セケル(ソカリス)

分 類エジプト神話
名 称 𓊃𓎡𓂋𓅋〔skr〕(セケル)【古代エジプト語】
Σόκαρις(ソカリス)【古代ギリシア語】
容 姿ハヤブサの頭部にアテフ冠をかぶった男性神。
特 徴豊饒神、冥界の入り口の守護神。
出 典

セケルはサッカラ生まれの冥界神!?

セケル(ソカリス)はハヤブサの頭にアテフ冠をかぶった古代エジプトの男性神で、冥界の入り口を守護する存在として、古代エジプト全域で広く崇拝された。

ナルメル王が上エジプトと下エジプトを統一し、第1王朝を興したとされるが、第1王朝時代に上エジプトと下エジプトの接点に建設された都市がイネブ・ヘジュ(メンフィス)である。メンフィスから3キロメートルほど西に離れると、そこには砂漠が広がっていて、メンフィス・ネクロポリスと呼ばれる墓地群がある。セケルの名をとって、現在では「サッカラ」と呼ばれているが、実はサッカラこそがセケル信仰の発祥の地とされている。

セケル神、口開きの儀式を司る!?

セケルは、このネクロポリス(墓地群)の守護者であり、「ロ=セタウ(墓の地下通路の入り口)の主」とも呼ばれる。冥界(ドゥアト)への入り口を守護している(ちなみに「ロ=セタウの主」という称号はインプゥ(アヌビス)にも冠せられることがある)。

古代エジプトでは葬祭の中で「口開きの儀式」を執り行う。これは、死者があの世に行っても話したり、食べたりできるようにする儀式だ。セケルは「口開きの儀式」を司っている。亡くなった王を清めて「口開きの儀式」を司るのがセケルの主な役割だったようだ。このセケル信仰はアブジュ(アブデュス)やワセト(ルクソール、テーベ)など、エジプト全域に広がっていき、当時の主要な宗教センターには、大抵、セケルの礼拝堂があった。メロエ(現在のスーダンのハルツームから200キロメートルほど北)までセケル信仰が広がっていたことが分かっている。ただし、これだけ広範囲に信仰の跡が残るセケルだが、神話的なエピソードはほとんど残されていない。

セケルは本当は鍬入れを執り行う豊饒神!?

元々、セケルはメンフィス地方の古い神格で、大地の豊饒を司る性質を持っていたとされる。古王国時代の初期から、アケト季(増水季)の第4月に「セケル祭」が開催されていた記録が残されている。アケト季の第4月の下旬(11月中旬頃)は、ナイル河の増水が収まって、まさにこれから麦の種蒔きが始まる直前の時期で、第4月の22日には大地を開く「鍬入れ式」が執り行われ、23日から「セケルの道」の準備が開始された。25日になると人々はタマネギの首飾りをつけ、夜にセケル専用の船(ヘヌゥ)を橇(そり)の上に載せた。そしていよいよ26日は祭りの本番である「セケルの外出」で、船(ヘヌゥ)の上にセケル神の像を乗せて、メンフィスの町の外壁の周りを練り歩いたという。そして30日には安定の象徴である「ジェド(柱)」を建設して、豊饒を祈念するセケル祭は幕を閉じる。

セケルの豊饒神としての性質は、上エジプトで勢力を拡大していくウシル(オシリス)信仰と同一視されるようになり、次第にウシルの冥界神としての性質も併せ持つようになる。こうして、セケルは豊饒神から冥界神としても崇拝されるようになったと考えられている。

なお、メンフィスでは古くから鍛冶神ペテフ(プタハ)も信仰されており、職人たちの守護神として崇拝されていた。セケルもペテフと並んで職人たちの守護神としても崇拝されていたようだ。特にセケルは金属を扱う職人たちの守護神として崇拝されていた。古王国時代にはすでにペテフやウシルと習合して、ペテフ=セケル=ウシルとして信仰されていたようだ。

《参考文献》

Last update: 2025/02/16

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