ミーノータウロス

分 類ギリシア・ローマ神話
名 称 Μῑνώταυροςmīnōtauros〕(ミーノータウロス)《ミーノース王の牡牛》【古代ギリシア語】
容 姿雄ウシの頭とウシの尾、人間の身体を持つ怪物。
特 徴人を喰らう。迷宮ラビュリントスの中に幽閉されていて、英雄テーセウスに退治された。
出 典ヘーシオドス『テオゴニアー』(前7世紀)ほか

ミーノータウロス!

怪物ミーノータウロスの誕生!?

ミーノータウロスはギリシア・ローマ神話に登場する怪物で、雄ウシの頭とウシの尾、人間の身体を持っている。本名はアステリオスといって「ミーノータウロス」というのは《ミーノースの雄ウシ》という意味である。あるとき、クレータ島を統治していたアステリオス王が亡くなり、後継者問題が勃発した。有力者だったミーノースも名乗りを上げたが、島の住民たちの賛同が得られない。そこでミーノースは海神ポセイドーンに祈り、自分が王となるべき証を授けるように頼んだ。ポセイドーンはその願いを聞き届け、ミーノースが王となる証として、海から美しい雄ウシを出現させ、その見返りとして、その雄ウシを自分への生贄に捧げるように要求した。ところが、ミーノースは海から出現した雄ウシがあまりにも立派で見事だったので気に入ってしまい、こっそりと別のウシを生贄に捧げた。この仕打ちにポセイドーンは激怒し、ミーノース王の妻パーシパエーがこの雄ウシに欲情する呪いをかけた。パーシパエーは雄ウシに欲情して苦しんだ。そして、大工のダイダロスに頼んで、木製の雌ウシの模型をつくらせた。パーシパエーはその中に入って雄ウシと交わった。こうして、パーシパエーと雄ウシとの間に生まれた子供が、牛頭人身の怪物で、しかも人喰いの悪癖を持っていた。

迷宮ラビュリントスとミーノータウロス

ミーノース王はこの情事を隠すため、ダイダロスに、一度入ったら二度と出てこられない迷宮ラビュリントスを造らせると、そこに息子を閉じ込めた。そしてアテーナイから貢ぎ物として少年少女たちを連れてきては息子に与えた。実は、ミーノースの息子アンドロゲオースがパンアテーナイア祭で全ての競技で優勝した際、アテーナイ人の妬みを買って殺されるという事件が起っていて、怒ったミーノース王は兵を率いてアテーナイを攻め、呪いをかけた。これによって飢饉と疫病がアテーナイに蔓延した。アテーナイはミーノース王に降伏し、賠償として七人の少年少女を貢ぎ物として送ることが取り決められたのであった。

アテーナイの王子テーセウスは、この事実を知ると、貢ぎ物に混ざってクレータ島に乗り込んだ。そんなテーセウスを一目見て、ミーノース王の娘のアリアドネーはテーセウスに一目惚れした。そして、アリアドネーはダイダロスに迷宮ラビュリントスの攻略法を聞き出すと、それをテーセウスに伝授する。それは、入り口に糸を縛りつけておき、糸を伸ばして迷宮に入り、帰るときにはその糸を手繰って戻れば、無事に迷宮から脱出できるという方法である。テーセウスは糸を入り口に縛ると、ラビュリントスの中に入り、ミーノータウロスと格闘して退治し、無事に迷宮から脱出したのである。

斧を携え、武装したミーノータウロス

古代ギリシア人が描いた壷絵やコインなどでは、ミーノータウロスは基本的には裸である。牛頭人身というだけあって首から下は体格のいい男性の姿をしている。多くの図像にはウシの尻尾が描かれている。古代ギリシア人にとって、怪物に服を着せるという発想はなかったようである。一方、近年のファンタジー小説やゲームなどでは、ミーノータウロスは斧を携え、鎧を身にまとい、鎖をじゃらじゃらとぶら下げた怪物として描かれることが多い。また、古代ギリシアでは首から下は人間の男性として描かれるが、近年では二足歩行をするウシのように、脚は蹄のあるものが描かれることが多いようだ。

ちなみに、クレータ島には神話に登場する迷宮ラビュリントスを体現したかのような複雑な宮殿がある。クノーッソス宮殿である。ギリシア・ローマ神話でミーノータウロス伝承の舞台となっているのは、まさにこのクノーッソスである。クノーッソス宮殿には、両刃の斧をあしらったデザインが随所にある。この宮殿はもともと生贄のウシを屠殺する場所だったと考えられている。そのため、ウシを屠るための斧が宮殿のモティーフになっていたのだろう。そもそもラビュリントス(Λαβύρινθος)という言葉は《両刃の斧》を意味するギリシア先住民族のLabrysに由来するとされている。ラビュリントスはまさに「両刃の斧の宮殿」だったのである。迷宮に閉じ込められていたミーノータウロスが、迷宮を離れ、「斧」を携えて現代のファンタジー小説やゲームで暴れまわっている点は興味深い。もしかしたら、ラビュリントスが両刃の斧であることに着想を得て、怪物ミーノータウロスに斧を持たせた人物がいるのかもしれない。ウェブサイト「ファンタジィ事典」では、古代の壷絵に近い形でイラストを描いてみた。

《参考文献》

Last update: 2023/05/06

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