ウマシアシカビヒコヂ

分 類日本神話
名 称 宇摩志阿斯訶備比古遲神(うましあしかびひこぢのかみ)〔記〕【日本語】
可美葦牙彥舅尊(うましあしかびひこぢのみこと)〔紀〕【日本語】
容 姿
特 徴天地開闢で4番目にこの世に出現した原初神。葦の芽のような生命力を神格化した神。豊かな生命力を象徴する。
出 典『古事記』(712年)、『日本書紀』(720年)ほか

葦の芽の豊かさを象徴する神!?

ウマシアシカビヒコヂは日本神話の「天地開闢」の神話に登場する原初神である。『古事記』では、原初の始めにアメノミナカヌシタカミムスヒカミムスヒの造化三神が誕生した後、まだ国土が水に浮かぶ油のようで、クラゲのように漂っていたときに、葦の芽が萌え出るようにウマシアシカビヒコヂが誕生したと説明される。造化三神とウマシアシカビヒコヂ、そしてその後に誕生したアメノトコタチを合わせて「別天つ神(ことあまつかみ)」と呼ばれている。「別天つ神」は特別な天の神という意味である。

「ウマシ」は「良いもの」を意味する尊称、「アシカビ」は葦の芽、「ヒコヂ」とは立派な男性のことで、「立派な葦の芽の男性の神」という意味である。記紀神話において、しばしば「葦」は豊かな国土、豊かな生命力の象徴として用いられる。ウマシアシカビヒコヂも、葦の芽に象徴されるような万物の生命力を神格化した神と考えられていて、一般に活力を司る神とされる。

なお、「ヒコヂ」とは立派な男性を意味するが、別天つ神は5柱とも独神なので、本来は性別のない神であるため、「ヒコヂ」は泥を意味する「コヒヂ」が転化したものではないかとも言われている。泥であれば、まさに葦が芽吹く土地を意味することになる。

天地初發之時、於高天原成神名、天之御中主神(訓高下天、云阿麻。下效此)。次高御產巢日神。次神產巢日神。此三柱神者、並獨神成坐而、隱身也。
次、國稚如浮脂而久羅下那州多陀用幣流之時(流字以上十字以音)、如葦牙、因萌騰之物而成神名、宇摩志阿斯訶備比古遲神(此神名以音)。次天之常立神。(訓常云登許、訓立云多知。)此二柱神亦、獨神成坐而、隱身也。
上件五柱神者、別天神。

天と地が初めて分かれたとき、高天原(たかまのはら)に生まれた神の名はアメノミナカヌシ。次にタカミムスヒ。次にカミムスヒ。この3柱の神はみんな独神となって、身を隠した。
次に、国が若く浮かぶ油のようで、クラゲのように漂っているとき、葦の芽のように萌えあがるものによって生まれた神の名はウマシアシカビヒコヂ、次にアメノトコタチ。この2柱の神もまた、独神となって、身を隠した。
上記の5柱の神は別天つ神(ことあまつかみ)である。

(『古事記』上つ巻「別天つ神五柱」より)

出雲大社の御本殿にはオホクニヌシが祀られているが、客座五神として、別天神も祀られている。

ウマシアシカビヒコヂこそが原初神!?

ウマシアシカビヒコヂは『日本書紀』にも登場する。『日本書紀』ではクニノトコタチを原初神とする本文のほかに、6つの別伝が紹介されるが、一書第2と第3、第6にウマシアシカビヒコヂの名前が挙げられている。一書第2、第3ではこの世に最初に誕生したのはウマシアシカビヒコヂとなっている。また、一書第6ではアメノトコタチこそ先に誕生しているものの、続いて2番目に生まれたのがウマシアシカビヒコヂである。記紀神話の「天地開闢」の神話では、中国思想の影響を強く受けていて、観念的・抽象的な原初神が多いが、ウマシアシカビヒコヂは「葦の芽」という具体的なイメージを伴っている。このため、中国思想の影響を受ける前の日本の素朴な信仰を留めているとも捉えられる。

一書曰、古、國稚地稚之時、譬猶浮膏而漂蕩。于時、國中生物、狀如葦牙之抽出也。因此有化生之神、號可美葦牙彥舅尊。次國常立尊。次國狹槌尊。葉木國、此云播舉矩爾。可美、此云于麻時。

ある書が言うには、大昔に国が若く大地が若いときに、たとえば浮かんでいる油のように漂っていた。そのときに国の中に物が生まれた。その形は葦の芽の抜け出るようだった。これによって生まれ出た神があって、ウマシアシカビヒコヂと言った。次にクニノトコタチ。次にクニノサツチ。ハコクニ。「葉木國」は「ハコクニ」と言う。「可美」はこれを「ウマシ」と言う。

(『日本書紀』巻第一「神代上」第1段一書第2より)

一書曰、天地混成之時、始有神人焉、號可美葦牙彥舅尊。次國底立尊。彥舅、此云比古尼。

ある書が言うには、天と地が一つに固まっているときに、初めて神人があり、ウマシアシカビヒコヂと言う。次にクニノソコタチ。「彥舅」はこれを「ヒコヂ」と言う。

(『日本書紀』巻第一「神代上」第1段一書第3より)

一書曰、天地初判、有物、若葦牙、生於空中。因此化神、號天常立尊、次可美葦牙彥舅尊。又有物、若浮膏、生於空中。因此化神、號國常立尊。

ある書が言うには、天と地が初めて分かれたときに、物が生まれた。葦の芽のようで、空の中に生まれた。これによって生れた神を、アメノトコタチと言う。次にウマシアシカビヒコヂ。また物が生まれた。浮かぶ油のようにして空の中に生まれた。これによって生まれた神をクニノトコタチと言う。

(『日本書紀』巻第一「神代上」第1段一書第6より)

ちなみに、ウマシアシカビヒコヂが天にあるのか、あるいは地から天に伸びているのかは議論が分かれている。別天つ神に分類されているので、天に生えている葦の芽なのかもしれない。

《参考文献》

Last update: 2023/01/16

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