ダヌ

分 類ケルト神話(アイルランド神話)
名 称 Danu(ダヌ)【古アイルランド語】
容 姿女神。
特 徴大地母神。トゥアハ・デ・ダナンの始祖。
出 典『来寇の書』(11世紀頃)ほか

女神ダヌはトゥアハ・デ・ダナンの祖!?

アイルランド神話の神々は「トゥアハ・デ・ダナン」と呼ばれている。トゥアハ・デ・ダナン(Tuatha Dé Danann)とは《女神ダヌの一族》という意味で、これらの神々は4つの秘宝を手にアイルランドに入植した。そして、彼らよりも先にアイルランドに入植していたフィル・ヴォルグ族フォヴォル族(フォモール族)と戦って制圧し、アイルランドの支配者となった。

ダヌはそんなトゥアハ・デ・ダナンの祖である。最高神ダクザや銀の腕のヌアザ、医療神ディアーン・ケーヒト、鍛冶神ゴヴニュ、海神リールなどの母とされ、「神々の母」と呼ばれている。しかし、ダヌそのものの固有の神話的なエピソードは残されていない。おそらくは土地の主権を司り、戦争、技芸、大地、豊饒、多産、母性などと結びついた古い女神だったと考えられている。

ダヌはさまざまな女神と習合して同一視されるが、特にアイルランド南西のマンスター地方の守護女神アヌと同一視される。アヌはシュメル・アッカド神話のイナンナ/イシュタルやウガリット神話のアスタルテなどの系列に連なる大地母神である。実際、マンスター地方ケリー県キラーニーには「ダー・キーヒ・アナン(Dá Chích Anann)」と呼ばれる2つの山がある。これは《アヌの乳房》という意味で、アヌ女神と大地の結びつきを示している。また、アイルランドの民間伝承にブラック・アニスという冬の魔女が登場し、マンスター地方の古代洞窟神殿跡は「ブラック・アニスの住まい」と呼ばれているが、これも古い時代の女神信仰の名残りだと考えられている。

ちなみに、ダヌはインド・ヨーロッパ祖語で《川》を意味する*dānuに由来するという説もある。実際、ドナウ川、ドニエストル川、ドニプロ川、ドン川、ドネツ川など、ヨーロッパ各地にその名を残している。また、同じインド・ヨーロッパ語族であるインドの神話にも水の女神ダヌが登場する。インド神話の女神ダヌは、水を塞き止めて干ばつを引き起こし、天候神インドラに退治された竜ヴリトラの母としても知られる。

ちなみにダナン(Danann)というのは女神の名前を示す属格(所有や所属を示す格)で、厳密に言うとその主格(主語とある格)であるはずのダヌ(Danu)という表記は古アイルランド語文献の中で見つけられていない。ダヌという名称は後世の研究者たちが属格ダナンから仮定上の主格として再構築したものである。また、《女神・アヌ》の*di[a] Anuがダヌになった可能性も指摘されている。

《参考文献》

Last update: 2024/04/06

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