サラターン
| 分 類 | アラビア伝承 |
|---|---|
|
سرطان〔saraṭān〕(サラターン)《カニ》【アラビア語】 | |
| 容 姿 | 巨大なカニ。 |
| 特 徴 | 島だと勘違いして上陸すると海に沈んで船乗りたちが溺れてしまう。 |
| 出 典 | ジャヒーズ『動物の書』(9世紀)ほか |
巨大なカニに上陸してその背で焚き火をする!?
サラターンはアラビア伝承に登場する海の怪物。非常に巨大なカニのような怪物で、海の上に浮かぶ姿はまるで島のようだという。
アラビアの博物学者のジャヒーズは『動物の書』(9世紀)の中でサラターンに言及している。彼は「自分の目で見たと断言できる人にはまだ会ったことがない」と慎重な姿勢を示しながらも、かりに船乗りたちの話を信じるならば、上陸したこの怪物の甲羅は森や谷、渓谷がある陸地のようで、うっかり船乗りたちが陸地で焚き火をしたら、背中に火を感じた怪物は急に海の底に沈み込み、たくさんの船乗りたちが溺れ死んだというエピソードを紹介している。
同様の話は『アルフ・ライラ・ワ・ライラ(千一夜)』にも載っていて、船乗りのシンドバードが遭遇している。そこでは「サラターン」という名前こそ登場しないが、船乗りたちが島と誤って上陸し、陸で火を起こした瞬間に島が海の底に沈んでしまう。その結果、シンドバードは海に投げ出されるが、浮かんでいた桶を掴んだために何とか近くの島に流れ着くことができたという物語になっている。
これらの伝承が明らかにヨーロッパの『フィシオロゴス』(2世紀)などのアスピドケローネーの影響を受けていることは間違いない。アスピドケローネーは巨大な魚やカメとして描写されるのに対して、イスラームではカニと表現されている点は面白い。
ちなみに、ザカリーヤー・カズウィーニーは博物誌『被造物の驚異と万物の珍奇』(13世紀)の中で船乗りが上陸して火をつけて島が動き出すという似たような話を紹介しているが、ここでは巨大なカメだと説明している。
巨大なカメの怪物「ザラタン」!?
ホルヘ・ルイス・ボルヘスは『幻獣辞典』(1969年)の中で、ジャーヒズの『動物の書』を引用してこの怪物を紹介しているが、何故かスペルは「ザラタン(Zaratan)」として紹介している。また、原文にはあった甲殻類という文章を省いており、ザラタンは巨大なカメの怪物という言説の原因となった。
《参考文献》
Last update: 2025/03/31
