ造りの城壁を持つ。最大規模のタイェーキッタヤーは直径4~5キロメートルの城壁を持っていた。ピュー族はピュー語(大部分は未解読)を公用語に、インドの影響を受けて独自のピュー文字を発達させた。その頃には、モン族やアラカン族などもインドの影響を受けて、周辺で各々の文化を構築していた。

4世紀以降、ピュー族はたくさんの仏塔を建設しているが、必ずしも現在のような仏教の形ではなく、土着の精霊信仰や竜神信仰に、インドから伝来したヒンドゥー教や大乗仏教、上座部仏教などが混じり合っていた。ピュー族は高度な天文学の知識を持っていて、計算して独自の暦を用いていた。7世紀にタイェーキッタヤーで作られた「ビルマ暦」は、現在も民間に脈々と残っていて、祭儀のスケジュールなどにはその暦が用いられている。また、ピュー族は銀貨を鋳造しており、タイ南部やベトナムなどでもこれらの銀貨は出土し、広域にピュー族が交易していたことが分かっている。ちなみに、ハリンチー、ベイッタノー、タイェーキッタヤーの3か所の遺跡が2014年に「ピュー古代都市群」として世界遺産(文化遺産)に登録されている。

以上がピュー族の歴史的な概観である。次回はピュー族最大の都市タイェーキッタヤーを建設したドゥッタバウン王とそれに関わる「ドゥッタバウン群」に分類される精霊たちの物語を紹介していきたい。

ミャンマーの妖怪 第1回:ミャンマーの精霊信仰

2020年3月12日 ミャンマーの妖怪 第2回:ミャンマーの王朝と37人のナッ神

第1回では自然物に宿る精霊、家族や村で崇拝される精霊について概観を説明したが、このような精霊信仰の中で、特に際立っているのが「37人のナッ神」とされる公式の神々である。ミャンマーでは「トウンゼー・クンニッ・ミーン」と呼ばれている。

この「37人のナッ神」を率いているのは「ザジャー・ナッ」である。「ザジャー」というのは仏教の天部である「帝釈天」のことだ。11世紀にパガン王朝を興したアノーヤタ王は、上座部仏教の国づくりを目指したが、土着の精霊信仰を抑えきれなかった。そこで、いくつかの有数の精霊ナッをリストアップし、その上に「帝釈天」を据えた。帝釈天をリーダーに据えることで、精霊信仰を仏教の中に取り込もうとしたわけだ。現在のミャンマーの仏教でも、大っぴらには精霊信仰は認められていない。しかし、「信仰しているのではなく、慈愛を送る」という方便で、これらの精霊が信仰され続けている。

さて、「帝釈天」であるザジャー・ナッを除いた他の36人のナッ神は、強力な精霊たちだ。イメージとしては怨霊に近いかもしれない。処刑されたり、病気に罹ったリ、失意のうちに死んだり……いずれにせよ非業の死を遂げた人間が、死後、怨念を抱きながら、精霊になり、人々を襲った。その畏れを鎮めるために、ナッ神として寺院に安置し、崇拝したイメージだ。日本だと、平安時代の菅原道真や平将門、崇徳上皇が祟りを起こして、怒りを鎮めるために祀られ、神格化された。このイメージに近い。

たとえば、37人のナッ神で有名なマハギリ・ナッは、マウン・ティン・デは怪力を備えた人間だったが、時のタガウン王は自分の地位を簒奪するのではないかと恐れ、火あぶりにして殺した。このため、死後、強力な精霊ナッになってジャスミンの樹にとり憑いて暴れ回った。樹はエーヤワディー河に流され、パガン国に漂着し、パガン王によってポッパ山に祀られ、パガン国の守護神となった。タウンピョン兄弟も、超人と鬼女の間に産まれた子供で、神通力を有し、アノーヤタ王に仕えて大活躍したが、周囲の人間に妬まれ、王の命令に背いたと報告され、処刑され、死後、強力な精霊ナッとなった。その後、タウンピョン村に祀られ、タウンピョン村の守護神となった。

