ナンナ/シン
分 類 | メソポタミア神話 |
---|---|
𒀭𒋀𒆠〔dŠEŠ.KI,dNANNA〕(ナンナ)【シュメル語】 𒀭𒂗𒍪〔iluen.zu,ilusin〕(シン)《知恵の王》【アッカド語】 ※楔形文字の表示には対応フォント(Noto Sans Cuneiformなど)が必要です。 | |
容 姿 | ラピスラズリの髭をはやした老人。有翼の牡牛に乗ることも。三日月の武器を持つ。 |
特 徴 | 月神。月の運行、月の光、暦、農業、出産を司る。ウルおよびハランの都市神。 |
出 典 | 『エンリル神とニンリル女神』ほか |
月の運行を司る年老いた神さま!?
ナンナはシュメル神話に登場する月神。アッカド神話の月神シンと同一視され、習合していった。月の神なので、三日月をシンボルとしており、ラピスラズリの髭(ひげ)を持った老人として描かれた。また、三日月を武器とし、しばしば、翼をはやした牡牛に乗った姿で描かれた。牡牛と結びつけられたのは、牡牛の角が三日月と似ていたからだと考えられている。
古代シュメルでは、早くから占星術が発達し、月の満ち欠けによる太陰暦が採用され、60進法も考案された。従って、月は非常に重要な存在であり、その神さまであるナンナ/シンも重要な神さまとして、崇拝の対象となった。それぞれ神々には決まった数字が割り当てられており、「30」という数字はナンナ/シンを表しているが、これは1か月が30日であることに由来するものである。
また、ナンナ/シンは、月の運行と結びつけられ、夜になると月の舟に乗って、空からこの世界を照らしていると考えられた。このため、彼は闇夜に紛れて行われる悪事を暴き、暗闇にはびこる悪霊を退散させる存在と考えられた。
月神は暦に農業に出産も司る!?
ナンナ/シンには崇拝の中心地が2か所あって、そのうちのひとつがウル市である。ウル市はシュメル最古の都市国家であり、この地には、ナンナ/シンのために《大いなる光の家》を意味するエギシュシルガル神殿が建てられた。
暦を司るナンナ/シンは、農業とも結びつけられた。ウル市では、水源の沼の水位をあげて、農作物の繁栄を約束してくれる神だった。また、月は出産にも結びつき、ナンナ/シンは安産を約束してくれる神さまとしても崇拝された。
ウル市では、彼が半ば一神教的に崇拝されていた痕跡があり、他の神々の神話に取り込まれた後も、しばしば、最高神として崇拝されていたと考えられている。その証拠に、しばしば、ナンナ/シンは「神々の父」、「神々の長」、「全ての創造者」などと呼びかけられている。
月神は、交易商人たちにとっても重要!?
もうひとつの崇拝の中心地はハラン市で、ハラン市にはナンナ/シンのために、《喜びの家》を意味するエクルクル神殿が建てられた。都市の名前である「ハラン」とは《隊商》という意味であるが、交易商人たちにとっても、仕事の取りかかりの時期などを決めるために、暦は非常に重要なものだったため、ナンナ/シンは重要な神として崇拝された。同様に、その他の商業都市でも、ナンナ/シンは篤く崇拝されていた。
穏やかな月神の驚愕の過去!?
ナンナ/シンは月神であるため、非常に穏やかな性格の神として描かれるが、その出生については非常にショッキングなものである。あるとき、風神エンリルは、ヌンビルドゥ運河で水浴びしている穀物の女神ニンリルを発見すると、そのまま強姦したのである。そのときにニンリルが身ごもった子がナンナ/シンであった。エンリルは最高神でありながら、この事件によって神々に裁かれ、冥界へ堕とされることとなる。一方のニンリルは、この一件以来、エンリルを忘れることができずに、ナンナ/シンをお腹に宿したままエンリルを追って冥界へ行き、そこでナンナ/シンを産んだ。こうして、ナンナ/シンは、生まれてすぐにエンリル、ニンリルとともに冥界の住人になってしまったのである。
彼らが地上に戻るためには、誰か身代わりとなる神々が現れなければならなかった。それが冥界のルールなのである。そこで、エンリルは一計を案じ、再びニンリルと交わると、3人の子供を産んだ。そして、この子供たちを身代わりとして冥界に置き去りにすることで、再び地上に戻ってくることができたのである。
一説によると、ナンナ/シンは、ニンガルという女神との間に、太陽神ウトゥ、金星の女神イナンナ、冥界の女神エレシュキガル、天候神イシュクルをもうけている。
Last update: 2019/07/13