ザジャー・ナッ

分 類ミャンマー伝承
名 称 သိကြားနတ်ðədʑámɪ́ɰ̃ naʔ〕(ザジャー・ナッ)《帝釈天の精霊》【ミャンマー語】
သိကြားမင်းðədʑámɪ́ɰ̃〕(ザジャー・ミーン)《偉大なる帝釈天》【ミャンマー語】
容 姿甲冑に身を包み、法螺貝と払子を持った男性。頭が3つある白象に乗る。/td>
特 徴37人のナッを統治する。
出 典

ミャンマーの精霊たちを統べるのは「帝釈天」!?

ミャンマー(ビルマ)は仏教国として知られる一方、今でも根強く土着の精霊信仰が盛んで、さまざまな精霊(ナッ)がいる。その中でも特に強力な「37柱の精霊ナッ」が公式のものとして特に崇拝されている。そんなナッたちのトップに君臨するのがザジャー・ナッである。ザジャー・ナッは甲冑に身を包み、法螺貝とヤクの尾で出来た払子を持ち、頭が3つある白象に乗った姿で描かれる。

何を隠そうザジャー・ナッの正体は、仏教の帝釈天である。11世紀、パガン朝(ビルマ族最初の王朝)のアノーヤタ王は、上座部仏教を軸にした国家づくりを推し進めていた。このときに、土着の精霊信仰が大きな障害となった。そこでアノーヤタ王はナッたちの中から特に強大なものを選び出し、その頂点にザジャー(帝釈天)を据えて、公式のナッの集団を作った。これが次第に37柱となって、現在に至るのである。頂点にザジャー(帝釈天)を置くことで、ナッ信仰を合理的に仏教の中に取り込もうとしたわけである。

【コラム】仏教の帝釈天も元々はバラモン教の神さま!?

もともと、インドで生まれた仏教も、実のところ、インドの土着のバラモン教を排除できなかった。仏教で、帝釈天や毘沙門天など、後ろに「~天」と名前がつく存在は、バラモン教の神さまが仏教に取り込まれたものである。こういう集団を仏教では「天部」というが、帝釈天はバラモン教の神々の王インドラが仏教に取り込まれたもので、天部のトップに君臨している。アノーヤタ王は同じやり方を使って、天部の王である帝釈天(ザジャー)を精霊ナッたちの王に据えて、ナッたちを天部の下に配置しようと試みたのである。

37柱の精霊ナッは、大抵の場合、非業の死を遂げ、死後に精霊ナッと化した。しかし、唯一、この公式の集団の中で、ザジャー・ナッだけが、そのような暴力的な死に遭遇していないのは、このような政治的な理由でナッの上に君臨しているからである。

ちなみに、仏教では帝釈天には32柱の補佐官がいて、帝釈天を含めて「三十三天」に住んでいる。従って、37柱の精霊ナッも、本来は、33人だったのではないかとの説もあるが、詳細は分からない。時代を経て、いろいろな有力なナッ神が加えられたり外されたりして、現在では、37柱に納まっている。

《参考文献》

  • 『The Thirty-Seven Nats: A Phase of Spirit-Worship prevailing in Burma』(著:Sir Richard Carnac Temple,1906年)

Last update: 2021/09/30

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