このように、精霊ナッは日本の怨霊信仰に非常に似ている側面がある一方で、ミャンマーの歴史上に現れるさまざまな王朝と密接に関わりを持ち、その歴史の中で非業の死を遂げた人間たちである。この点が、我々には非常に難解で、精霊ナッが日本に浸透しない理由かもしれない。たとえば、日本人だったら、菅原道真が……と言われれば、藤原時平が醍醐天皇を唆して、菅原道真を大宰府に左遷し、死後、怨霊になった……という物語をすぐに頭の中に思い浮かべられる。でも、我々はミャンマーの歴史の詳細をあまりよく知らないので、登場する人物や地名が頭に入ってこない。そこに登場する非業の死を遂げる人物も、だから、決して分かりやすくはない。

その辺を、分かりやすく解きほぐしていこうと考えている。そのために、ミャンマーの歴史や文化、宗教観みたいなものを勉強して、噛み砕いて説明してみようと思っている。そうすれば、少しは日本人に精霊ナッを理解してもらえるのではないかな、と思っている。そんな試みを、緩やかに始めてみたい。

ミャンマーの妖怪 第3回:ピュー族の城郭都市

2020年3月10日 流行に乗って、アマビエを描いてみた!!

コロナへの対応としてネットで流行しているアマビエ祭に乗っかってみる企画。ボクも描いてみよう!!

というわけで「アマビエ」を描いてみた。

意外と気持ちの悪い絵になってしまったのは何故だろう。鱗がいけなかったか。それとも鮭みたいな口がいけなかったか。でも、まあ、妖怪だし、いいよね?

2020年3月9日 ミャンマーの妖怪 第1回:ミャンマーの精霊信仰

ここ最近、あんまりウェブサイトを更新していないのだけれど、水面下ではいろいろと妖怪のまとめをしている。ボクは最近、海外を飛び回る仕事をしているので、立ち寄った国の妖怪について調査をするようにしている。アジア方面だと、ミャンマー、フィリピン、インドネシア、パキスタン、アフリカ方面だとナイジェリア、スーダン、マラウイを訪れた。そういうのをきっかけに、対象地域を定めて、掘り下げて妖怪を調べていくのが最近のスタイルだ。

ここ最近、特に注力しているのはミャンマーの妖怪だ。ミャンマーの妖怪については書籍も少なく、日本ではあまり知られていない。だからこそ、それを日本に普及させてみようなどと密かに画策している。

ミャンマーは仏教国である。お寺が強い権力を握っている印象だ。たくさんの寺院(パヤー)が建設されている。それでも、現地に根付いた精霊信仰も強く、寺院の中にはたくさんの精霊たちが混ざって安置されていて、仏教の守護者として崇拝されている。

土着の精霊信仰で信じられている精霊のことをミャンマーでは「ナッ」と呼ぶ。自然物に宿る精霊もたくさんいる。たとえば、土の精(ボンマゾー・ナッ)、樹の精(ヨウカゾー・ナッ)、空の精(アーカタゾー・ナッ)などがよく知られる。その他にも雨乞いを祈る雨の精(テイン・ナッ)、豊作を祈る田の精(レー・ナッ)、また、死をもたらす死の精(マン・ナッ)などもいて、儀礼などで死を追い払おうとする。

ミャンマーの精霊信仰は奥深く、家を守護する家の精(エインサウン・ナッ)への崇拝は篤い。これは家族全体で祀る精霊である。村全体の守護霊であるユワーサウン・ナッも崇拝している。また、これらの家の精霊、村の精霊とは別に、個人の守護霊(コーサウン・ナッ)も存在し、代々、両親から引き継いでいく。信仰の強さに地域差はあるものの、こういう複数の精霊はミザイン・パザイン・ナッ(母方と父方の精)として、定期的に祈りを捧げられる。村落部になればなるほど、この信仰は非常に複雑で、たとえば、父方の家族が崇拝していた精霊と母方の家族が崇拝していた精霊が異なれば、両方が祀られることもある。母方の祖母から引き継いだ精霊だとか、父方の祖父から引き継いだ精霊だとか、いろいろなケースがある。また、引っ越しをして家に嫁いできた家族がいれば、前の村の守護霊を連れてきて崇拝する場合もある。その結果、ひとつの家だけで、いろいろな精霊をミザイン・パザイン・ナッとして崇拝することになる家族もいる。いずれにせよ、正しく祈りを捧げないと、これらの守護霊が怒ってよくないことが起こると信じられている。

こういう精霊崇拝が、上座部仏教と混ざり合いながら、信じられているのがミャンマーである。

ミャンマーの妖怪 第2回:ミャンマーの王朝と37人のナッ神

2020年3月8日 アマビエ祭、万歳!?

