クリューソマッロス・クリオス

分 類ギリシア・ローマ神話
名 称 χρυσόμαλλος κριόςkhrūsomallos krios〕(クリューソマッロス・クリオス)《金羊毛の雄ヒツジ》【古代ギリシア語】
容 姿金色に光り輝く毛を持った雄ヒツジ。
特 徴空を飛ぶことができる。
出 典アポローニオス『アルゴナウティカ』(前3世紀頃)、アポッロドーロス『ビブリオテーケー』(1~2世紀頃)ほか

クリューソマッロス・クリオスのイラスト

金羊毛の毛皮

クリューソマッロス・クリオスとはギリシア・ローマ神話に登場する金色に光り輝く毛を持った雄ヒツジで、乗れば空を飛ぶことができた。策略で殺されそうになっていたプリクソスはこの雄ヒツジに乗ってボイオーティアからコルキスまで逃れ、ヒツジは生贄としてゼウスに捧げられ、毛皮はコルキス王のアイエーテースに与えられた。その後、英雄イアーソーンがこのヒツジの毛皮を持って帰ってくるように命じられ、アルゴー号に乗ってコルキスを目指し、魔女メーデイアの助力もあって、この金羊毛の毛皮を奪取する。

金色の毛をはやした空飛ぶヒツジ

ボイオーティア王のアタマースはネペレーと結婚してプリクソスとヘレーという2人の兄妹を儲けるが、その後、イーノ―に心移りして、彼女と再婚する。後妻のイーノ―は前妻の子供が邪魔だったため、土地の女たちに麦の種を火で炙るように指示した。男たちが種を蒔かせたが、芽は出ず、例年のような豊作にはならなかった。アタマースは原因を探るためにデルポイに使者を派遣して、神託を得ようとした。イーノ―は使者を買収すると、「不作を止めるにはプリクソスを生贄に捧げる必要がある」という偽の神託を報告させた。

アタマース王はこの神託を信じて、プリクソスを祭壇に連れて行った。ネペレーは慌てて息子を奪うと、ヘルメースから与えられていた金羊毛の雄ヒツジを息子に与えた。プリクソスと妹のヘレーがこのヒツジに掴まると、ヒツジは空に飛び立った。途中、残念ながらヘレーはヒツジから滑り落ちて海に墜落してしまったが、プリクソスだけは無事にコルキスまで逃れることができた。そして、そこでコルキス王のアイエーテースに歓待された。

プリクソスは金羊毛の雄ヒツジをゼウスに捧げ、金羊毛の毛皮をアイエーテース王に与えた。アイエーテース王はこの毛皮をアレースの聖なる森の樫の木の幹に打ち付けると、眠らない大蛇(ドラコーン)に毛皮を護らせた。

アルゴー号、金羊毛の毛皮を求めてコルキスへ

イアーソーンはテッサリアー地方のイオールコス王のアイソーンの息子として生まれたが、アイソーンの死後、まだ幼いイアーソーンに代わって叔父のペリアースが王位を継いだ。幼いイアーソーンは賢者ケイローンの下に送られ、そこで育てられた。あるいはペリアースが王位を簒奪しようとしたため、アイソーンはイアーソーンをケイローンの下に逃がしたとも言われている。

イアーソーンは成人するとイオールコスに戻って王の座を自分に戻すように要求した。王位を手放したくなかったペリアース王は、無理難題をイアーソーンに押し付けることにした。そして、王位を譲る条件として、コルキスにある金羊毛の毛皮を持ち帰ることを命じた。

イアーソーンは巨大な船であるアルゴー号を建造させると、冒険に同行する仲間たちを募集した。この冒険には英雄ヘーラクレースをはじめとして、テーセウスオルペウスなど、そうそうたる面々が参画した。さまざまな冒険を経て、アルゴー号はコルキスに到着した。

イアーソーンはコルキス王のアイエーテースに金羊毛の毛皮を要求する。アイエーテースもペリアース王と同様に、毛皮の提供に無理難題の条件を提示する。その条件とは、アレースが飼っている青銅の足を持ち、口から炎を吐き出す雄牛の群れで土地を耕し、大蛇(ドラコーン)の牙を蒔くというものだった。この大蛇の牙は、カドモスがテーバイで蒔いた残り半分であった。

アイエーテースにはメーデイアという娘がいて、魔術に長けていた。イアーソーン一行は、メーデイアを味方に引き入れることにし、イアーソーンは単身でメーデイアの下を訪れる。魔女メーデイアはイアーソーンに一目惚れした(あるいは神々がそのように仕向けたとも言われる)。そして、塗り薬を与えた。この薬を塗ると、1日の間だけ、炎でも剣でも決して傷つかない身体を手に入れることができる。また、メーデイアは、大蛇の牙を蒔くと、大地から次々とスパルトスたちが出現するので、大きな石をスパルトスたちの真ん中に投げ込めば、彼らは互いに争い合って共倒れになると助言する。メーデイアの塗り薬に守られたイアーソーンは、炎を吐く雄牛にくびきをつけると大地を耕し始めた。そして、大蛇の牙を蒔いた。次々と大地から武装したスパルトスたちが出現したが、イアーソーンは巨大な岩を掴むと、彼らの真ん中に投げ込んだ。彼らは互いに戦い始めて次々と相討ちになった。イアーソーンも彼らの真ん中に飛び込むと、次々とスパルトスたちを倒した。こうして、見事に難題を解決した。

アイエーテース王は、金羊毛の毛皮を渡したくなかったため、夜明けにアルゴー号に火を放ち、乗組員たちを焼き払おうと画策する。しかし、事前にこの計画を知ったメーデイアは先手を打ち、夜中のうちにイアーソーンを連れてアレースの聖なる森を訪れると、毛皮を護る大蛇(ドラコーン)を魔法で眠らせると、金羊毛の毛皮を奪い、夜が明ける前に出航した。こうして、イアーソーンはメーデイアを正式に妻として迎え入れると、テッサリアーへの帰還の途に就く。

アポッロドーロスの『ビブリオテーケー』では、「金羊毛の雄ヒツジ」はχρυσόμαλλος κριόςkhrūsomallos krios〕(クリューソマッロス・クリオス)と表記されている。一方、「金羊毛の毛皮」はχρυσόμαλλος δέρας(クリューソマッロス・デラス)と表記されている。

《参考文献》

Last update: 2024/05/13

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