ヌアザ

分 類ケルト神話(アイルランド神話)
名 称 Nuada(ヌアザ)【古アイルランド語】
容 姿銀の義手をつけた男性神。
特 徴神々の王。神々を率いてフィル・ヴォルグ族と戦った。
出 典『来寇の書』(11世紀頃)ほか

神々の王、腕を切り落とされる!?

ヌアザはアイルランド神話の神々である「トゥアハ・デ・ダナン(女神ダヌの一族)」の一柱で、神々の王である。彼らがアイルランドに入植した際、すでにアイルランドには先住民のフィル・ヴォルグ族が住んでいて、神々は彼らと激しく戦った。この争いは第1次マグ・トゥレドの戦いと呼ばれ、ヌアザはトゥアハ・デ・ダナンの指揮官として神々を率いて彼らと戦った。このとき、ヌアザは軍神として最前線に踊り出し、フィル・ヴォルグ族の王のエオホズ・マク・アークを倒すなどの多くの戦果を挙げた。しかし、スレイとの一騎打ちの際、右腕を切り落とされてしまった。ケルトでは肉体的な欠損がある者は王にはなれない定めがあった。このため、ヌアザは王を退き、王位をブレスに譲ることとなった。しかし、ブレスは無能な王で、重税を敷くなど、神々は苦しむこととなった。

ヌアザは医療の神ディアーン・ケーヒトによって銀の義手をつけてもらうことで、銀の手のヌアザ(アーガトラム・ヌアザ)と呼ばれるようになった。そして、その後、ディアーン・ケーヒトの息子のミアハによって、切り落とされた腕は完全に蘇生された。こうして、ブレスの圧政に苦しむ神々に支持され、ヌアザは再び王に返り咲いた。しかし、王位を追われたブレスは、今度は地下世界に暮らすフォヴォル族(フォモール)を味方に引き入れるとアイルランドを攻めてきた。これは第2次マグ・トゥレドの戦いと呼ばれる。この戦いのときにもヌアザは指揮官として神々を率いて戦う。しかし、フォヴォル族は非常に強力で、神々は敗れてしまう。こうして、トゥアハ・デ・ダナンはブレスとフォヴォル族に支配され、長く苦しい圧政を敷かれることになる。

こうして老いたヌアザは若いルーグに王位を譲った。ルークは神々を率いて見事、フォヴォル族を破り、トゥアハ・デ・ダナンは新しい王の下で再びアイルランドを支配することとなった。こうして、ヌアザは王としての役割を若い世代に譲ったのである。

しかし、その後、ミレー族がアイルランドに入植してくると、トゥアハ・デ・ダナンはミレー族に敗れ、地下世界に住居を移したとされる。このとき、ヌアザは神々の長老ダグザから「アルム・シー」と呼ばれる塚を領土として割り当ててもらった。しかし、フィアナ騎士団の団長のフィン・マックール(ヌアザの子孫だとされる)と領土を賭けて争い、敗北して領土を奪われたとされる。

一振りで敵を倒すヌアザの剣!?

ちなみに、ヌアザは剣を持った姿で描かれる。この剣はトゥアハ・デ・ダナンがアイルランドに入植した際に、故郷から持参した「4つの秘宝」のひとつで、「何者もこの剣から逃れることはできず、一度鞘から抜かれればこれを耐える者はいない」と謳われている。『来寇の書』などのアイルランド文献では、この「剣」には明確な名前が与えられていない。しかし、近年の日本のファンタジー小説などでは、アイルランド民話でしばしば登場する「クラウ・ソラス(光の剣)」をヌアザの剣と結びつけて解釈しているものも多い。

ヌアザは水辺の神で治癒の神!?

アイルランドでは、ヌアザは王として神々を率いる軍神としての側面が強調されているが、ガリア地方では、ヌアザと同一視される神として、ノーデンスが知られる。ノーデンスは水辺の神であり、魚や漁などと結びついていた。また、病を治す神としても崇拝されていたようだ。治癒の泉を保有していて、泉の水によって病が治ると信じられていた。ヌアザも、実は水の神であり、治癒の神であった可能性が高い。

《参考文献》

Last update: 2024/04/06

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