ともすれば、本ウェブサイトが創作と妖怪を楽しむページであることを忘れてしまいそうになる(笑)。

今、巷で妖怪「アマビエ」が流行しているらしい。疫病を払ってくれるから、新型コロナにも効果あり、ということなのだろうか。いろんな人が「アマビエ」を描いて、アップしているらしい。あの「いらすとや」もすかさず反応して「アマビエ」のイラストを掲載しているらしいので、情報をキャッチする能力に長けているなーと思う。水木しげるの絵は元々の絵に近くておどろおどろしく描いてあるけれど、「いらすとや」の絵ははなかっぱみたいでかわいらしい。

J-CASTニュース:妖怪「アマビエ」のイラストがSNSで人気 伝承に脚光「疫病が流行れば私の絵を見せよ」


江戸時代の新聞:独特の画風でちょっとコミカル!?


水木しげる画:手が生えている!?


いらすとや:はなかっぱみたいになっている!?

いずれにせよ、新型コロナで世相がネガティヴになっていても、こうやってアマビエ祭みたいなことを展開していく日本人の精神性は素晴らしいと思う。それにしても、よくこんなマニアックな妖怪を引っ張り出してきたな、という感じ。まあ、独特の絵だし、ボクも水木しげるの画集で「アマビエ」を見たときに、ぎょっとして、ものすごく印象には残っていたので、水木しげる様々かもしれないなー、と思う。

2020年2月9日 ノリ突っ込まないスタイル!?

M-1でぺこぱが3位になったが、ノリ突っ込まない優しい漫才としての新境地を切り開いた。まだまだ漫才に新しい可能性があるのだ、と見せつけられた感じだ。

さて、2019年11月に発売された「がっかりなファンタジーせいぶつ事典」。かなり面白い。今泉忠明さんが監修する「おもしろい! 進化のふしぎ ざんねんないきもの事典」のパロディと言えばパロディだが、「ああ、そういう切り口があったか!」と思ってしまった。がっかりなファンタジーせいぶつと言えば、アントライオンかバロメッツが断トツだよね、と思うけれど、カトブレパスとかアクリスなんかを並べられてしまうと、「確かにがっかりだ!!」と膝を打ってしまった。

この本、「がっかりなファンタジーせいぶつ事典」は、何よりも表紙がカワイイ。素敵。中の絵もカワイイ。素敵。そして、この絵がコミカルさを演出している。それでいて、知らない情報もちゃんと載っているあたり、池上さんが監修しているだけのことはあって、オススメの本である。

2020年1月7日 木端微塵にしてやるよ!!

年賀状用に火鼠だけでなく、コダマネズミの絵も描いてみた。彩色はしていないが、絵としては面白い感じ。ぷくーっと膨れていく感じがよい。かわいい顔をして、猟師がやってくると木端微塵に弾け飛び、肉片を撒き散らすという性質の悪い妖怪だ。

2020年1月5日 インドネシアの妖怪に対する雑感。

最近のボクは仕事でインドネシアを頻繁に訪れている。インドネシアと言えば、オラン・ペンデグとかオラン・ガダンとかオラン・バッチみたいな未確認生物が有名で、ボクとしては、あれだけジャカルタが発展していて、先進国の仲間入りをしていて、JKT48とかが活躍しているのに、その一方では依然として未開のジャングルが残っていて、非接触部族も残っていて、不思議な島国だなあ、と思っていた。訪問した今でもその感想は変わらない。何しろ、メダンなんてインドネシアで第4の都市なのに、すぐ近くにはオランウータンが棲む熱帯雨林が広がっているわけだ。

