マハギリ・ナッ

分 類ミャンマー伝承
名 称 မဟာဂီရိနတ်məhà ɡìɹḭ naʔ〕(マハギリ・ナッ)《偉大なる山の精霊》【ミャンマー語】
မင်းမဟာဂီရိ(ミーン・マハギリ)《偉大なる山の主》【ミャンマー語】
မောင်တင့်တယ်(マウン・ティン・デ)《美男子》【ミャンマー語】
容 姿剣と団扇を持った男性神。6本腕のときにはたくさんの武器を持つ。
特 徴生きたまま焼かれて怨霊となり、その後、祀られてパガン王国の守護神になる。
出 典

マハギリ・ナッ、生きたまま焼かれて怨霊になる!?

マハギリ・ナッはポッパ山に祀られるパガン王国の守護神であり、37柱の精霊ナッの1柱である。ミャンマー(ビルマ)は仏教国として知られる一方、今でも根強く土着の精霊信仰が盛んで、さまざまな精霊ナッが信じられている。政治的な理由で仏教のザジャー・ナッ(帝釈天)が37柱の精霊ナッを率いているが、土着のナッとしては、実質、マハギリ・ナッがトップである。

マハギリ・ナッは、元々は鍛冶屋ウ・ティン・ドウの息子のマウン・ティン・デという名前の人間だった。彼は父親にも勝る勇敢さと怪力を備え、軽々とゾウの牙を折ってみせたという。この噂を聞いた当時のタガウン朝の王さまは、マウン・ティン・デが自分の地位を簒奪するのではないかと恐れ、彼を亡き者にしようと画策した。それを知ったマウン・ティン・デはジャングルに姿を隠して暮らしていた。王はマウン・ティン・デの妹のシュエ・ミェッ・ナーを後宮に妻として迎え入れると、王妃の兄であるマウン・ティン・デには高い地位を与えるべきだと、マウン・ティン・デを王宮に呼び寄せるように仕向けた。王室のお達しを受けてマウン・ティン・デが王宮にやって来ると、タガウン王は約束を違えて彼を引っ捕らえ、ジャスミンの樹に縛り上げると、生きたまんま焼き殺してしまった。炎の中で苦しむ弟の姿を見たシュエ・ミェッ・ナーもマウン・ティン・デを助け出そうと火の中に飛び込んだ。王が妃を救おうと火を消したが、ときすでに遅く、兄妹の頭部だけが焼け残ったという。

以降、彼らは強力な精霊ナッとなり、ジャスミンの樹にとり憑いて、樹に近づいた人間や獣を呪い殺すようになった。

マハギリ・ナッ、漂流してパガン王国の守護神になる!?

タガウン王は、樹を根元から切り倒して、エーヤワディー河に流すように指示した。ジャスミンの樹は下流にあるティンリーチャウン王が統治するパガン王国に流れ着いた。精霊たちはティンリーチャウン王の夢に出現し、これまでの苦境を訴え、住み処を提供するように要求した。王はすぐにジャスミンの樹を河から引き上げると、2つの首を彫り出させ、金箔で飾ってポッパ山の寺院に丁寧に安置した。こうして、マウン・ティン・デは「ミーン・マハギリ《偉大なる山の主》」、シュエ・ミェッ・ナーは「ナマードゥ・チー《偉大なる妹》」と呼ばれるようになり、マハギリ・ナッ、ナマードゥ・ナッとして、パガン王国の守護神となったのである。

現在でも、パガン遺跡のタラバ門には左右にマハギリ・ナッとナマードゥ・ナッが安置されている。

マハギリ・ナッにヤシの実をお供えせよ!?

やがて、マハギリ・ナッ信仰は庶民の間にも広まり、彼は家の守護神にもなった。ミャンマーの家の南側には、しばしばヤシの実が祀られているが、これは家の守護神であるマハギリ・ナッへの供え物である。ヤシの実の果汁が、焚刑に処せられたマハギリ・ナッの心を鎮めると信じられている。

《参考文献》

  • 『The Thirty-Seven Nats: A Phase of Spirit-Worship prevailing in Burma』(著:Sir Richard Carnac Temple,1906年)

Last update: 2021/09/30

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