銀角大王(インジアオ・ダイワン、ぎんかくだいおう)

分 類中国伝承(西遊記)
名 称 銀角大王(银角大王)〔yínjiǎo dàiwáng〕(インジアオ・ダイワァン)【中国語】
容 姿ひげを生やし、甲冑を着た大男。角を持った姿で描かれることも多い。
特 徴平頂山の妖怪たちの親玉。山を移動させる術を駆使する。
出 典『西遊記』(16世紀)ほか

山を移動させて孫悟空を押し潰す!?

銀角大王(インジアオ・ダイワン、ぎんかくだいおう)は中国の四大奇書小説『西遊記』(第32回~第35回)に登場する魔王。金角大王とは兄弟で、ひげを生やし、甲冑を着た大男で、平頂山蓮花洞(へいちょうざんれげどう)に棲んで、たくさんの妖怪たちと暮らしていた。彼らは羊脂玉浄瓶(ようしぎょくじょうびん)、七星剣(しちせいけん)、芭蕉扇(ばしょうせん)、幌金縄(こうきんじょう)、紫金紅葫蘆(しきんこうころ)という不思議な宝貝を持っており、彼らは、これらの道具を駆使して、孫悟空一行を苦しめた。

孫悟空、須弥山、峨眉山、泰山の下に閉じ込められる!?

銀角大王は三蔵法師が平頂山に向かって旅をしてくることを知ると、この肉を食べれば不老長寿が得られると、部下を派遣した。そして、先行していた山の見回りをしていた猪八戒を捕えると、今度は自ら傷ついた道士に化けて三蔵一行に近づいた。三蔵は孫悟空に道士を背負って運ぶように指示した。孫悟空は一行よりも少し遅れて歩き、隙あらばこの道士を崖の下に落としてしまおうと企んでいた。一方、銀角は山を動かす術を得意としており、孫悟空の隙をついて須弥山、峨眉山、泰山の3つの山で孫悟空を押し潰して身動きできないようにした。こうして、三蔵一行は捕えられ、蓮花洞に連行された。金角と銀角は三蔵法師、猪八戒、沙悟浄を縛って天井から吊るすと、酒宴の準備を始めた。

孫悟空、幌金縄で縛り上げられる!?

しかし、慎重な金角はその場に孫悟空の姿がないことを案じて、部下に羊脂玉浄瓶と紫金紅葫蘆を預け、確実に浄瓶と紅葫蘆に孫悟空を閉じ込めて連れてくるように命じた。実はこの浄瓶と紅葫蘆は呼びかけに応じたものを閉じ込めて溶かしてしまうことができた。

孫悟空は山神や土地神の助けを借りて、自分を押し潰していた山から抜け出すと、道士に変身し、やってきた金角・銀角の部下たちを騙して、浄瓶と紅葫蘆を奪い取ると、三蔵一行を救出するために蓮花洞を目指した。孫悟空は部下に化け、金角・銀角の母親である九尾狐を退治して幌金縄を奪い取った。母親が孫悟空にやられたと知った金角は三蔵一行を孫悟空に返すことを提案するも、銀角は七星剣を持って孫悟空に挑みかかった。なかなか勝負がつかないのを見てとると、孫悟空は手に入れたばかりの幌金縄を銀角に投げつけた。この幌金縄は何でもからめて縛り上げてしまう縄だった。しかし、持ち主の銀角は解く方法を知っていて、逆に幌金縄を投げ返され、孫悟空は銀角に縛り上げられてしまった。そして、折角、奪ったはずの羊脂玉浄瓶と紫金紅葫蘆も奪い返された。孫悟空は金角・銀角の目を盗んで如意棒をやすりに変化させると、縄の一部を切って抜け出し、体毛から自分の分身をつくって幌金縄で縛り上げた。

孫悟空、紫金紅葫蘆に封じ込められる!?

こうして蓮花洞から抜け出した孫悟空は、「者行孫」という偽名を名乗って蓮花洞を再訪し、金角と銀角に挑戦した。偽名なら吸い込まれることはないと考えての作戦である。案の定、銀角は紅葫蘆を持ってやってきた。しかし、孫悟空の思惑とは異なり、紫金紅葫蘆は偽名であっても呼びかけに応えたものを吸い込む能力があったため、孫悟空は銀角の呼びかけに応じ、紅葫蘆の中に閉じ込められてしまった。孫悟空が急いで脱出を試みるも、銀角は入口に封をした。孫悟空は体毛から自分の分身をつくって底に沈め、自らは羽虫に変身して脱出の機会を窺った。「そろそろ溶けた頃か」と金角と銀角が中を覗くと、半分、溶けかかった「者行孫」の分身が浮かんでいる。「まだ全部は溶け切っていないぞ!」と金角は大慌てで銀角に封をさせたが、そのときには、すでに孫悟空は羽虫になって逃げ出していた。

孫悟空、ようやく銀角を退治する!?

孫悟空は金角と銀角の部下に化けると、彼らの酒宴に参加した。銀角は金角と酒を酌み交わすときに、手に持っている紅葫蘆が邪魔になったため、酒を酌み交わす間にそれを部下に化けた孫悟空に預けてしまった。こうして、孫悟空はまんまと紅葫蘆を手に入れると、体毛を偽物の紅葫蘆に変化させ、銀角に返した。こうして、紅葫蘆を手に入れた孫悟空は、今度は「行者孫」と名乗って蓮花洞を訪れた。「孫行者(孫悟空)」を退治し、「者行孫」を退治したのに、さらに「行者孫」まで現れて、金角は狼狽えるが、銀角は退治してやるとすり替えられた偽物の紅葫蘆を片手に「行者孫」を迎え撃った。

ところが、銀角が紅葫蘆を取り出すと、対する「行者孫」も紅葫蘆を取り出して見せる。そして、銀角が相手の名前を呼ぶも、「行者孫」が何度、それに応じても吸い込まれない。今度は「行者孫」が銀角の名を呼び、銀角がそれに応じると、銀角はあっという間に紅葫蘆に吸い込まれ、そして溶けてしまった。

その後も孫悟空と金角は激しい戦いを繰り広げるが、最終的には金角も浄瓶を奪われ、孫悟空の呼びかけに応じて吸い込まれてしまう。

金角と銀角の正体は!?

三蔵一行が金角・銀角を退治して旅立とうとすると、そこに太上老君が出現した。金角と銀角の正体は天界で太上老君に仕えて金炉と銀炉の番をしている童子たちで、太上老君の持つ5つの宝貝を盗んで行方をくらませていたのであった。そして、盗まれた5つの宝貝を返却するように孫悟空に要請した。孫悟空はしぶしぶ5つの宝貝を太上老君に返却しながら「監督不行届きだ」となじると、太上老君は、実は菩薩が三蔵法師を試すために彼らを連れて行き、妖怪に変えたのだと説明した。そして、羊脂玉浄瓶と紫金紅葫蘆に閉じ込めていた金炉童子と銀炉童子が出現して太上老君の脇に立った。金角と銀角を巡る全ての戦いは菩薩が三蔵が本当に取経をする意志があるかの試験だったというわけである。

なお、金角と銀角の親族たちの九尾狐や狐阿七大王、部下の怪物たちなどは、みな、キツネなどの獣たちである。

《参考文献》

Last update: 2021/06/18

サイト内検索