未確認生物はともかくとして、インドネシアの妖怪について調べると、同じ熱帯の島国だからか、フィリピンの妖怪に似ている印象を受ける。フィリピンと言えば、アスワンとかマナナンガルみたいな恐ろしい女性の妖怪が大活躍する。同様に、インドネシアもお産で亡くなる妖怪が跋扈している。ポンティアナックとかクンティラナックなんかはおどろおどろしい感じだし、スンデルボロンも怖い。ポチョンはお産で亡くなったわけではないが、ホラー映画に登場したら怖いだろうな、と思う。そういうホラー映画向きの恐ろしい幽霊たちがたくさんいる。それがフィリピン的だし、日本的だな、と感じている。そのうち、詳細をまとめてレポートしたいな、と思っている。

2020年1月3日 2020年もよろしくお願いいたします。

あけましておめでとうございます。無事に新年の雑誌もお届けできました。恥ずかしい話、昨年は仕事に忙殺されており、入稿できないのではないかと危ぶんでおりましたが、綱渡りのように生きております。

子年なので、火鼠を描いてみました。中国伝承に登場する幻獣です。要するに、石綿です。

そんなわけで、2020年もよろしくお願いいたします。

2019年8月3日 南米の妖怪の本が出た!!

久々に時間に余裕ができたので本屋に行く。たまたま児童書コーナに足を向けたら、『南米妖怪図鑑』が平積みになっている。引き寄せられるように手に取る。7月20日出版だったらしい。まさに出版されたばかり。そのままの勢いで購入した。

中南米の妖怪なんて、あんまり紹介してくれる本がない。著者はアルゼンチンの人らしいから、それなりに情報は信用できるのだろうか。アルゼンチンの作家と言えば、『幻獣辞典』のホルヘ・ルイス・ボルヘスを思い出す。小学校のときに図書館で見つけて、それから新書を本屋で購入した。ちょっと前に文庫本になっていて驚いたけれど、この本には彼が創作した妖怪が混ざっていて、見事、騙された。

いずれにせよ、中南米の妖怪について、こうやって紹介してくれる本は少ない。それを日本人が企画して、日本に在留のアルゼンチン人が書いたというのが面白い。知らない妖怪も多かったので、これから勉強していこうと思う。

2019年7月9日 リニューアル

今、ファンタジィ事典のリニューアル作業を敢行中だ。今年中には公開に踏み切れる段取りで進めている。SNS全盛期の今、何でリニューアルをするのか、という気持ちもある。でも、どうしても、htmlでやり続けたいという信念みたいなものがボクにはある。ここで乗り越えて、新しい世界を切り開きたいな、と思っている。

htmlのウェブサイトはかなり淘汰された。昔は結構、神話サイトも多かったし、活発に交流していたけれど、今、そういう感じで動きのあるウェブサイトってほとんどない。閑古鳥が鳴いていて、開店休業中みたいな感じ。斯く言うファンタジィ事典も、手を入れていないので、似たようなものだ。リニューアルをしている意味は、まさにここにある。少し、ライトに更新できる形にしたいな、というところ。

ボクの興味が散漫だから、ついつい、いろんなジャンルのいろんな項目を更新して、ときにはアイヌ伝承、ときにはメソポタミア神話、ときには記紀神話、ときにはアステカ神話……とちぐはぐで、濃淡ンがまちまちのウェブサイトになる傾向にある。そうではなくって、ある程度、コントロールして、ひとつのジャンルとしては一応、完結していくような形のウェブサイトの在り方を模索している。たとえば、ギリシア神話について調べようと思うユーザがいたら、まずは「ゼウス」の項目はマストなのであって、「オリュムポスの12神」もマストで、それなりに有名な怪物も載っていて、ギリシア神話としては一定の水準で完結している。そんな事典構成にしたい。そのためには、古代ギリシアの地図や歴史、言語、資料などがぱぱっと参照できて、それから事典に入っていくような形を目指したい。そんな想いがある。

とは言え、これまで膨大に更新してきたので、項目としてはかなり数があって、それを移していくだけでもかなりの時間になるので、その辺、結構、リニューアル作業を進めながら苦しんでいる。