アモヒカネ
分 類 | 日本神話 |
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思金神(オモヒカネノカミ)、常世思金神(トコヨノオモヒカネノカミ)〔記〕【日本語】 思兼神(オモヒカネノカミ)〔紀〕、八意思兼神(ヤゴコロオモヒカネノカミ)【日本語】 | |
特 徴 | 知恵の神。転じて学問や受験の神さま。アマテラスの岩戸隠れを解決し、葦原中國平定の派遣者の選定を行った。天孫降臨ではニニギに同行した。 |
出 典 | 『古事記』(8世紀頃)、『日本書紀』(8世紀頃)ほか |
高天原の知恵袋!?
オモヒカネは日本神話に登場する神。名前の「オモヒ」は《思慮》、「カネ」は《兼ね備える》という意味で、「ヤゴコロ」は《たくさんの知恵》という意味。名前が示すとおり、知恵の神で、高天原(たかまのはら)の知恵袋的な存在である。アマテラスが岩戸隠れしたときや、葦原中國(あしはらのなかつくに)に誰を派遣するか迷ったときなど、神々は困ったことがあるとオモヒカネに相談する。高天原を裏で仕切る陰の指令塔・タカミムスヒの息子なので、実は家柄のいい神でもある。
アマテラスを引っ張り出すためには「祭り」だ!?
オモヒカネのもっとも有名なエピソードは岩戸隠れの神話である。スサノヲの乱暴狼藉を恐れたアマテラスが岩屋に隠れてしまい、世界は真っ暗になってしまった。このとき、神々は天安河原(あめのやすかわら)に集まって相談をしたが、アマテラスを岩屋から連れ出す作戦を考えたのがオモヒカネである。彼の作戦は「祭り」を開催することだった。
まずは常世の長鳴鳥(ながなきどり)を集めると鳴かせた。これはニワトリのことで、ニワトリが鳴くと朝が来ることから、最初に太陽を呼ぶ儀式をしたわけである。次に天安河(あめのやすかわ)の上流にある天堅石(あめのかたしは)を取ってきて金槌とし、天金山(あめのかなやま)の鉄を採ってくると、アマツマラという鍛冶師に鍛えさせ、イシコリドメに命じて八咫鏡(やたのかがみ)を作らせた。そしてタマノオヤに命じて八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を作らせた。こうして祭りに必要な神器は揃った。
次にアメノコヤネとフトダマは太占(ふとまに、鹿の骨を焼くことで吉凶を占う古代日本の占術)をして、この作戦の成否を占った。それから、天香山(あまのかぐやま)に生えている榊(さかき,神事に用いる植物)を掘り出すと、上の枝には勾玉を、真ん中の枝には鏡をぶら下げ、下の枝には木綿と麻の布を垂らさせた。フトダマがこの木をアマテラスへの供え物として高く掲げ、アメノコヤネがアマテラスを讃える祝詞(のりと)を唱える。こうして、お祭りがスタートした。踊り手はアメノウズメだ。逆さまにした桶を踏み鳴らして、セクシーに舞い踊る。胸がはだけ、腰布を陰部まで下ろす。それを観た八百万の神々は喜びの歓声をあげた。
アマテラスは「自分が岩戸に隠れて、高天原も葦原中國も真っ暗なはずなのに、何故、みんな笑っているのか」と言いながら、岩戸を少しだけ開いた。アメノウズメは「あなたよりも尊い神さまがいらっしゃったので、我々は喜んでいるのだ」と答えた。アメノコヤネとフトダマが岩戸の隙間から鏡を差し出した。鏡に映る自分の姿を別の太陽神だと思ったアマテラスが岩戸から身を乗り出したところ、岩戸の脇に待機していた力持ちのアメノタヂカラヲが引っ張り出し、すかさずフトダマが岩屋の入口に縄を張って、岩戸を封印し、「これより内側に戻ってはなりません!」と宣言をした。こうして、この世界は再び太陽が戻ってきたのである。
葦原中國の平定は誰が適任か!?
オモヒカネの活躍はそれだけではない。葦原中國平定の神話では、葦原中國に派遣する神の選定を行っている。当時、葦原中國にはオオクニヌシを筆頭に、さまざまな國津神(くにつかみ)たちが住んでいて騒がしかった。そのため、誰かが国を譲るように説得に向かう必要があったのだ。オモヒカネは最初にアメノホヒを選定した。しかしアメノホヒはオオクニヌシの家来になってしまって3年経っても戻ってこない。そこで次はアメノワカヒコを選定した。しかしアメノワカヒコはオオクニヌシの娘と結婚すると、葦原中國を自分のものにしようと企てて、やはり8年経っても戻ってこなかった。そこでオモヒカネは雉(きじ)のナキメを遣わしたが、アメノワカヒコはそれを射殺した。ナキメを射抜いた矢は高天原まで届き、タカミムスヒは「アメノワカヒコに邪心があればアメノワカヒコに当たれ」と呪いをかけて矢を投げ返した。矢はアメノワカヒコに当たって死んだ。三度目の正直でオモヒカネはタケミカヅチを選定する。こうしてタケミカヅチがオオクニヌシと彼の二人の子供を説得して、無事に葦原中國は平定されたのである。
その後、天孫降臨でニニギが地上に降り立ったときに、オモヒカネはニニギに同行している。『先代旧事本紀』によれば、その後、オモヒカネは信濃国に降り立ち、阿智祝部(あちのはふりべ)という祭祀集団の祖神になったという。また、秩父国造の祖神になったとも言われている。
手斧初めの神さま、そして、お天気の神さまに!?
高天原の知恵袋だけあって、現在でも知恵の神、学問の神、受験の神として信仰されている。また、オモヒカネの「カネ」が大工道具の曲尺(かねじゃく)の「カネ」に通じるとして、大工さんが家を建てる前の手斧初め(ちょうなぞめ)の儀式を司る神としても崇拝されている。主に秩父神社(埼玉県)や阿智神社(長野県)、思金神社(神奈川県)などに祀られている。ちょっと変わったパターンとして、気象神社(東京都)ではお天気の神さまとして祀られている。これは、岩戸隠れした太陽を再びこの世に出現させた神さまだからなのだという。
《参考文献》
Last update: 2021/10/01