ケルト神話
ケルト民族は鉄製の武器を身に着け、馬で戦車を牽いて、紀元前4世紀頃にはヨーロッパの大部分(フランスを中心に、北はイギリス、南はスペイン北部やイタリア北部、東はルーマニアやウクライナの西部に至るまで)を支配した。同じ言語体系を共有しながら、しかし、政治的にはひとつにまとまらなかった。
紀元前2世紀後半にはゲルマン人に圧迫を受け、紀元前1世紀頃にはローマ人に征服されて、アイルランドやスコットランド、ウェールズの一部でわずかに命脈を保ったが、4世紀頃からキリスト教が流入し、8世紀頃にはキリスト教化された。
ケルト民族の宗教は自然崇拝の多神教で、宗教的指導者のドルイドが祭儀だけでなく政治も執り行った。人身御供や人頭崇拝(敵の首を祀る風習)があったことが知られる。また、霊魂の不滅で輪廻転生するという信仰があった。ケルト民族の神話や伝承はもっぱら吟遊詩人たちが語り伝えるもので、文字には残されなかった。そのため、古代ギリシア・ローマの記録やキリスト教宣教師たちの記録だけが手がかりとなる。
ケルト神話の創世神話と世界観
ケルト神話は「大陸のケルト」と「島のケルト」に分けられる。「大陸のケルト」の神話・伝承は断片的にしか残っていない。古代ギリシア人やローマ人の記録から推定するしかない。一方の「島のケルト」はアイルランドやスコットランド、ウェールズなどで信られていた神話で、中世以降はキリスト教の広がりとともに消滅していくが、キリスト教聖職者たちの多くの記録から全体像が把握できる。
アイルランド神話では、神々は「トゥアハ・デ・ダナン」と呼ばれる女神ダヌの一族で、ダグザ、ヌアザ、ルーグなどの神々がアイルランドに入植し、先にアイルランドに棲んでいたフィル・ヴォルグ族やフォヴォル族(フォモール族)を制圧して、アイルランドの支配者となる。