枳首蛇(ジーショウショー)

分 類中国伝承
名 称 枳首蛇〔zhǐshǒushé〕(ヂーショウショァ/ジーショウショー)《首が分岐したヘビ》【中国語】
容 姿全長30センチメートルほどで、両側に頭がついたヘビ。
特 徴このヘビを見たものは死ぬと信じられた。
出 典李時珍『本草綱目』(1596年)

孫叔敖、両頭のヘビを殺して埋める!?

枳首蛇(ジーショウショー、ししゅだ)は中国伝承に登場するヘビの妖怪。両端に頭がついていて、このヘビを見ると不吉の兆候だとか、死んでしまうなどと信じられた。

もっともよく知られる話は、賈誼の『新書』や王充の『論衡』などに載っている、孫叔敖なる人物が両頭のヘビを埋めた話だ。孫叔敖は楚の名君・荘王に仕えた名宰相として知られる人物である。そんな孫叔敖がまだ幼かった頃、両頭のヘビに遭遇した。孫叔敖は家に帰りついたが、食事も喉を通らない。心配した母に事情を説明すると、母は「そのヘビは今、どうなっているのか」と問う。孫叔敖は「両頭のヘビを見た人間は死んでしまうと聞いたから、他の人が見たら大変だと思って殺して埋めた」と答えた。それを聞いた母は「それなら心配する必要はない。お前は死なない。善行を積んだ人は幸せになる」と答えたという。結局、孫叔敖はすぐには死なずに名宰相になるのである

枳首蛇は越王の石弓が変化したもの!?

枳首蛇の古い記録は中国最古の類語辞典『爾雅』で、それによれば、東の方に「比目魚」、南の方に「比翼鳥」、西の方に「比肩獸」、北の方に「比肩民」がいて、中央には「枳首蛇」がいると書かれている。ここで挙げられている生き物は、いずれも対になって存在する生き物である。たとえば、比目魚は目が1つしかなく、2匹が並んで初めて泳ぐことができるし、比翼鳥は翼が1つしかなく、2匹が並んで初めて空を飛べる。これらの仲間にひとつとして「枳首蛇」が挙げられている。

郭璞は『爾雅』に大量の注釈をつけたことで知られるが、彼によれば、枳首蛇というのは岐頭蛇であり、長江の東では「両頭蛇」とも呼ばれていて、越王から送られたもので「弩弦蛇」とも呼ばれると書いている。

「弩弦蛇」というのは『本草綱目』にも載っていて、枳首蛇は「越王蛇」とも呼ばれ、越王の石弓が変化して枳首蛇になったことから「弩弦蛇」とも呼ばれると説明されている。

陳藏器はさらにこれに注釈を入れていて、片方の頭には目と口はないと説明している。また、このヘビを見るのは不吉の兆候だとも説明している。『北戸録』でも両頭蛇は越王から遣わされ、人々はそれを不吉だと考えているとの記載がある。

中国の南にはたくさんの枳首蛇がいる!?

沈括の『夢渓筆談』では宣州寧国県にはたくさんの枳首蛇がいると記述され、体長は1尺(約30センチメートル)で、黒い鱗に白い斑で、両方の頭の模様は変わらないが、片方にだけ逆鱗がついているという。

劉恂の『嶺表録異』によれば、両頭蛇というのは嶺外にはたくさんいて、下腹部には赤い鱗がある。一方の頭には目と口があるが、もう一方には目と口に似たようなものがあるだけで、前にも後ろにも進めると伝わるが、そんな馬鹿げたことはないという。南の人々にとっては見慣れた存在で、孫叔敖は心配して埋めたとあるが、害はないと説明している。

その正体はミミズトカゲ!?

ちなみに古代ギリシア・ローマでも、北アフリカに両頭のヘビのアムピスバイナが棲息していると信じられていた。これは実際にはミミズトカゲだったのではないかと説明されることがあるが、枳首蛇も『夢渓筆談』ではミミズに似ていると記述され、張耒の『雜志』では黄州の両頭のヘビは古いミミズが変化したものと説明されているので、もしかしたら、これもミミズトカゲからの発想なのかもしれない。

《参考文献》

Last update: 2024/09/08

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