ソンガクシ(孫閣氏)
| 分 類 | 朝鮮伝承 |
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손각시 〔son-gag-si〕(ソンガクシ)《孫閣氏》【朝鮮語】 처녀귀신 〔cheo-nyeo-gwi-sin〕(チョニョグィシン)《処女鬼神》【朝鮮語】 | |
| 容 姿 | 若い女性の幽霊。 |
| 特 徴 | 未婚のまま死んだ怨みを抱え、悪霊となる。 |
| 出 典 | 柳夢寅『於于野譚』(1621年頃)ほか |
ソンガクシは未婚の女の怨み!?
ソンガクシ(孫閣氏)は朝鮮半島の伝承に登場する幽霊。未婚のまま亡くなった女性の幽霊で、チョニョグィシン(処女鬼神)とも呼ばれる。
ソンガクシは朝鮮半島の幽霊たちの中でもとりわけ執念深く、凶暴で恐ろしい存在の一人である。というのも、古い儒教社会においては、女性は結婚して跡取りを産み、夫の家を先祖供養してもらうことが重要だとされていた。そのため、結婚できずに死ぬことは、死後、祀ってくれる子孫がいない無縁仏になることを意味した。その強い怨み(ハン)が死後、恐ろしい悪霊になると考えられたわけである。
一般的にソンガクシは白、あるいは麻色のソボク(素服:喪服のこと)を着ている。長い髪は後ろに結ばずに乱れ髪になっていて、血の気のない青白い顔をしているという。
ソンガクシは婚礼を控えた若い女性や健康的な若い女性にとり憑いて病にしたり、死に追いやって道連れにしたりする。村で若い女性たちが相次いで死ぬと「ソンガクシの仕業だ」と恐れられた。
未婚のまま死んだ男性の幽霊はモンダルグィ(夢達鬼)と呼ばれる。モンダルグィは結婚できなかったことそのものに執着することが多いが、ソンガクシは結婚できなかったことだけでなく、社会的地位、無念さなど、より複雑で深い怨み(ハン)を抱えているため、より強力な存在となるとされる。
現在では「孫閣氏」などと漢字が当てられることもあるが、元々、손(ソン)は《幽霊》、각시(カクシ)は《花嫁》という意味の朝鮮半島の固有語で、「幽霊のお嫁さん」という意味にも解釈できる。
ソンガクシ対策
ソンガクシがあまりにも強力なため、その怨みを鎮めるために、さまざまな儀式が執り行われた。たとえば、未婚のまま女性が死ぬと、遺体を通常の向きとは逆にうつ伏せにして埋葬したり、棺の周りに茨などの棘のある植物を敷き詰めたりした。ソンガクシが墓から這い出してくるのを防ぐ呪術的な措置である。棺の底に男性用の衣服を敷く地域もあった。
また、冥婚(ミョンホン)と言って、同じく未婚のまま死んだ男性の幽霊(モンダルグィ)と死後、結婚させる儀式を執り行うこともある。これによって、お互いに未練が解消されて、成仏すると信じられた。なお、冥婚は中国や台湾、シンガポールやマレーシア、ベトナムなどアジア各地で知られる儀式である。
うつ伏せでの埋葬や、棺内への棘のある植物などの敷き詰めなどは、スラヴの吸血鬼でも同様のアプローチがとられる。死者の復活を防止する手段は世界各地で同様である。
ソンガクシ、地方官をショック死させる!?
