キマイラ
分 類 | ギリシア・ローマ神話 |
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Χίμαιρα 〔Khimaira〕(キマイラ)【古代ギリシア語】 | |
容 姿 | 雄ライオンの頭と前脚、雌ヤギの胴体と後脚、大蛇の頭の尾、背中から雄ヤギの首が生えた怪物。 |
特 徴 | リュキアの火山帯に棲息し、炎を吐く。英雄ベッレロポンテースが退治した。 |
出 典 | ヘーシオドス『テオゴニアー』(前7世紀)、アポッロドーロス『ビブリオテーケー』(1~2世紀頃)ほか |
キマイラはギリシア・ローマ神話に登場するライオン、ヤギ、ドラコーン(大蛇)などの動物が組み合わさった奇っ怪な姿をした怪物である。リュキアの火山帯に棲息し、近隣の村々を襲っていた。そこで、英雄ベッレロポーンがペーガソスにまたがってリュキアに向かい、この怪物を退治した。
奇ッ怪な姿をした合成獣!?
キマイラの姿は風変りである。雄ライオンの頭と前脚、雌ヤギの胴体と後脚を持ち、尻尾の部分はドラコーン(大蛇)の頭がついていて、背中からは雄ヤギの首が生え、その口からは炎を吐き出す。その外見上、ライオンのたてがみ、ヤギの角など、雄の特徴を備えてはいるものの、キマイラ自体は雌である。壷絵などに描かれるキマイラの図像を見ると、確かにキマイラの胸元には雌ヤギの乳房がずらりと並んで描かれていることが多いので、雌であることが分かる。
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現代の遺伝学では、キマイラのように異なる種の細胞を併せ持った生物のことを「キメラ」と呼んでいる。
キマイラは怪物の家系!?
キマイラは立派な怪物の家系の生まれで、両親はテューポーンとエキドナである。兄弟には双頭の猟犬オルトロス、冥府の番犬ケルベロス、レルネー沼の毒蛇ヒュドラーなどの顔ぶれが並ぶ。そして、兄であるオルトロスと結婚し、スピンクスやネメアのライオンなどの子供たちをもうけている。
ちなみにヘーシオドスの『テオゴニアー』では主語が省略されているため、キマイラの両親は必ずしも明確ではない。エキドナともケートーともレルネーのヒュドラーとも解釈できる。一方、アポッロドーロスやヒュギーヌスはテューポーンとエキドナの子としている。オルトロスの配偶者についても同様で、主語が省略されているため、エキドナともキマイラともケート―とも解釈できる。ローブ叢書の『テオゴニアー』はキマイラとしているので、その説に従った。
英雄ベッレロポーンの怪物退治!?
キマイラはカーリア王のアミソーダロスによって育てられ、リュキアの地で田畑を荒らし、家畜を襲ったという。しかし、最終的には英雄ベッレロポーン(あるいはベッレロポンテース)に退治された。
あるとき、ベッレロポーンがティーリュンスを訪れたときに、ティーリュンスの地を治めていたのはプロイトス王だった。その后のステネボイアがベッレロポーンに恋心を抱き、誘惑してきた。ベッレロポーンがこれを拒むと、逆にステネボイアは「ベッレロポンテースが私を誘惑してきた」などとプロイトス王に嘘の報告をした。プロイトス王はこれに腹を立てたが、客人を殺すのは憚られると、ベッレロポーンに1通の手紙を託し、リュキアのイオバテース王に渡すように命じた。この手紙には、ベッレロポーンを殺すようにとの依頼が書かれていた。なお、イオバテース王はステネボイアの父であり、プロイトス王にとっては義理の父に当たる。
ベッレロポーンから手紙を受け取ったイオバテース王は思案の末、ベッレロポーンにキマイラ退治を命じることにした。キマイラはリュキアの地で田畑を荒らし、家畜を襲って暴れ回っていたが、ベッレロポーンがこの怪物に殺されるだろうと期待してのことだった。しかし、ベッレロポーンは女神アテーナーから譲り受けたペーガソスを駆って、空から弓を射て、この怪物を退治した。
《参考文献》
- 『図説 幻獣辞典』(著:幻獣ドットコム,イラスト:Tomoe,幻冬舎コミックス,2008年)
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
- 『ギリシア・ローマ神話辞典』(著:高津春繁,岩波書店,1960年)
- 『神統記』(著:ヘシオドス,訳:廣川洋一,岩波文庫,1984年)
- 『ギリシア神話』(著:アポロドーロス,訳:高津春繁,岩波文庫,1953年)
Last update: 2024/05/13