マラク
分 類 | イスラーム |
---|---|
مَلَك〔Malak〕(マラク)【アラビア語】 複数形:ملائكة(マラーイカ)【アラビア語】 | |
容 姿 | アラビア風の衣装を着た男性。背中からは翼を生やしている。 |
特 徴 | イスラームの天使。神さまが光から創造した。ジブリースを筆頭に、神と人間の仲介役を務める。 |
出 典 | 『アル=クルアーン(コーラン)』(7世紀)ほか |
イスラームの天使たちは翼がカラフル!?
イスラームもアブラハムの宗教なので、ユダヤ教、キリスト教のようにたくさんの天使が登場する。この天使のことをアラビア語で「マラク」という(複数形にした「マラーイカ」の方がよく使われる)。元々、ユダヤ教では天使のことをמלאך(マルアーク)と呼んでいて、ヘブライ語で《使者》を意味していたので、アラビア語でも、このヘブライ語を借用した格好だ。ユダヤ教やキリスト教の天使と同様に、神と人間を仲介する役目を務める霊的な存在である。天使というと真っ白い翼を生やし、真っ白いローブをまとった姿をイメージするが、イスラームのマラクたちは頭にターバンを巻くなどのアラビア風の派手な衣装を身に纏(まと)っていて、翼は鮮やかな色をしたものが多い。
イスラームでは、ムスリムが信仰するべき「六信」の一つに天使の存在がある。ムスリムはアッラーフ(神)はもちろんのこと、マラーイカ(天使たち)、キターブ(神の啓示)、ラスール(預言者と使徒)、アーヒラ(来世)、カダル(定命)の6つを信仰しなければならない。
イスラームの聖典『アル=クルアーン(コーラン)』によれば、アッラーフ(神)はマラク(天使)たちを光から、そしてジンニー(妖霊)たちを煙の立たない炎から創った。その後、地上におけるアッラーフの代理人(ハリーファ)として、最初の人間アーダムを土と水から創った。そして、天使やジンニーたちに対してアーダムに跪(ひざまず)くように命じたという。これに対してイブリースだけは拒み、天界を追放されたという。
イスラームの天使たち!?
イスラームの伝承には多数の天使が登場するが、特に重要視されているのが大天使ジブリールだ。ジブリールはヒラー山で瞑想していたムハンマドの前に現れて、「誦め!」と言って『アル=クルアーン』を口述筆記させた。また、ムハンマドをブラークという動物に乗せて、天界を案内し、これまでの全ての預言者と引き合わせたのもジブリールである。ジブリールは、ユダヤ・キリスト教で言うところのガブリエルのことで、マリアに受胎告知した天使でもある。
ミーカーイールもジブリールとともに重要な天使として『アル=クルアーン』に名前が挙げられているが、ユダヤ・キリスト教のミカエルほど活躍はしない。ユダヤ人にとっては、ミカエルはイスラエルの守護者として篤い崇拝の対象となっていたが、アラビア人にとってはピンと来なかったのかもしれない。
イスラーフィール、アズラーイールという天使も重要な天使である。『アル=クルアーン』には直接的に名前が登場しないものの、最後の審判の際に、その到来を告げる合図としてラッパを吹き鳴らす天使として登場しているのはイスラーフィールであると解釈されている。ラッパからの連想か、音楽を司る天使でもある。イスラーフィールは地獄を巡回し、涙を流すという。『アル=クルアーン』の第2章雌牛章に「死の天使」として登場しているのはアズラーイールであると解釈されている。彼は人間の死を司り、人が死ぬと、彼の手に持つ書物からその人の名前が消えると信じられている。
その他にも『アル=クルアーン』にはハールートとマールートという不可思議な天使たちが登場する。彼らはバービル(バビロン)の町で、「我々は試みるだけだ。それで不信心になってはならない」と前置きしてから、人々に怪しげな魔術を教えたという。よく分からないが、もしかしたら彼らは人間を試していたのかもしれない。
アーダムに跪(ひざまず)くのを拒否したイブリースも、本来は天使である。イブリースはその後、ジンニーたちを率いて、人間を誘惑する存在となった。その他、地獄(ジャハンナム)を管理するザバーニーヤという天使の一団が知られていて、マリクを長として、罪人たちを責め苛む役目を負っているなど、イスラーム世界には多数の天使たちがいて、活躍している。
《参考文献》
Last update: 2013/04/07