ゼウス

分 類ギリシア神話
名 称Ζεύς〔Zeus〕(ゼウス)【古代ギリシア語】
容 姿
特 徴
出 典ヘーシオドス『テオゴニアー』(前7世紀)など

ゼウスはギリシア神話の最高神であり、天候を操る天空神である。古い神々であるティーターン族クロノスの子で、ポセイドーンハーデースらの兄弟たちと一緒にティーターン族を倒して世界の支配権を奪い、ギガース族や怪物テューポーンを退治することで、完全にこの世界を掌握した。その後、籤引きで兄弟と世界を三等分し、ポセイドーンが海を、ハーデースが冥府を、そしてゼウスが空を支配した。

ゼウスは結婚の女神ヘーラーを正妻にしたが、多くの女神や精霊、人間の女性と関係を持ち、たくさんの子供をもうけている。アテーナーアポッローンヘルメースディオニューソスなどの神々はゼウスの子である。オリュムポス神族を率いる家父長として「神々の王」と呼ばれる。英雄ペルセウスやヘーラクレース、トロイア王家の祖ダルダロスなどもゼウスの子である。

ゼウス信仰の主な聖地はドードーナとオリュムピアである。特にオリュムピアにあったゼウス神殿には12メートルにも及ぶ巨大なゼウス像が安置されていて、世界の七不思議のひとつとして有名であった。

ゼウスの誕生

クロノスとレアーの6人兄弟の末子として誕生した。兄弟にはヘスティアーデーメーテール、ヘーラー、ハーデース、ポセイドーンがいる。

ゼウスが最高神の地位に就く前は、クロノスが世界の王であった。クロノスは父親のウーラノス(天空)から世界の支配権を簒奪した過去があり、両親のウーラノスとガイア(大地)からは「お前も子供に世界の支配権を奪われる」と予言されていた。そのため、クロノスは子供が生まれるたびに次々と子供たちを丸呑みにしていた。

妻であるレアーはこれに不満を抱き、最後にゼウスを産んだときに、石を産着に包んで赤ん坊のように見せかけると、クロノスに与え、産んだ子供の方はこっそりクレータ島に運ばせ、そこで精霊たちにゼウスをこっそりと育てさせた。精霊のアドラステイアイーデーは雌ヤギであるアマルテイアの乳と蜂蜜を飲ませてゼウスを養育し、ゼウスが泣き声を上げるたびに武装した精霊クーレースたちが槍と盾を打ち鳴らしてそれを掻き消し、父親に赤子の泣き声を聞こえないようにした。

ゼウス、父親を追放し、天界の王となる!?

こうして、クロノスの知らないところで立派に成長したゼウスは、父親に復讐を果たすべく、知恵の女神であるメーティスから薬をもらうと、それをクロノスに飲ませ、呑み込んだ兄弟たちを全て吐き出させた。また、過去にウーラノスによってタルタロスに幽閉されていた一つ目巨人のキュクロープス、百腕巨人のヘカトンケイルらを助け出して、味方につけると、父親率いるティーターン族に戦争を仕掛けた。ゼウスとその兄弟たちはオリュムポス山に、クロノスらティーターン族はオトリュス山にそれぞれ陣を敷いた。ヘカトンケイルたちは100本ある腕で次々と岩を掴んでティーターン族に投げつけた。キュクロープスらはゼウスに雷霆(ケラウノス,Κεραυνός)を、ポセイドーンに三叉の戟(トリアイナ,τρίαινα)を、ハーデースに隠れ兜(アイドス・キュネーン,Ἄϊδος κυνέην)を与えた。神々はこれらの武器を使ってティーターン族を征服し、タルタロスへ幽閉してしまった。

ゼウスたちはそれぞれが支配する領域を決めるために籤(くじ)を引いた。その結果、ゼウスが天空、ポセイドーンが海、ハーデースが冥府を支配することとなった。こうして古きティーターン族の支配の時代は終わり、ゼウスらが率いるオリュムポス一族の時代が始まったのである。

ゼウスは浮気性!?

ゼウスは非常に好色の神さまとして知られている。女性を見ると見境がなく、気に入った女性がいると、女神でも人間の女性でも、次々に関係を持って子孫を残していった。

最初に知恵の女神メーティスと交わった。しかし、メーティスとの間に生まれる息子がゼウスの支配権を奪うという予言を受けたので、メーティスが身籠ると、ゼウスはメーティスごと呑み込んでしまった。こうしてゼウスは知恵を自分のものとし、その上、将来の災いの芽を摘んだ。やがて、メーティスが身籠った娘はゼウスの頭の中で成長し、額を突き破って生まれてきた。それがアテーナーである。

次に掟の女神であるテミスと交わって、季節の女神ホーラたちと運命の女神モイラたちをもうけた。エウリュノメーからは優雅女神カリスたちを、記憶の女神ムネーモシュネーからは芸術の女神ムーサたちを、レートーからはアポッローンアルテミスを、デーメーテールからペルセポネーをもうけた。また、ヘーラーを正妻として青春の女神ヘーベー、出産の女神エイレイテュイア、アレース及びヘーパイストスをもうけた。また、ニュムペーのマイアからはヘルメースをもうけている。それから、人間のセメレーとの間にもうけた子供はディオニューソスである。

このほかにも、ゼウスはニュムペーや人間の女性と交わり、さまざまな英雄や王族、都市の祖先などを生み出している。伝説の英雄たちは神々の系譜と結びつきやすい。人間の女性ダナエーとの間に英雄ペルセウス、アルクメーネーとの間に英雄ヘーレクレースが生まれている。他にも多くの英雄たちがゼウスの系譜に結び付けられていった。また、諸国の王族たちも自らの祖先の出自をゼウスに求めた。同様に、それぞれの都市の祖先も、次々とゼウスと結び付けられていった。このため、ゼウスは非常に多くの女性たちと交流を持ち、子孫を残さなければならなくなった。結果として、ゼウスの系譜は非常に複雑になっており、また、好色な神さまになっていく。

神話の中で、正妻ヘーラーは非常に嫉妬深い女神として描かれていて、ゼウスが交わった女性たちやその子孫はその後、ひどい迫害を受けている。ヘーラーの怒りを恐れ、ゼウスは自らを白鳥や雨に姿に変えたり、女性を牛に変身させたり、黒雲で姿を隠したりとさまざまな涙ぐましい工夫を凝らし、ヘーラーの目を誤魔化して、女性に近づくのである。しかし、大抵の場合、それはすぐに露呈し、女性やその子供たちはヘーラーの手痛い迫害に晒されることになる。

《参考文献》

  • 『ギリシア・ローマ神話辞典』(著:高津春繁,岩波書店,1960年)

Last update: 2019/01/07

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