飛縁魔(ひのえんま)

分 類日本伝承
名 称 飛縁魔(ひのえんま)【日本語】
容 姿美しい女性の姿。
特 徴男性を惑わせて精気を吸う。
出 典桃山人『絵本百物語』(1841年)ほか

男性を惑わせて精気を吸い取る美女!?

飛縁魔(ひのえんま)は日本の妖怪。桃山人の『絵本百物語』(1841年)に載っている。とても魅力的な女性の姿をしているが、その内面はとても恐ろしく、夜になると男性の精気や血液を吸って取り殺す存在である。

桃山人によれば、元々、「飛縁魔」というのは仏の教えにおいて、女犯(にょぼん:仏教の出家者が戒律を破って女性と性的関係を持つこと)を戒める言葉あり、男性が女性に夢中になって身を滅ぼす愚かさを諭す言葉だという。

桃山人は仏教の諺である「外面似菩薩内心如夜叉(顔は菩薩のように優しいが、心は夜叉のように険悪で恐ろしい)」という表現を用いて語っているが、飛縁魔に心を奪われ、惑わされてしまうと、結局はその身を滅ぼすことになるという。桃山人は具体的に、夏の桀王を惑わせた妺喜、殷の紂王を堕落させたという妲己、周の幽王を魅了した褒姒などの名前を挙げている。

竹原春泉斎の描く「飛縁魔」

顔かたちうつくしけれどもいとおそろしきものにて、夜な〱出て男の精血を吸、つゐにはとり殺すとなむ。

(『絵本百物語』巻第壱「飛縁魔」より)

飛縁魔というのは、おそらく「丙午(ひのえうま)」の俗信から誕生した妖怪だと考えられる。「丙午」というのは干支(十干十二支)のひとつだ。甲、乙、丙、丁……の十干と子、丑、寅、卯……の十二支の組み合わせによって、60年に1回、丙午が巡ってくる。陰陽五行説では「丙(ひのえ)」も「午(うま)」も両方ともその属性は「陽の火(強い火)」であり、同じ属性が重なると、その属性はさらに強くなるとされた。このことから、丙午の年は火災が増えるなどと信じられていた。やがて、八百屋お七の伝承と結びつきながら、江戸時代の初期の頃から、「丙午生まれの女性は気性が激しく男性の命を縮める」などの俗信が信じられるようになった。

八百屋お七というのは、江戸時代前期の女性とされる。お七は天和の大火(1683年)で家を焼け出されて寺に非難した。そこで寺小姓(住職に仕えて雑用を務める少年)と恋仲になる。しかし、やがて店が建て直されて、お七の一家は寺を引き払い、彼とは会えなくなってしまった。もう一度自宅が燃えれば、また彼のいる寺で暮らすことができると考えたお七は自宅に放火した。火はすぐに消し止められたが、お七は放火の罪で捕えられて火あぶりにされたという。

この八百屋お七の物語は井原西鶴が『好色五人女』で取り上げて大ヒットとなり、その後、浄瑠璃や歌舞伎などの題材として演じられるようになった。浮世絵や落語などでも取り上げられた。次第に八百屋お七は1666年の丙午生まれだと設定されるようになり、「丙午生まれの女性は気性が激しく男性の命を縮める」などの俗信が信じられるようになったようだ。

おそらくこの俗信から飛縁魔が誕生したものと考えられる。飛縁魔は『絵本百物語』以外の江戸時代の書物で見つけることはできないので、桃山人の創作した妖怪の可能性もある。

丙午の俗信は根も葉もないものだが、実際の出生率にも大きな影響を及ぼしている。昭和41年(1966年)の丙午のときには、出生率が前年い比べて25%も下がった。

《参考文献》

Last update: 2025/05/25

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