アメノミナカヌシ

分 類日本神話
名 称 天之御中主神、天御中主神(あめのみなかぬしのかみ)〔記〕【日本語】
天御中主尊(あめのみなかぬしのみこと)〔紀〕【日本語】
容 姿
特 徴原初神。この世界の根源。高天原の主宰神。後代には「妙見さん」として崇拝される。
出 典『古事記』(712年)、『日本書紀』(720年)ほか

この世界の原初神でこの宇宙の根源!?

アメノミナカヌシは日本神話の「天地開闢」の神話に登場する原初神である。『古事記』では、原初の始めに最初にこの世界に出現した。その後に出現したタカミムスヒカミムスヒとともに「造化三神」と呼ばれている。また、その後に出現したウマシアシカビヒコヂアメノトコタチと合わせて「別天つ神(ことあまつかみ)」と呼ばれている。「別天つ神」は特別な天の神という意味である。

アメノミナカヌシの名前は《天の真ん中にいる主宰神》という意味である。しかし、その名前の偉大さや最初に登場したという設定とは裏腹に、神話の中では何ら活躍することなく、すぐに姿を隠してしまう。多くの神話において、抽象的かつ概念的な神というのは「閑職神」になりがちである。たとえば、シュメル・アッカド神話のアン(天空神)やギリシア・ローマ神話のウーラノス(天空神)、ヴェーダ神話のヴァルナ(水神)などは重要な神として名前は挙げられるものの、世界の最初に登場するだけで、その後の神話の中では活躍しなくなる。抽象的かつ概念的な神は一般の人に理解しにくいという側面があり、アメノミナカヌシも古代において崇拝された痕跡は見つかっていない。

しかし、江戸時代になって国学者の平田実篤がキリスト教の「万物の創造神」という思想に影響を受けて、アメノミナカヌシ、タカミムスヒ、カミムスヒを重要視し、アメノミナカヌシを最高神として位置づけ直した。そのため、復古神道ではアメノミナカヌシを最高神として位置づけている。

夫、混元既凝、氣象未效、無名無爲、誰知其形。然、乾坤初分、參神作造化之首、陰陽斯開、二靈爲群品之祖。

さて、すでに宇宙の根本は固まったが、まだ形と質とははっきりせず、名前も働きもなく、誰もその形を知らなかった。しかし、天と地が初めて分かれて、3柱の神が造化の始まりとなって、男と女がここに開かれて、2柱の神(イザナキとイザナミ)が万物の祖となった。

(『古事記』上つ巻「序」第1段より)

天地初發之時、於高天原成神名、天之御中主神(訓高下天、云阿麻。下效此)。次高御產巢日神。次神產巢日神。此三柱神者、並獨神成坐而、隱身也。
次、國稚如浮脂而久羅下那州多陀用幣流之時(流字以上十字以音)、如葦牙、因萌騰之物而成神名、宇摩志阿斯訶備比古遲神(此神名以音)。次天之常立神。(訓常云登許、訓立云多知。)此二柱神亦、獨神成坐而、隱身也。
上件五柱神者、別天神。

天と地が初めて分かれたとき、高天原(たかまのはら)に生まれた神の名はアメノミナカヌシ。次にタカミムスヒ。次にカミムスヒ。この3柱の神はみんな独神となって、身を隠した。
次に、国が若く浮かぶ油のようで、クラゲのように漂っているとき、葦の芽のように萌えあがるものによって生まれた神の名はウマシアシカビヒコヂ、次にアメノトコタチ。この2柱の神もまた、独神となって、身を隠した。
上記の5柱の神は別天つ神(ことあまつかみ)である。

(『古事記』上つ巻「別天つ神五柱」より)

なお、出雲大社の御本殿にはオホクニヌシが祀られているが、客座五神として、5柱の別天つ神も祀られている。

イザナキとイザナミに国生みを命じた!?

