ダグザ
分 類 | ケルト神話(アイルランド神話) |
---|---|
Dagda(ダグザ)《善き神》【古アイルランド語】 | |
容 姿 | 年老いた男性神。赤毛で大男。太鼓腹。巨大な棍棒、大釜、竪琴を持つ。 |
特 徴 | 豊饒神。神々の長老。 |
出 典 | 『来寇の書』(11世紀頃)ほか |
神々の長は大食漢の大男!?
ダグザはアイルランド神話の神々である「トゥアハ・デ・ダナン(女神ダヌの一族)」の家父長で、特にケルト民族の宗教的指導者のドルイドたちに篤く崇拝された。赤毛で太鼓腹の大男で、立派なひげをはやしている。丈の短い粗末なチュニックを着て、馬皮の長靴を履いた姿で描かれる。父権を象徴する神々の長老的な存在である。
ダグザは大釜、竪琴、棍棒を持っている。ダグザの大釜はトゥアハ・デ・ダナンがアイルランドに入植した際、故郷から持参した「4つの秘宝」のひとつで、無尽蔵に食べ物が溢れてきて、どれだけ食べても尽きることがない。この大釜はダクザの豊饒神としての側面を象徴しているようだ。三弦の黄金の竪琴は天候を自在に操ることができる。これもまた、豊饒と結びついている。ダクザの棍棒は8人がかりでも動かせないほど重く、一方の側で叩くと敵を粉砕し、もう一方の側で叩くと死んだものが生き返る。このダクザの死と再生の象徴は、植物が冬の間に枯れて、春になると再び芽生えてくるサイクルを表していると考えられている。
ダグザの正妻は戦争の女神モリガンであるが、河の女神ボアンとの不倫も知られる。また、敵対していたフォヴォル族(フォモール族)のインジット王の娘エヴァとも関係を持っている。いずれにしても、彼女たちとの間にボォヴ、ミディール、ブリギッド、愛の神オイングスなどの子供たちをもうけている。
食べ物にまつわるダグザのエピソード
ちなみに、ダグザは大食漢で知られる。ブルー・ニャ・ボーニャ(Brú na Bóinne)という宮殿で、何度でも蘇るイノシシとミルク粥を食べて過ごしていた。特にミルク粥が大好物だとされる。ダグザの登場するエピソードには、食べ物にまつわるものが多い。
たとえば、ダグザの宮殿を風刺詩人のクリゼンヴェール(Cridenbél)が客人として訪問した際、クリゼンヴェールは、ダグザの提供する食事に不満を述べた。そして、最もよいものを3つ渡すように要求した。ダグザは自らの食事からよい部分を渡したが、これによって空腹になったダグザはすっかり痩せ細ってしまったという。これを見た息子のオイングスは食事に3枚の金貨を混ぜるように入れ知恵した。ダグザがそのとおりにすると、クリゼンヴェールは金貨を食べ、内臓が傷ついて、やがて死んでしまった。当時、トゥアハ・デ・ダナンに圧政を敷いていたブレス王が、これ幸いと殺人の罪でダグザを裁こうとしたが、ダグザは「最もよいものを3つ渡せと言われたから金貨をやった」と弁明した。これもオイングスの入れ知恵である。ブレスが風刺詩人の腹を割くと、確かに金貨が3枚入っていたので、ダグザは無罪になったという。
また、第2次マグ・トゥレドの戦いで、神々がフォヴォル族と戦っていたときには、軍を指揮していたルーグは、ダグザに敵の偵察を命じた。フィヴォル族はダグザを足止めするために80ガロン(約360リットル)という大量の粥を作って歓待した。これによってダグザは足止めを喰らったが、最終的にはフィヴォル族の予想に反して、ダグザはこれを全て平らげてしまった。
《参考文献》
- 『Truth In Fantasy 85 ケルト神話』(著:池上正太,新紀元社,2011年)
- 『「ケルト神話」がよくわかる ダーナの神々、妖精からアーサー王伝説まで』(森瀬繚/静川龍宗,ソフトバンク文庫,2009年)
- 『爆笑ケルト神話』(編:シブサワ・コウ,光栄,1996年)
Last update: 2024/04/06