のっぺら坊(ノッペラボウ)

分 類日本伝承
名 称 のっぺら坊(ノッペラボウ)【日本語】
ずんべら坊(ズンベラボウ)【日本語】、ヌッペッポウ【日本語】
容 姿人間そっくりだが、顔に目や鼻、口がない。
特 徴目や鼻のない顔を見せて人間を脅かす。その正体はタヌキだとも。
出 典小泉八雲『怪談』「貉」(1904年)ほか

「それはこんな顔でしたかい?」

のっぺら坊(ノッペラボウ)は日本伝承に登場する妖怪。一見すると人間のような姿をしているが、顔はつるりとして目も鼻も口も何もない。人を驚かすだけで、それ以外に何をするわけでもない。

古くは奇談集『曾呂利物語』(1663年)や怪談集『新説百物語』(1767年)などの怪談や『狂歌百物語』(1853年)などの妖怪絵巻に登場するが、もっともよく知られているのが小泉八雲『怪談』の「貉」である。旅の商人が夜、東京赤坂の紀国坂でうずくまって泣いている女性に声をかけると、振り返る。その顔には何もないので、旅人はビックリしてしまって、ほうほうの体で蕎麦屋に逃げ込む。そしてその女の話をすると、その店主の男は「それはこんな顔でしたかい?」と振り返る。その店主の顔にも何もついていなかった。そして旅人は気を失ってしまい、気がつけば道の真ん中に倒れていたという。全てはムジナの悪戯だったというのである。

『新説百物語』では「のっぺりほう」と呼ばれていて、目も鼻も口も耳もないヘチマのような大きさの頭の化け物が京都二条河原で這い回っていたという。裾を掴まれた者が後で確認すると、たくさんの毛がついていたということで、これも獣の類いの仕業だと暗に匂わせている。

『曾呂利物語』では、京都の御池町の空き家で背丈7尺(約2.1メートル)の大男ののっぺら坊の坊主が臼を踏み鳴らしているのが目撃されている。

津軽弘前ではずんべら坊と呼ばれているようで、これは小泉八雲の「貉」と似ていて、山道で出会った男と連れ立って歩いていたら、その男の顔が目も鼻も口もない顔で、驚いた男が大慌てで山を逃げ下りて知人の家を訪れてずんべら坊の話をすると、その家の主人が「ずんべら坊とはこんな顔か」と、やはり目も鼻も口もない顔を差し向け、驚いた男はそのまま死んでしまったという物語である。

なお、江戸時代の妖怪絵巻にはヌッペッポウという正体不明の妖怪が描かれている。顔と身体の区別がつかない形状の妖怪だが、妖怪研究家の多田克己氏は、のっぺら坊も古い時代にはヌッペッポウのような妖怪だったのではないかと考察している。

ちなみに『絵本百物語』(1841年)にはお歯黒べったりという妖怪が登場する。美しい女性だと声を掛けてみたら、振り返ったその顔には目も鼻もなく、ただお歯黒をつけて笑う大きな口だけがついていたというもので、『絵本百物語』によれば、これものっぺら坊の一種なのだと言う。

《参考文献》

Last update: 2022/05/24

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