トンジャサム

分 類朝鮮伝承
名 称 동자삼dongjasam〕(トンジャサム)【朝鮮語】
容 姿人間の子供に化けて現れる。
特 徴高麗人参の精霊。
出 典

高麗人参、子供に化ける!?

トンジャサムは高麗人参(朝鮮人参)の精霊である。朝鮮半島では、昔から古い高麗人参が人間の子供に化けて出ると信じられていたようだ。

ある物語では、古くから火を大切にしてきた家があり、その家の姑が嫁入りしたばかりの嫁に火の保ち方を教えた。嫁は姑の言葉どおりに火を大切にしたが、どうしても夜中に突然、火が消えてしまう。あまりに嫁がこれを恥じるので、姑は「突然、火が消えたのは幽霊の仕業だ」などと慰めた。その後も夜中にたびたび火が消えるので、ある晩、嫁は一晩中、見張ることにした。すると、真夜中に1人の少年がやってきて、火に小便をかけ始めた。「お前が犯人か!」と嫁が飛び出すと、少年は驚いて森の中へと逃げ出した。嫁は慌てて少年を追いかけ、捕まえたと思った瞬間、少年の姿が消えた。そして、彼女の腕の中には子供くらいの大きさの高麗人参があった。嫁は高麗人参を家に持ち帰って家族に見せた。家族は「火を大切にしてきたから、高麗人参の精霊が祝福してくれたのだ」と語り合った。以降、家の火が消えることはなく、家族は幸せに暮らしたという。

別の物語では、年老いた祖母と暮らす夫婦がいた。夫婦には息子がいた。あるとき、祖母が重い病気になった。さまざまな医者や薬を試したが、一向に良くならなかった。あるとき、僧侶が托鉢にやってきた。夫婦がお布施をすると、僧侶が「息子を鍋に入れて煮詰め、その煮汁を飲ませれば病気は治る」と言った。夫婦は一晩悩んだが、「子供はもう一度、作ればよいが母親は死んだら帰っては来ない」と考え、結局、僧侶の言葉に従うことにした。翌朝、息子が学校に行くと、夫婦は大きな鍋を用意して火を起こしてぐつぐつと煮立てた。やがて、息子が帰ってきたので、息子を鍋に押し込むと、蓋をして長時間、煮た。その煮汁を飲ませると、祖母はたちまち元気になった。祖母が「孫はどこか」と問うても、夫婦は涙を流してうなだれるばかりであった。そのとき、息子が家に帰ってきた。驚いた夫婦に息子は「朝、僧侶に会って、今日は遅く帰るように言われたから、学校で勉強してから帰ってきた」と説明した。夫婦が鍋の蓋を開けると、鍋の中で大きな高麗人参が煮立っていた。高麗人参が息子に化けていたというわけである。

人参にしろ、大根にしろ、根菜類は根っこの伸び方によっては人間に見えるときがある。おそらくそんな着想から生まれた物語なのだろう。小便をかけることが祝福なのかとか、親孝行のためとは言え、病の祖母のために息子を殺そうとするのかなど、不思議なところはあるものの、いずれにせよ、朝鮮半島では、高麗人参は人間の子供に化けて現れるのである。

《参考文献》

Last update: 2025/05/24

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