ウートガルザ・ロキ
分 類 | 北欧神話 |
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Útgarða-Loki(ウートガルザ・ロキ)《ウートガルズのロキ》【古ノルド語】 Skrýmir(スクリューミル)【古ノルド語】 | |
容 姿 | 巨大な巨人。 |
特 徴 | ウートガルド城の王。幻術を駆使してソールを苦しめた。 |
出 典 | スノッリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』(13世紀頃)、『詩のエッダ』(13世紀頃)ほか |
ソール一行を苦しめた幻術使いの巨人!?
ウートガルザ・ロキは北欧神話に登場する巨人(ヨートゥン)である。巨人族の国ヨートゥンヘイムのウートガルズと呼ばれる城壁に囲まれた国を支配していた。幻術や知略を得意とすることで知られ、雷神ソールの一行がウートガルズを訪れたときには、いろいろな幻術を駆使して対抗した。
巨大なスクリューミルと対峙する!?
最初、ソール一行は巨大な巨人スクリューミルに出会う。ある晩のことだ。旅の途中、空き家で一泊をしていたソール一行だったが、夜中に大地震が起こり、騒音と唸り声にソールは眠れなかった。夜が明けてソールが外に出ると、そこに巨大な巨人が眠っていて、ものすごいいびきをかいていた。これが原因だったのだ。ソールが戦槌ミョッルニルを握り締めると巨人は目を覚まし、自分はスクリューミルだと名乗った。そして、空き家だと思った家が、実はスクリューミルの手袋であることを知る。スクリューミルはソール一行に同行すると申し出て、一行は巨人と朝食を共にした。
スクリューミルは一行の背負っている大荷物を見て、自分の荷物と一緒に持ってやると言って、一行の荷物を自分の荷袋に入れて持った。そして夜になると、大いびきで眠ってしまった。夕飯を食べようとソールたちがどれだけスクリューミルの荷袋の紐をほどこうとしても固くてほどけない。ソールは激怒し、ミョッルニルを握り締めるとスクリューミルの頭に振り下ろした。スクリューミルは目を覚ますと「木の葉かな」と言って「食事は終わったのか」と訊いてくる。ソールは「これから寝るところだ」と答えるしかなかった。
その後、巨人がまた大いびきをかいて眠ってしまったため、ソールは今度は脳天に振り下ろした。確かに手応えを感じたが、スクリューミルは目を覚ますと「今度はどんぐりかな」と言った。そして夜明けにソールはまた起き出して、ぐっすり眠っている巨人のこめかみにミョッルニルを振り下ろした。槌は確かに巨人の頭にめり込んだ。巨人は目を覚めすと、「枝が落ちてきた」と言った。そして、スクリューミルはウートガルズまでの道を示すと、途中で別れた。
ソール一行、ウートガルザ・ロキの館で苦しめられる!?
その後、ソールの一行がウートガルザ・ロキの館に辿り着くと、ウートガルザ・ロキはソール一行を館に招き入れると、「一芸がないものはこの館には留まれない」と技比べを申し出る。ロキが大食いを提案すると、ウートガルザ・ロキは傍らにいたロギを呼び、ロキと競うように言った。大量の肉が入った桶がずらりと床に並べられ、ロキとロギは両端から食べていった。ちょうど真ん中で両者はぶつかった。しかし、ロキの側には空っぽの桶と骨が残っていたが、ロギの方は桶も骨も平らげられていた。
次はソールの従者のスィアールヴィが挑戦した。彼は足の速さに自信があったので、駆け比べを申し出た。ウートガルザ・ロキに促されて館の外に出ると、競技場があった。フギという少年が呼ばれた。スィアールヴィは3回、フギと競ったが、いずれもフギの勝利だった。1回目はフギがゴールしたときに、振り返ってスィアールヴィを確認できるほどの差だった。2回目は弓の射程距離ほどの差があった。3回目はフギがゴールしたときには、スィアールヴィはコースの半分しか走っていなかった。
次はソールの番だ。ソールは酒の飲み比べなら負けないと挑戦した。ウートガルザ・ロキは大きな角杯を持ってきて、これを何口で飲めるか挑戦してきた。ソールが一気に飲んだが、角杯の水位はちっとも下がっていない。もう一度、一気に飲んだが、やはり水位は下がらない。そこで今度は息が続くまで飲んだ。すると、今度はかなり水位が下がったが、それでも空にはできなかった。
ウートガルザ・ロキは「アース族のソールも大したことはない」と言って、今度は灰色の猫を持ち上げるように言う。ウートガルザ・ロキは「館の若者たちはこの猫を地面から持ち上げる遊びに興じている」と説明した。現れたのは巨大な猫だった。ソールは必死に猫を持ち上げたが、片足しか持ち上げることができなかった。ウートガルザ・ロキは「ここにいる巨人たちに比べるとソールは小さいもんなあ」と言った。
ソールは激怒し、「あんたは小さいと言うが、誰か出てきて俺と力比べしろ」と言った。「それではお手並み拝見」とウートガルザ・ロキは老婆を呼んだ。ウートガルザ・ロキの乳母だったエリである。ソールとエリは相撲をとった。ソールが押せども押せども老婆は動かない。激しい取っ組み合いの末、遂にソールは片膝をついてしまった。「そこまで!」ということで、ソールの負けが決まった。
果てして勝敗の結果は!?
その晩、ソール一行はウートガルザ・ロキにもてなされ、次の日の朝も一行は巨人たちにもてなされ、ソール一行は意気消沈してウートガルズを後にすることとなった。ウートガルザ・ロキは城門まで見送った。そして、ソール一行が城の外に出るとウートガルザ・ロキはすべてを白状した。スクリューミルは、実は山を巨人に見せかけていただけで、ソールが山に3つの谷をつくったこと、ロギの正体が炎で、実は炎が桶や骨を燃やし尽くしていたこと、スィアールヴィが競争したフギはウートガルザ・ロキの思考だったこと、角杯は実は海につながっていて、ソールが海の水位を下げてしまったこと、灰色の猫は、実は世界をぐるりと取り囲む世界蛇ヨルムンガンドで、ソールが持ち上げたとき、頭としっぽを残して身体が全部、持ち上がってしまって驚いたこと、最後にソールが戦った老婆が、実は老齢で、ソールがどれだけ年老いても倒れず、片膝をついただけだったことを説明した。ウートガルザ・ロキは「危なかった。二度とお前を俺の館には入れない」と言った。それを聞いたソールがミョッルニルを掴んで巨人に挑みかかろうとすると、あっという間にウートガルザ・ロキは姿を消した。ソールは城に引き返そうと振り返ると、そこは野原が広がっているだけで、いつの間にかウートガルズ城もどこかに消えていた。
《参考文献》
- 『エッダ ―古代北欧歌謡集』(訳:谷口幸男,新潮社,1973年)
Last update: 2023/04/01