カオス

分 類ギリシア神話
名 称 Χάος〔Khaos〕(カオス)《空隙》【古代ギリシア語】
特 徴原初に生じた「穴っぽこ」。この「穴っぽこ」に世界が出来上がる。ニュクス(夜)とエレボス(闇)を産んだ。
出 典ヘーシオドス『テオゴニアー』(前7世紀)ほか

世界に最初に生まれたのは「穴っぽこ」だった!?

カオスはギリシア・ローマ神話に登場する原初の神さま。ヘーシオドスが『テオゴニアー(神統記)』の中で語った創世神話によれば、最初にこの世界に生まれたのはカオスである。カオスといえば一般的には「混沌」と訳されることが多いが、本来のギリシア語の意味は《空隙》だ。《空隙》というと分かりにくいが、物が存在するための「場」とか「空間」というニュアンスが近いかもしれない。ここでは「穴っぽこ」と訳すことにする。何もない世界にまずぽっかりと「穴っぽこ」が出来たというわけだ。

そして、この「穴っぽこ」の中にガイア(地)やタルタロス(奈落)、エロース(性愛)などのさまざまな神々が次々に誕生していくのである。ガイアは我々が住むこの大地。タルタロスは「穴っぽこ」の底に下降していった。エロースが原初に生まれているのは、これからさまざまな神々が生まれるためには、愛の結びつきが必要だからである。

こうして、さまざまな神々が誕生して、この世界が出来上がっていく中で、カオスは二人の神々を産んでいる。ニュクス(夜)とエレボス(闇)である。「穴っぽこ」から生まれるには相応しい神々である。そして、このニュクスとエレボスからヘーメラー(昼)とアイテール(光)が生まれる。そして、彼らが誕生して、ようやく真っ暗だった世界は明るくなるのである。

カオスは如何にして「混沌」になったか!?

後代になって、オルペウス派はカオスのことを「原初の混沌とした状態」と解釈した。あらゆる要素が混沌と混ざり合っていて、その状態の中から次々と神々が生じたと解釈したのである。あらかじめカオスの中にあらゆる要素が含まれていて、それが分離して神々になったと考えられるようになっていくのである。

コラム:北欧神話のギンヌンガガプ

北欧神話の創世神話では、原初にギンヌンガガプという巨大な裂け目があったと説明されている。ニヴルヘイム(霜の国)からやってくる寒気とムースペッルスヘイム(灼熱の国)からやってくる熱気がギンヌンガガプで衝突し、そこに世界が生まれていく。初めに「穴っぽこ」があるという点ではギリシア・ローマ神話に似ている。北欧神話のギンヌンガガプは神格化されていないが、このような巨大な裂け目が神格化されたのがカオスなのである。

《原典紹介》

以下、ギリシア語の文献の中から「カオス」が登場する部分を紹介する。

ἤτοι μὲν πρώτιστα Χάος γένετ.

実に、最初にカオスが生まれた。

(ヘーシオドス『テオゴニアー』116行目)

ἐκ Χάεος δ᾽ Ἔρεβός τε μέλαινά τε Νὺξ ἐγένοντο.

カオスより、エレボスと暗きニュクスが生まれた。

(ヘーシオドス『テオゴニアー』123行目)

《参考文献》

Last update: 2013/03/20

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