フゥト・ヘル

分 類エジプト神話
名 称 𓉞𓁷𓂋𓁥 〔ḥwt-ḥr〕(フゥト・ヘル)《ヘルの館》【古代エジプト語】
Ἁθώρ(ハトール)【古代ギリシア語】
容 姿太陽円盤とウシの角の冠をかぶった女神。あるいは牝ウシの頭、あるいは牝ウシの耳を持った女神。
特 徴王の母。妊娠・出産、音楽、酒など多様なものを司る女神。
出 典

天の女神、王の家庭を守護する!?

フゥト・ヘルはエジプト神話の女神。古代ギリシア語の「ハトホル(ハトール)」という呼称の方がよく知られる。牝ウシの頭部を持った女神、あるいは太陽円盤とウシの角を組み合わせた冠をかぶった女神、牝ウシの耳を持った女神として描かれる。イウネト(現デンデラ)が信仰の中心地だが、エジプト各地、また周辺国にも多数、神殿が建てられた。

フゥト・ヘルの名前の意味は《ヘルの館》だと考えられている。おそらく、その起源は天の女神で、天空神ヘル(ホルス)と結びついていた。ヘルは現世の王の化身であるため、《ヘルの館》の名が示すとおり、王の家庭を司る女神とされ、王の母としても信仰された。そのため、先王の妃がフゥト・ヘルの化身と考えられ、フゥト・ヘルと同じ太陽円盤とウシの角の冠をかぶった。ヘル神の母はアセト(イシス)であるため、アセトがフゥト・ヘルの姿で描かれることがあった。また、「母」という属性から、ムゥト女神と結びつき、妊娠や出産を守護する女神とされた。

祭儀、音楽、踊り、酒の女神!?

フゥト・ヘルの祭儀はエジプト各地の聖地で行われていて、年中行事になっていた。シストルムという楽器を打ち鳴らす祭儀があるが、そこから派生して、歌や踊りや音楽、そして、音楽が奏でられる祝祭の場には欠かせないビールやワインなどのアルコール飲料もフゥト・ヘルの属性となった。

フゥト・ヘルは太陽神の眼!?

太陽信仰が盛んになると、フゥト・ヘルは太陽神ラーの妻、あるいは娘とされ、身体は黄金に輝くとされた。太陽の航行中に邪悪な敵を退治する「イレト・ラー(ラーの眼)」の称号を与えられた。フゥト・ヘルが太陽円盤を頭に戴いているのはこのためである。

フゥト・ヘル、夕日と死者を迎え入れる!?

フゥト・ヘルは、ワセト(現ルクソール)では「ネベト・アメンテト《西方の女主人》」と呼ばれ、パピルスの茂みから首をのぞかせた姿、あるいは「西」のヒエログリフを頭上に戴いた姿で描かれた。夕方、二子に沈む太陽を迎え入れる女神でもあった。同時に死者を迎え入れ、守護する女神と考えられていた。

フゥト・ヘル(ハトホル)信仰はアセト(イシス)とともにローマ世界にも広がり、アプロディーテーと同一視された。

《参考文献》

Last update: 2020/04/25

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