天地開闢の直後は、まだ日本の国土は海に漂っている状態だったため、イザナキイザナミに国を整えて固めるように命が下される。こうして、イザナキとイザナミは天の沼矛で海を掻き回して海水を固めながら、国土を形づくっていく。『古事記』によれば、この「国土の修理固成」の命令は「天つ神(あまつかみ)」が下している。ここで言う「天つ神」は別天つ神のことだと考えられるので、5柱の神々が話し合って命じたと考えられる。従って、この段階では、アメノミナカヌシも高天原の主宰神としてちゃんと働いていたと解釈することができる。しかし、アマテラスが高天原の中心になる頃には、アメノミナカヌシは一切、言及されることはなく、アマテラスに助言をするなど、主にタカミムスヒがその実権を握っていくことになる。その意味では、アメノミナカヌシは完全に隠居したと言えるだろう。

於是天神、諸命以、詔伊邪那岐命・伊邪那美命二柱神「修理固成是多陀用幣流之國。」賜天沼矛而言依賜也。故、二柱神、立(訓立云多多志)天浮橋而指下其沼矛以畫者、鹽許々袁々呂々邇(此七字以音)畫鳴(訓鳴云那志)而引上時、自其矛末垂落之鹽累積、成嶋、是淤能碁呂嶋。(自淤以下四字以音。)

ここに天つ神(あまつかみ)、一同でイザナキとイザナミの2柱の神に「この漂っている国を整えて固めなさい」と言って、天の沼矛を与えて依頼した。そのため、2柱の神は、天の浮橋に立ってその沼矛を差し下ろして掻き回して、海水をころころと掻き鳴らして引き上げると、その矛の先端から滴り落ちる海水が、積もり重なって島になり、これがオノゴロ島である。

(『古事記』上つ巻「国土の修理固成」より)

アメノミナカヌシ神話は別伝のひとつ!?

ちなみに『日本書紀』では複数の「天地開闢」の神話を紹介している。本文ではクニノトコタチクニノサツチトヨクモノが原初神として挙げられている。その後、別伝が6つが紹介されていて、それらも多くは原初神としてクニノトコタチやクニノサツチ、トヨクニヌシ、ウマシアシカビヒコヂ、アメノトコタチなどを挙げている。その中で、4つ目の別伝として紹介される中に、唯一、アメノミナカヌシ、タカミムスヒ、カミムスヒが補足的に登場する。このことから、『古事記』を編纂する時期に、比較的、新しく追加された観念的な神だと考えられている。

一書曰、天地初判、始有倶生之神、號國常立尊、次國狹槌尊。又曰、高天原所生神名、曰天御中主尊、次高皇産靈尊、次神皇産靈尊。皇産靈、此云美武須毗。

ある書が言うには、天と地が初めて分かれるときに、初めて一緒に生まれた神がいる。クニノトコタチ、そしてクニノサツチと言う。また(その書が)言うには、高天原というところに生まれる神の名を、アメノミナカヌシ、次にタカミムスヒ、その次にカムミムスヒと言う。「皇産靈」は「ミムスヒ」と言う。

(『日本書紀』巻第一「神代上」第1段一書第4より)

この『日本書紀』第1段一書第4でも、原初神はあくまでもクニノトコタチとクニノサツチであって、造化三神は『古事記』が言及するような原初神ではない。

『古事記』では、陰陽道の影響を受けて、三、五、七という陽数が好んで用いられる。このため、先にあったタカミムスヒとカミムスヒに対して、アメノミナカヌシを置くことで、造化三神(三)、別天つ神(五)、神世七代(七)と数合わせをしたとの説もある。また、タカミムスヒが高天原・皇族系の天つ神を代表し、カミムスヒが出雲系の国つ神(くにつかみ)を代表しているため、この2柱の神々の対立を調整するために置かれた神との説もある。

北極星の神格化!? 妙見信仰とアメノミナカヌシ

中世以降、アメノミナカヌシは妙見信仰と結びつけられて「妙見さま」として親しまれ、人々に崇拝されるようになった。これは道教の影響で、「妙見」というのは北極星のことを指す仏教用語である。道教では北極星を神格化したものを妙見菩薩と呼んだ。天の真ん中に位置する北極星は次第にアメノミナカヌシと同一視されるようになり、「妙見さん」として信仰されるようになったのである。

水天もアメノミナカヌシ!?

また、神仏分離の際には、水天を祀っている水天宮もアメノミナカヌシと結び付けられた。水天というのは本来、インドの始源神ヴァルナのことで、この「始源神」という特徴から、水天はアメノミナカヌシに置き換えられていった。

《参考文献》

Last update: 2023/01/15

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