ヤスコニウス

分 類ヨーロッパ伝承
名 称 Jasconius(ヤスコニウス)【ラテン語】
Jasconius(ジャコニウス)【英語】
容 姿島のような巨大な魚。
特 徴聖ブレンダンの一行が島だと思って上陸した。しかし、焚火をしたために動き出した。
出 典『聖ブレンダンの航海』(9世紀頃)ほか

上陸した島は、実は巨大な魚でした!?

聖ブレンダン(484-578年)はアイルランド生まれの聖職者で、西にある楽園を求めて冒険したことで知られる。『聖ブレンダンの航海(Navigatio Sancti Brendani)』(9世紀頃)では、聖ブレンダンは、航海の途中、巨大な海の怪物と遭遇した。それがヤスコニウスである。

聖ブレンダン一行は羊の島を訪れた後、その向かいにある島に上陸する。島には木が生えておらず、砂もない、岩の塊のような島だった。一行は夜通し、祈りを捧げ、明け方にミサを歌うと、肉や魚を運び込んだ。そして、鍋を準備すると、焚火を始めた。すると、突然、島が動き出した。一行は運び込んだものはそのままに、大慌てで船まで駆け戻った。島は海の上をどんどんと離れていくが、火が遠くに見えている。聖ブレンダンは「あれはヤスコニウスだ」と一行に説明する。実は島だと思っていたものは巨大な魚だったのである。このヤスコニウスという魚は、海の中で最も秀でた生き物で、常に自分の尾を頭に合わせようとしているが、胴があまりに長すぎてそれができないのだという。

海の怪物の仲間たち!?

海にはヤスコニウスに似た怪物たちがたくさん知られている。たとえば、2世紀の『フィシオロゴス』にはアスピドケローネーという怪物が記述されている。この怪物も島のようで、間違って上陸すると水中に沈んで、逃げ損なうと溺死する羽目になるという。ノルウェーには、ハーヴグーヴァとかリングバクというクジラのような怪物も知られている。また、ポントピダンが『ノルウェーの博物誌』(1753年)で言及している怪物がクラーケンで、クラーケンは多数の触手のようなもので船乗りを水中に引き込むとされる。巨大なタコのような怪物が船に絡みつくイラストが多数、知られている。アラビア世界では、サラタンという巨大な甲殻類の怪物が知られており、これも島と誤認して上陸し、水中に潜って犠牲者を出す話が残されている。ボルヘスは『幻獣辞典』の中でザラタンという海の怪物を紹介している。ザラタンは、現在では、サラタンとは別の怪物として、巨大なカメの怪物として描かれることが多い。

『聖ブレンダンの航海』のヤスコニウスは、アスピドケローネーなどの影響を受けて、伝承の中に取り込まれたものと考えられている。

《参考文献》

Last update: 2023/04/30

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