慶尚南道(キョンサンナムト)の密陽(ミリャン)に、ソンガクシが登場する恐ろしい話が伝わっている。登場する人物の名前は伝承によって異同があるが、概ね、以下のような粗筋である。
李氏朝鮮の第13代国王の明宗(ミョンジョン)の時代だとされるが、密陽に赴任した府使(プサ:地方官のこと)に、尹貞玉(ユン・ジョンオク)という美しい娘がいて、みんなから「阿娘(アラン:お嬢ちゃんの意)」と呼ばれていた。
あるとき、下級役人の白歌(ペッカ)は、彼女の乳母と共謀して、ユン・ジョンオクを手籠めにしようとした。彼女は自らの貞節を守るために激しく抵抗し、怒ったペッカは彼女を切り殺して竹林に遺棄してしまった。ユン・ジョンオクの父親は「娘が誰か駆け落ちした」という周囲の噂を信じ込み、家名の恥だと職を辞して、漢陽(ハニャン:現在のソウル)へ帰ってしまった。
その後、密陽には次々と新しい府使が赴任してくる。しかし、何故か赴任した最初の夜に全員がショック死を遂げてしまった。やがて、密陽には恐ろしい呪いがあると噂されるようになり、誰もその土地への赴任を希望しなくなった。
あるとき、李上舎(イ・サンサ)という勇敢かつ聡明な男が志願して赴任してきた。最初の夜、部屋で蝋燭を灯して読書をしていると、胸に刃物が刺さって血を流した女性の幽霊が現れた。イ・サンサは怯むことなく「お前は何か。怨みがあるなら申せ」と話しかけた。ユン・ジョンオクは自分がペッカに殺されて竹林に捨てられていることを告げた。そして、これまで赴任してきた府使は、みんな、自分の姿を見てショック死したのだと説明した。
翌朝、イ・サンサはペッカを厳しく取り調べて処刑した。それから竹林を捜索すると、腐敗することなく生前の美しい姿のままの娘の遺体が発見された。イ・サンサは手厚く葬儀を執り行い、墓を建設した。それ以降、密陽に彼女の幽霊は現れなくなったという。
密陽川の畔には現在でも「阿娘閣(アランガク)」という祠が建てられている。また、今でも毎年「阿娘祭(アランジェ)」というお祭りが開催されているらしい。
ソンガクシ、男性を破滅させる!?
さきほどのアラン説話は勇敢な男性が真摯な対応をして成仏する物語だったが、悲惨な目に遭う物語もある。
柳夢寅(ユ・モンイン)の『於于野譚(オウヤダム)』(1621年頃)によれば、科挙の試験を受けるために漢陽に向かっていた申砬(シン・リプ)は、深い山の中で道に迷う。夜遅くに大きな邸宅を発見して入ると、美しい女性が一人で泣いていた。話を聞くと、家中の人々が凶悪な悪霊に皆殺しにされ、今夜は自分が悪霊の妻にされる運命だという。シン・リプは「私が退治してやろう」と請け負って、邸宅に泊まる。深夜、襲い掛かってきた悪霊を弓で退治し、見事に彼女を救い出した。
身寄りのない彼女は、側室でもいいから一緒に連れて行ってくれと懇願する。しかし、シン・リプは真面目で堅物な男で、自分には妻がいるから連れていけないと断った。彼女は絶望し、家に火を放って身投げして死んだ。シン・リプは激しい炎の中で死んでいく彼女を見つけることしかできなかった。
それから月日が流れ、シン・リプは北方の女真族を討伐した朝鮮最高の猛将として名を馳せた。1592年、文禄の役で豊臣秀吉の軍が朝鮮半島を襲った。破竹の勢いで北上する日本軍を食い止めるため、シン・リプは忠州(チュンジュ)へ向かった。当時、部下たちは聞慶鳥嶺(ムンギョンセジェ)に兵を配して日本軍を迎え撃つべきだと強く主張した。地の利を考えれば、それが唯一の勝機だった。シン・リプも当初はそのつもりで地形を偵察していた。
しかし、その夜、シン・リプの夢にかつて炎の中で死んだソンガクシが現れた。そして、「狭い山道にこもっては、日本軍の餌食になるだけ。広大な平地である弾琴台(タングムデ)で背水の陣を敷けば、必ずや日本軍を粉砕できる」と言った。目を覚まして夢のお告げを信じ込んだシン・リプは、周囲の反対を押し切って聞慶鳥嶺を放棄し、弾琴台に軍を移動させる。その結果、朝鮮軍は全滅し、シン・リプは後悔とともに自決した。人々は「ソンガクシがシン・リプを破滅させるために現れた」と噂したという。この幽霊も未婚のまま死んだ女性の霊であり、ソンガクシの一種と言えるだろう。
民衆に絶大の信頼を得ていた国民的英雄が、どうしてあっという間に敗北を喫したのか。当時の人々にとってはあまりにも受け入れがたい出来事だったため、敗北を幽霊の仕業だと説明したのかもしれない。
《参考文献》
- 『한국 요괴 도감』(著:고성배,2019年)(韓国語)
Last update: 2026/05/17
