ウィツィロポチトリ

分 類アステカ神話
名 称Huītzilōpōchtli(ウィツィロポチトリ)《左(南)のハチドリ》【ナワトル語】
容 姿青い肌の男神。ハチドリの頭飾りをつけ、五つの房の着いた盾と槍を持った戦士。
特 徴メシカ(アステカ)族の部族神。軍神で狩猟神、太陽神。
出 典

アステカを守護する国家神!?

ウィツィロポチトリはアステカ帝国を築いたメシカ族の部族神で、戦いを勝利に導く軍神であった。また、狩猟神、さらには太陽神でもあった。彼はアステカが版図を広げていく中で、次第にアステカを守護する国家神になっていった。その姿はハチドリをかたどった頭飾りをつけ、五つの房の着いた盾と槍で武装した戦士の姿で表現される。

完全武装で誕生したウィツィロポチトリ!?

ウィツィロポチトリは大地の女神コアトリクエから誕生したが、その出産は不思議である。女神コアトリクェは女神コヨルシャウキと400人の息子たち(センツォンウィツナワ。《南の400》という意味)をもうけていた。あるとき、コアトリクエはがアテペック(ヘビの丘)の頂上にある神殿にいると、天空から羽毛の球が降って来た。これを抱き締めると、彼女は身籠った。これがウィツィロポチトリである。

コヨルシャウキは父なし子を快く思わず、400人の兄弟たちと共謀して、母親もろとも殺そうと企てる。それをお腹の中で察知したウィツィロポチトリは完全武装して誕生し、投げ槍「シウコアトル《火のヘビ》」でコヨルシャウキの首を刎ねた。その身体は丘を転げ落ち、転がるたびに手や足はばらばらになったという。それから、400人の兄弟たちを一人残らず惨殺し、粉々に砕いたという。この神話は、メシカ族が周辺の部族を統合し、アステカ帝国を築いていく様子を反映した神話だとされている。

なお、軍神であったウィツィロポチトリは、次第に太陽神と考えられるようになった。東の空より現れ、夜の星々を打ち負かし、西の空で力尽き、再び東の空に誕生する。アステカの人々は、この神が負けて朝が来なくなることを恐れ、生け贄として人間の心臓を捧げ続け、世界の維持と陽の光の恵みを祈ったという。

神の啓示によって建設されたテノチティトラン!?

ウィツィロポチトリはアステカの部族神として、最も篤く信仰されたが、アステカの首都となったテノチティトラン(現在のメキシコシティ)の建設もウィツィロポチトリの神託によるものである。

12世紀頃より、メシカ族は、他のナワ族の部族に遅れてメキシコ盆地にやってきて、テスココ湖の湖畔に定住するようにりなった。やがて、石の上に生えたサボテンに鷲がとまっているのを見て、ここに町を建設すべきと判断し、テスココ湖の小島にテノチティトランを建設した。これは神官が「新しく都を築くべき地は、鷲がサボテンにとまっている地である」と予言していたからである。そこで、沼沢地の干拓から開始し、1325年に首都テノチティトランを建設した。

この出来事に由来して、メキシコの国旗や国章にはサボテンの上に鷲がとまった図が描かれている。

原初神オメテオトルの4柱の兄弟と「青のテスカトリポカ」!?

ちなみにウィツィロポチトリには別の誕生エピソードもある。アステカ神話の創世神話では、原初には老夫婦トナカテクトリとトナカシワトル(すなわちオメテオトル)が存在し、彼らから4柱の神が誕生したと説明される。その4柱の神は「黒のテスカトリポカ」(テスカトリポカ)、「赤のテスカトリポカ」(カマシュトリ、あるいはシペ・トテク)、ウィツィロポチトリ、ケツァルコアトルである。この4柱の神々は世界が創造したとされる。テスカトリポカは黄色い顔に黒い横縞の模様、カマシュトリは黄色い顔に赤い横縞の模様が入っている。ウィツィロポチトリが黄色い顔に青い横縞の模様で描かれることがあるため、「青のテスカトリポカ」と解釈されている。ただし、明確に「青いテスカトリポカ」に言及した写本は残されていない。また、ここから派生して、ケツァルコアトルを「白のテスカトリポカ」と呼ぶ言説もある(ただし、根拠は薄い)。

Last update: 2021/10/16

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