ノーム
分 類 | ヨーロッパ伝承 |
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Gnome(ノーム)【英語】 | |
容 姿 | 老人の小人。 |
特 徴 | 土の精。 |
出 典 | パラケルスス『妖精の書』(1566年)ほか |
四大精霊の「土」を司る精霊!?
ノームは中世ヨーロッパの伝承に登場する土の精霊。16世紀のスイスの錬金術師パラケルススは『妖精の書』(1566年)の中で、風、水、火、地の四大元素にはそれぞれ精霊がいるとして、土を司る精霊としてノーム(あるいはピグミー)を挙げた。ノームという言葉はパラケルススの造語であるとされているが、真偽はよく分からない。『オックスフォード英語大辞典』では《地に住むもの》という意味のギリシア語γηνόμος(ゲーノモス)に由来する語ではないかとしている。別の説では、ギリシア語で《知識》を意味するγνώσις(グノーシス)に由来するともされている。
ノームは地下に棲む老人の姿をした精霊で、地中を自由自在に泳ぐように移動でき、地下に眠る財宝を守護するとされた。ドワーフやコーボルト、ノッカーなどが地下に棲む妖精として民間伝承に登場するが、パラケルススの想像したノームが、このような妖精たちの性質を多分に含んでいたため、次第にこれらと同じような性質の妖精になっていったものと思われる。地下に棲むほかの土の妖精たちと同様に、金銀の鉱脈を知っているという。
四大元素に対応する四大精霊!?
古代ギリシアの哲学者エムペドクレースは「四元素説」を唱えた。彼は、世界は風、水、火、地の四大元素(リゾーマタ)から構成され、愛と憎しみによって結合したり分離したりしてできており、これらのリゾーマタは新たに生まれることもなければ、消滅することもないのだと主張した。この思想は長い間、ヨーロッパの科学者たちに支持されてきた。パラケルススは『妖精の書』でこれらの四大元素には、それぞれに対応する精霊が棲んでいると主張した。すなわち、風にはシルフ、水にはウンディーネ、火にはサラマンダー、地にはノームというわけである。
童話に登場する土の小人!?
ノームはグリム童話などにも土の精霊として登場している。金田氏は「地もぐり一寸法師」などと邦訳していて、妙に愛着を感じてしまうが、少しだけ正確に記述すれば、グリム兄弟が「ノーム」という言葉を用いていたわけではない。もともとのドイツ語版では、「地もぐり一寸法師」には「erdmänneken(エルトマネケン)」という語が用いられている。erd(エルト)は《土》、männeken(マネケン)は《小人》なので、《土の小人》と訳すのが適当だろう。このドイツ語を英訳したときに「ノーム」となった。従って、正確に表現するならば、ノームはグリム童話の英訳版に登場する。ノームは「土の小人」を英訳するには打ってつけのイメージだったと言える。なお、ドイツ語にはgnomという語もあり、英語gnomeのドイツ語ヴァージョンである。
1977年にはオランダのヴィル・ヒュイゲンとリーン・ポートフリートが、その名もずばり『ノーム』という絵本を出版し、これが大ベストセラーとなった。非常にかわいらしい小人のノームが描かれていて、彼らの暮らしぶり、生態が詳細に記述されている。それによれば、ノームは15センチメートルほどの小人で、服装は非常に派手で、赤い三角帽子をかぶって青い上着を着て、老人の姿をしているという。もちろん、子供のノームもいるが、その区別はなかなか難しいのだという。非常に長寿で、100歳くらいで親もとを離れて結婚するという。400歳くらいまでは元気に生きる。白い口髭(くちひげ)と顎髭(あごひげ)が特徴で、女のノームも350歳を過ぎる頃から顔に毛がはえてくるという。パラケルススが述べていたように、地中を泳いで移動するというイメージとは異なり、小人として、地中に木造の家をつくって暮らしている感じで、地中の家には家具も普通に並んでいる。木の実やキノコを食べるらしい。
ちなみに、この本もグリム童話と同じ。『ノーム』の原題は『Leven en werken van de Kabouter』というもので、本家オランダ版では「カバウテル(Kabouter)」という単語が使われていて、これが英訳の際に「ノーム」と翻訳された。カバウテルはオランダに伝わる地の精。オランダでは非常にポピュラなもののようだ。従って、彼らが描いたものは正確には「ノーム」ではないのかもしれないが、グリム童話の場合と同様、土の小人はノームとして英訳され、出版され、この絵本のカバウテルがノームとして親しまれている。
ノームは信仰心に篤い知恵者なのか!?
ちなみに『ダンジョンズ&ドラゴンズ』や『ウィザードリィ』などの近年のゲーム世界では、ノームはドワーフと同じような小人の種族として描かれることが多い。特に『ウィザードリィ』では主人公の仲間としてノーム族を選択することができる。ここでは、明確にドワーフとの差異化が図られている。無骨でたくましい戦士タイプのドワーフとは異なり、ノームは信仰心の篤い知恵を持った僧侶タイプの種族として描かれている。これはその後のファンタジーに大きな影響を与えた。この「知恵者」というイメージがどこに由来するのかはよく分からないが、ゲーム制作者が「ノームの語源はグノーシス《知識》」というところから着想を得た設定かもしれない。
庭を守護するガーデン・ノーム、旅をする!?
ちなみに、ガーデニング好きの家の庭先なんかに、小人の人形が飾ってあったりするのをよく見る。あれはガーデン・ノームと呼ばれていて、庭を守護するものとされている。土の精霊なので、庭を守護するのにはうってつけの妖精である。
2001年のフランス映画『アメリ』にはガーデン・ノームにまつわる素敵なエピソードがある。一人で隠居生活を送る父親に、アメリは世界旅行を薦める。しかし父親の重たい腰はなかなか上がらない。そこで、アメリは父親の庭からガーデン・ノームを盗むと、それをフライト・アテンダントの友人に託してしまう。彼女は世界中の行った先々で、ノームの記念写真を取って、それをアメリの父親へエア・メールで送るのだ。自分の庭のノームが、海外旅行をして送ってくる記念写真に刺激され、遂に父親も旅に出る。そんな心温まるエピソードである。
余談ではあるが、最近では庭先に白雪姫の7人の小人を飾っている家も多いが、『白雪姫』に登場する7人の小人はノームではなくドワーフで、北欧神話に由来する別の小人である。
《参考文献》
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
Last update: 2021/04/11