アザゼル
分 類 | ユダヤ・キリスト教、魔法書文献 |
---|---|
Azazel(アザゼル)【英語】 עֲזָאזֵל(アザーゼール)【ヘブライ語】 አሳኤል(アーサエール)【古代エチオピア語(ゲエズ語)】 | |
容 姿 | 堕天使。 |
特 徴 | 人間に武器、化粧、宝石などを教えて堕落させた。 |
出 典 | 『レビ記』、『エノク書』(前2~前1世紀)ほか |
人間に武器、化粧、宝石を教えた堕天使!?
アザゼルはユダヤ・キリスト教の堕天使である。旧約聖書の『レビ記』にその名前が登場する。また、旧約聖書偽典『エノク書』ではグリゴリを率いる指導者の1人として、人間の女性を妻に娶って、人類に武器や化粧、宝石などを教えた。これによって人類は堕落し、ラファエルによって捕らえられた。
アザゼルのために罪を背負ったヤギが捧げられる!?
アザゼルは旧約聖書『レビ記』で、祭司アロンが執り行うべき儀式の説明の中でその名前が言及されている。
そしてアロンは自分のための罪祭の雄牛をささげて、自分と自分の家族のために、あがないをしなければならない。アロンはまた二頭のやぎを取り、それを会見の幕屋の入口で主の前に立たせ、その二頭のやぎのために、くじを引かなければならない。すなわち一つのくじは主のため、一つのくじはアザゼルのためである。そしてアロンは主のためのくじに当ったやぎをささげて、これを罪祭としなければならない。しかし、アザゼルのためのくじに当ったやぎは、主の前に生かしておき、これをもって、あがないをなし、これをアザゼルのために、荒野に送らなければならない。
(『旧約聖書』「レビ記」16章6~10節より)
ここでは、儀式の方法として、供物として雄のヤギ2頭を準備して、一方を神に奉げるために祭壇で屠り、もう一方をアザゼルに捧げるために生きたまま荒野(砂漠)に放つと説明されている。『レビ記』で言及されているアザゼルが何を意味していたのかは、実はよく分かっていない。荒野の脅威を具現化した超自然的な存在だったのか、荒野の精霊、あるいはセム人にとっての牧畜に関わる神だった可能性もあるが、いずれにしても、ヤギの一方は神に奉げられ、一方はアザゼルのために放たれた。
このような2匹のヤギを用いた儀式の起源は非常に古いようで、すでにエブラ王国(前2500年~前2000年)の頃から実施されていて、シリアを中心に中近東に広まっていったという。
この儀式は人間の罪をヤギが代わりに背負ってくれると解釈される。生け贄のことを「スケープゴート」というのはこの儀式に由来する。
人間を堕落させた張本人!?
旧約聖書偽典『エノク書』によれば、200人の天使の一団が地上を監視していた。この一団をグリゴリと言って、シェムハザやアザゼルなどの天使に率いられていた。しかし、あるとき、天使たちは地上の女性に魅了され、全員で女性を妻に娶ることにして地上に降り立った。そして、女性と交わって子供をつくり、さまざまな知識を人間たちに与えた。特にアザゼルは武器や防具、化粧、宝石や装飾品などを人々に教えたとされる。これによって女性たちは過剰に着飾るようになり、男性たちは互いに武器で争うようになった。また、グリゴリと人間の女性の間に生まれた子供たちはネフィリムと呼ばれる巨人になり、地上を大混乱に陥れた。神は地上の様子を眺めると、遂にラファエルにアザゼルの討伐を命じた。アザゼルは荒野の穴に放り込まれ、罰として70世代に亘って幽閉されることになった。
『エノク書』10章8節には「アザゼルが教えた行いによって全地は堕落した。すべての罪は彼に帰せられる」と書かれている。どうやら、人々の堕落はアザゼルのせいだとされたようだ。また、神はこの事件をきっかけに地上をリセットするために大洪水を引き起こした。これがノアの方舟の大洪水である。
コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』に描かれるアザゼル
フランスの文筆家コラン・ド・プランシーが1818年にまとめた『地獄の辞典』は改訂を重ね、1863年の第6版ではブレトンの悪魔の挿絵が加わった。その中でも「アザゼル」として紹介されている。
Azazel, démon du second ordre, gardien du bouc. A la fête de l'Expiation, que les Juifs célébraient le dixième jour du septième mois*, on amenait au grand prêtre deux boucs qu'il tirait au sort: l'un pour le Seigneur, l'autre pour Azazel. Celui sur qui tombait le sort du Seigneur était immolé, et son sang servait pour l'expiation. Le grand prêtre mettait ensuite ses deux mains sur la tête de l'autre, confessait ses péchés et ceux du peuple, en chargeait cet animal, qui était alors conduit dans le désert et mis en liberté; et le peuple, ayant laissé au bouc d'Azazel, appelé aussi le bouc émissaire, lesoin de ses iniquités, s'en retournait en silence. ---Selon Milton, Azazel est le premier porte-enseigne des armées infernales. C'est aussi le nom du démon dont se servait, pour ses prestiges, l'hérétique Marc.
* Le septième mois chez les Juifs répondait à septembre.
アザゼルは2級の悪魔で、ヤギの守護者である。ユダヤ人が第7の月*の10日に祝った贖罪の日、2頭のヤギが大司祭のもとに連れて来られ、大司祭はくじを引いた。1頭は主に、もう1頭はアザゼルに割り当てられた。主の運命となったヤギは焼かれ、その血は贖罪のために使われた。それから大司祭はもう一頭の頭の上に両手を置いて、自分と人々の罪を告白し、この獣を告発してから砂漠に連れて行き、解放した。人々は自分たちの悪行を始末するために、スケープゴートとも呼ばれるアザゼルのヤギを残して、黙って引き返す。 ---ミルトンによれば、アザゼルは地獄の軍隊の第1旗手である。異端者マルクが自分の威信のために用いた悪魔も同名である。
* ユダヤ人にとって第7の月は9月に相当する。
(コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より)
《参考文献》
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
- 『Dictionnaire Infernal』(著:J. Collin de Plancy, 1863年)
Last update: 2024/09/09