滝夜叉姫(たきやしゃひめ)

分 類日本伝承
名 称 滝夜叉姫(たきやしゃひめ)【日本語】
容 姿着物に身を包んだ美女。
特 徴平将門の意志を継ぎ、朝廷に謀反を企てる。
出 典山東京伝『善知安方忠義伝』(1806年)ほか

平将門の娘、ガマの呪いで朝廷に叛逆する!?

滝夜叉姫(たきやしゃひめ)は平安時代の伝説上の妖術使いである。江戸時代の山東京伝『善知安方忠義伝』(1806年)に登場する。

滝夜叉姫は平将門の三女とされ、父の将門が承平天慶の乱で朝敵として討伐され、一族郎党が滅ぼされる中、彼女だけは奥州(福島県の恵日寺とされる)に逃げ延びたとされる。そこで出家し、法名を如月尼(にょげつに)と改めて、地蔵菩薩に帰依し、父親の菩提を弔っていた。

実は、死の直前、平将門には、妾との間に息子が生まれていたが、如月尼は生まれたばかりの将門の子を引きとって密かに奥州で育てていた。息子は平太郎と名付けられ、如月尼の下ですくすくと育ったが、父親譲りでとても逞しかった。しかし、如月尼は彼を朝敵の胤としないため、出家させようと尽力した。

ガマガエルの精霊にとり憑かれて妖怪に!?

しかし、15歳になった平太郎は、3000年を生きたという邪悪なガマガエルの精霊である肉芝仙に出会い、自らの生い立ちを知る。平太郎はガマの呪術を会得すると平良門(たいらのよしかど)と名乗り、すっかり仇討ちを決意した。如月尼は必死で平太郎を説き伏せようとしたが、平太郎の呪術により、ガマガエルの精霊が如月尼にとり憑いた。すると、みるみるうちに信心深かった如月尼は滝夜叉姫に変化し「私が間違っていた。私も将門の娘。父の意志を継ぐ!!」と宣言した。

こうして、滝夜叉姫と平良門は下総国へ戻り、朝廷に反旗を翻すべく仲間たちを集め始めた。平良門が仲間を集めに方々を旅する間、滝夜叉姫は筑波山で丑の刻詣りをし、すっかりと妖術を身につけた。

こうして、滝夜叉姫は、かつての平将門の居城であった相馬内裏に陣を構え、相馬内裏に近づく人間がいるたびに、滝夜叉姫は妖術を使って人々を脅かし、臆病な人間は切り殺し、剛胆な人間は仲間に引き入れていた。

妖怪の巣窟に大宅太郎が挑戦する!?

そうこうするうちに、次第に古びた相馬内裏には妖怪が出るという噂が流れはじめた。その噂を聞きつけて、勇敢な大宅太郎光国は「妖怪を見てやろう」とばかりに相馬内裏にやってくる。滝夜叉姫は呪術を駆使して大宅太郎を脅かす。数百の骸骨(ガシャドクロも参照)が出現して合戦を始めたり、老若男女の幽霊が生首を数珠のように繋いで出現したり、さまざまな化け物が入れ替わり立ち代わり、大宅太郎を襲い掛かるが、大宅太郎はまるで動じない。最終的には滝夜叉姫の部下たちも武器を持って加勢するが、大宅太郎は強く、なかなか勝負がつかない。いよいよ大宅太郎は滝夜叉姫の元まで辿り着いた。

滝夜叉姫は大宅太郎の大胆不敵さに感心し、自ら名を名乗り、朝廷に叛逆する計画を打ち明け、大宅太郎を仲間に引き入れようと、血判状に名前を書くように迫る。大宅太郎は「朝廷に仇なして家名を汚すことはできない」断るが、滝夜叉姫の部下の荒猪丸に腕を射られ、腕から滴った血が血判状に流れ落ちた。大宅太郎は観念し、血判状に「堀江次郎当春」と偽りの名前を記した。滝夜叉姫は大宅太郎のために酒宴を開き、もてなす。その酒宴の中で、大宅太郎は歌を披露する。滝夜叉姫は文武両道に喜び、自分の夫となるように誘惑する。大宅太郎が断ると、滝夜叉姫は大宅太郎にもっと近づくように言う。その瞬間、滝夜叉姫は大宅太郎がこっそりと懐に忍ばせていた刀を掴むと「味方の振りをして懐に刀を隠している。堀江次郎当春というのは大嘘で、本当は大宅太郎であろう」と言った。さすがの大宅太郎も驚いて逃げ出した。「曲者だ! みんな出てこい!!」という滝夜叉姫の掛け声で、たくさんの侍女たちが薙刀で襲い掛かったが、大宅太郎は畳を引っくり返してこれを防ぐと、灯りを消した。そして障子を蹴り破って堀に飛び込んで、逃走した。滝夜叉姫は自分たちが相馬内裏に潜んで一族再興を画策していることが露見することを恐れて追手を差し向ける。

追い詰められた滝夜叉姫、自害する!?

実は、大宅太郎は酒宴の中で、かつての自分の妻が滝夜叉姫の侍女として囚われているのを発見し、彼女の手引きで、うまく逃げ出すと、火薬庫を発見し、石火矢(火薬の大砲)に火をつけた。石火矢の大音量が鳴り響き、森の鳥たちが驚いて飛び上がった。この轟音を合図に、朝廷から送り込まれていた軍勢は相馬内裏を取り囲んだ。滝夜叉姫の仲間たちは、大軍を前に、もはやこれは逃げられないと滝夜叉姫に良門のいる越中立山に逃れるように言うと、次々と出陣し、敗北していった。この軍勢を率いていたのは源頼信だった。滝夜叉姫は遂に燃え上がる古内裏に追い詰められ、もはやこれまでと「私は平将門の娘だ。私の最期をよく見届けよ!」と刀を脇腹に突き立てて自害を図った。お供の侍女たちも泣きながら次々と火の中へと飛び込んでいった。その瞬間、とり憑いていたガマガエルの精霊が滝夜叉姫の胸の間から飛び出した。滝夜叉姫は正気に返った。これまでの悪事を何ひとつ覚えておらず、何故、自分が自害しようとしているのかも分からず、彼女は炎の中で念仏を唱えた。燃え落ちた天井が落ちて来て姫の屍を燃やし尽くした。

本来は信心深い美女だった!?

以上は『善知安方忠義伝』の顛末である。その後、逃げ出したガマガエルの精霊と平良門の物語はまだまだ続くが、恐ろしき滝夜叉姫は源頼信によって果てた。

このように恐ろしい滝夜叉姫であるが、実際に平将門には娘がいて、三女は奥州の恵日寺に単身、逃げ延びたとされる。そこで出家して、法名を如蔵尼(にょぞうに)と改めて、地蔵菩薩に深く帰依し、80歳ほどで入滅したとされる。

《参考文献》

Last update: 2022/10/01

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