アラクネー

分 類ギリシア・ローマ神話
名 称 Ἀράχνη(アラクネ―)《蜘蛛》【古代ギリシア語】
容 姿蜘蛛。あるいは現代では上半身が人間、下半身が蜘蛛の怪物。
特 徴女神アテーナーと機織り勝負をして蜘蛛に変えられた。
出 典オウィディウス『変身物語』(8世紀)ほか

機織りが上手すぎて蜘蛛にされた!?

アラクネ―はギリシア・ローマ神話に登場する女性で、リューディア(現在のトルコ)の貧しい生まれだった。しかし、機織りの名手として知られ、山の精霊や水の精霊までもがその技術を見に集まるほどだった。そのため、アテーナーの教え子と讃えられた。しかし、彼女はアテーナーの教え子と呼ばれることが気に入らず、自分の機織りの腕はアテーナーにも負けないと豪語していた。アテーナーは老婆に化けて彼女の許を訪れると「機織りの腕を誇るのはいいが、女神には一歩譲れ」と忠告した。それでもアラクネーは態度を改めずに「女神が競いに来ないのはなぜか」と言い放った。そこで女神は正体を現し、機織り勝負をする運びとなった。

アテーナーはオリュムポスの神々の栄光を布に織り込んだ。それに加えて、過去に神々に歯向かって破滅した人々が添えられていた。一方のアラクネーは神々の醜聞(ゼウスやポセイドーンなどの不倫など)を織り込んだ。アラクネーの織った布は非の打ち所がないほど見事で、アテーナーも認めざるを得ない出来栄えだった。しかし、女神は神々を揶揄するような図案に腹を立て、アラクネーの織った布を引き裂き、アラクネーをツゲの木の梭で打ちつけた。アラクネーはこの仕打ちにショックを受け、首を吊って死のうとした。アテーナーは哀れに思い、アラクネーを蜘蛛の姿に変えた。以降、アラクネーとその子孫は蜘蛛となって、糸にぶら下がって糸を紡ぎ続けているという。

古代ギリシア語のἀράχνη(アラクネー)は《蜘蛛》を意味する普通名詞である。アラクネーの神話は蜘蛛の起源を説明する神話と言える。

上半身が人間、下半身が蜘蛛の怪物!?

ダンテの『神曲』「煉獄篇」(14世紀)では、煉獄門をくぐった先に第1環道があり、その出口付近には「傲慢」を戒める彫刻が展示されている。13の「傲慢」にまつわる象徴的な事例が並んでいる。その7つ目の彫刻がアラーニェ(Aragne)である。アラーニェというのはトスカーナ地方の口語だが、これはアラクネーのことである。そこでは、蜘蛛に変化する途中のアラクネーが彫刻されていた。

この記述を元に、画家のギュスターヴ・ドレは上半身が人間、下半身が蜘蛛になったアラクネーを描いている。現代のファンタジー小説や映画などでは、上記のようなイメージを元に、上半身が人間、下半身が蜘蛛の怪物として登場することが多い。

ちなみにオウィディウスの『変身物語』には、アラクネーが蜘蛛になる途中経過がかなり丁寧に描かれている。アテーナー(ミネルウァ)は首を吊って死のうとしたアラクネーの身体を抱き上げると、彼女の頭の上から魔法の薬をかけていく。すると、頭の毛が抜け落ち、鼻と両耳がなくなり、頭が小さくなり、その後、身体が小さくなる。そして痩せこけた指が脚となり、腹だけが残って、糸を紡ぐようになった。こうして、彼女は蜘蛛になった。従って、ギュスターヴ・ドレが描いた「蜘蛛に変身する途中のアラクネー」が、上半身は人間で下半身は蜘蛛というのは、厳密には正しくはないのかもしれない。

《参考文献》

Last update: 2024/07/13

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