ピーフォン

分 類ベトナム伝承
名 称 Phí Phông(ピーフォン)【ベトナム語】
容 姿非常に美しい姿。夜になるとさらに美しい姿に変身する。
特 徴吸血鬼。人間に混じって暮らし、夜になると赤ん坊や妊婦、病人の血を吸う。
出 典

絶世の美女は吸血鬼!?

ベトナムの吸血鬼と言えば、北部のマーカーゾンと南部のマーライがよく知られている。どちらも昼間は村の中に混ざって人間として暮らし、夜になると正体を現して人を襲う。マーカーゾンは足の親指を鼻の穴に突っ込んで空を飛び、マーライは首だけが身体から抜け出し、臓器をぶら下げて空を飛んで獲物を探しに行く。しかし、ベトナム北西部の少数民族であるターイ族の間では、それらとは別種の吸血鬼が知られている。それがピーフォンである。

ピーフォンは昼間は人間に混じって村で暮らしており、夜になると活動を開始して妊婦や子供、病人や老人を狙うなど、マーカーゾンとの共通点も多い。しかし、マーカーゾンの場合には額が赤いとか白目が多いなど、若干、人間と異なる特徴があるのに対して、ピーフォンの場合、非常に美しいという特徴以外は、ほとんど人間と容姿が変わらない。そのため、見分けることは非常に難しいようだ。

ピーフォンは鼻が利くとされ、昼間の間に村々を歩き回って匂いを嗅ぎ回る。そして、出産を間近にした妊婦や生まれたばかりの赤ん坊、怪我人や病人などがいる家を事前に入念に調査する。家族が警戒しているかどうかも下調べする。そして、夜になると、獲物を狙ってその家を訪問する。変身能力にも長け、イヌやネコなどに変身して獲物に近づくこともある。ピーフォンが家の周囲に現れると、ネコの鳴き声が聞こえるとも言われる。ピーフォンに血を吸われたものはシャーマンによる治療を受けなければ死んでしまうようだ。また、どうしても獲物が見つからない場合には、ピーフォンは家畜を喰らうこともある。

ピーフォンの吸血鬼の血は代々、一族に受け継がれていく。ピーフォン一族はそのほとんどが女性であるという。そのため、一族の中に非常に美しい娘がいると、その一族は村の中で結婚することは難しく、彼らは結婚相手を求めて別の村に行くしかないという。

ピーフォンは昼間もとても美しい姿をしているが、夜になるとさらに色白で美しい姿に変身する。そして夜が更けていけば更けていくほど、肌は薄緑色になり、より一層美しくなっていくという。狩りを終えたピーフォンは家に戻って来ると米の研ぎ汁で顔を洗って元の姿に戻る。この研ぎ汁は彼女だけのもので、万が一、変身中に他の人間が手を入れてしまうと、ピーフォンは元の姿に戻れず、朝になると醜い姿になってしまう。当然、正体がバレた吸血鬼は村人たちによって処刑されてしまう。

ピーフォン対策

ターイ族の間では、さまざまなピーフォン対策が講じられている。出産を控えた女性や幼い子供、療養中の家族がいる家では、千歳蘭(チトセラン)の葉を吊るしたり、魔除けを結んだり、寝具の脇に漁網を置いたりして、ピーフォンから身を護る。ピーフォンが鋭い鉄を恐れることから、枕元に小さなナイフを忍ばせておく方法も有効だ。

ピーフォンは血の臭いや魚の臭いに非常に敏感であるため、カエルの四肢を切り落としたものや魚を生焼けにしたものなどを持ち込むと、鼻をすすったり、かゆみや不快感を示すため、すぐに正体を特定することができると信じられている。

《参考文献》

Last update: 2025/06/08

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