ワイト/ウィヒト
| 分 類 | ヨーロッパ伝承 |
|---|---|
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Wight(ワイト)【中英語】,Wiht(ウィヒト)【古英語】 Barrow Wight(バロウ・ワイト)《塚人》【英語】 | |
| 容 姿 | 霊。現代のファンタジー小説やゲームでは蘇った死体のモンスター。 |
| 特 徴 | 精霊一般のこと。現代では蘇った死体、あるいは死体を操る邪悪な霊。 |
| 出 典 | チョーサー『カンタベリー物語』(14世紀),スペンサー『妖精の女王』(16世紀)ほか。 トルキーン『指輪物語』(20世紀),『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(20世紀)ほか |
墓場から蘇った死体!?
ワイト(wight)という言葉は、本来は「超自然的な存在」を意味する言葉で、「妖精」とか「精霊」のようなニュアンスの言葉が一番、ピッタリくる訳語だ。でも、最近のファンタジー小説やゲームでは「アンデッド・モンスター」の仲間に分類されていることが多い。墓場から復活した死体が勇者たちに襲いかかってくる、といったイメージだ。
実はこのイメージは、J.R.R.トルキーンが『指輪物語』の中で描いたバロウ・ワイトのイメージに基づいていて、このイメージをテーブルトークRPGの『ダンジョンズ&ドラゴンズ』が踏襲した。この影響を受けて、多くのファンタジー小説やゲームでは、蘇る死体のモンスターのことを「ワイト」と呼ぶようになった。
このような現代のアンデッド・モンスターとしての「ワイト」のイメージについては後述することにして、まずは本来のワイト(wight)という言葉について考えてみたい。
中世ヨーロッパの「ワイト」とは!?
もともとのワイト(wight)という言葉は中英語なので、大体10世紀から15世紀くらいにイングランドなどで用いられていた言葉である。現在の英語でいうところの「being(ビーイング)」と同じようなニュアンスの単語で、《存在するもの》とか《生き物》などを指す言葉で、古英語や古ドイツ語に遡るとウィヒト(wiht)という表現になる。この《生き物》を指していた語は、やがてただの生き物ではなく「超自然的な生き物」を指すようになり、妖精や精霊一般を意味する言葉になっていったようで、14世紀のジェフリー・チョーサーは『カンタベリー物語』の中で、妖精という意味でワイト(wight)を用いている。その後も16世紀のエドマンド・スペンサーの『妖精の女王』やウィリアム・シェイクスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』や『オセロー』などの中世イギリスを代表する文学作品の中に、しばしば妖精としての「ワイト」が登場している。
20世紀の妖精研究の第一人者キャサリン・ブリッグズは、ワイト(wight)やウィヒト(wiht)という言葉の使われ方をさまざまな文献の中から抽出して、分析している。彼女の研究によれば、9~10世紀頃に用いられたウンセーレ・ウィヒト(unsele wiht)は「気味の悪い生き物」を意味しているという。しかし、14世紀にはチョーサーが『カンタベリー物語』の中でワイトを「危険な妖精」を指す言葉として用いており、17世紀のスコットランドの牧師ロバート・カークも、次々と押し寄せる恐ろしい妖精たちを「ワイトの群れ」に喩えているという。19世紀のロバート・チェインバーズは、妖精たち自らに「シーリー・ウィヒト(seelie wiht)」という言葉を使わせている。
以上から、ワイトやウィヒトというのは、中世ヨーロッパでは、妖精、精霊といった超自然的な存在を指す総称だったと考えられる。
死体にとり憑いてふらふら歩くバロウ・ワイト!?
近年では、ワイトといえばJ.R.R.トルキーンが『指輪物語』に登場させたバロウ・ワイト(Barrow Wight)のイメージを指すことが多い。日本語訳された『指輪物語』では、瀬田貞二と田中明子が「塚人(ツカビト)」と訳しているものがバロウ・ワイトである。
作中でのバロウ・ワイトたちは、古墳に安置されている王さまや王妃さまの死体に邪悪な霊が乗り移ったものだ。ミイラ化した死体は、悪霊に乗っとられて復活し、古墳の中をふらふらと歩き回る。そのたびに装飾品である金属や宝石がジャラジャラと音を立てるのだから、非常に不気味である。そして旅人がやって来ると古墳の中に引き込み、呪いの言葉で殺そうとする。『指輪物語』の主人公であるフロド・バギンズは、死体の回りに青白い光のようなものを目撃しているから、もしかしたら、その光のようなものこそが悪霊バロウ・ワイトの正体なのかもしれない。
テーブルトークRPGの『ダンジョンズ&ドラゴンズ』は、このバロウ・ワイトから着想を得て、動き回る死体のモンスターを「ワイト」と呼んで、ゲームの中でアンデッド・モンスターの仲間として登場させた。以降、多くのファンタジー小説やゲームでは、このようなアンデッド・モンスターのことをワイトと呼んでいる。
ちなみにトルキーン自身は古い北欧の伝承に登場する動く死体ドラウグ(draugr)から着想を得てバロウ・ワイトを作ったようだ。ドラウグは《再び歩く者》というような意味で、死後、墓場から復活する幽霊のような存在だったので、もともとはワイトとバロウ・ワイトは直接的には何の関係もないということになるのかもしれない。
《参考文献》
- 『図説 幻獣辞典』
(著:幻獣ドットコム,イラスト:Tomoe,幻冬舎コミックス,2008年)
- 『図説 妖精百科事典』
(著:アンナ・フランクリン/ポール・メイスン/ヘレン・フィールド,訳:井辻朱美,東洋書林,2004年〔2003年〕)
- 『シリーズ・ファンタジー百科 世界の妖精・妖怪事典』
(著:キャロル・ローズ,監:松村一男,原書房,2003年〔1996年〕)
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
- 『妖精事典』
(編著:キャサリン・ブリッグズ,訳:平野敬一/井村君江/三宅忠明/吉田新一,冨山房,1992年〔1976年〕)
Last update: 2011/09/25
