クミホ
| 分 類 | 朝鮮伝承 |
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구미호 〔gumiho〕(クミホ)《九尾狐》【朝鮮語】 | |
| 容 姿 | 9つの尾をはやしたキツネ。 |
| 特 徴 | 人間の肝臓を喰らい、人間になろうと画策する。 |
| 出 典 | - |

九尾狐は朝鮮半島の出身!?
9つの尾を持つキツネの伝承は中国に起源を持っている。その最古の記録は『山海経』(前4~3世紀頃)で、青丘山*に棲む9本の尾を持つキツネが紹介されている。赤ん坊のような声で人間を誘い、人間を喰う獣とされる。一方で、この九尾狐を食べると蟲毒を退けられる(邪気を払える)とも説明されている。
* 『山海経』で言及されている「青丘」は、中国から見て東方にある伝説の国とされていて、一般的には遼東半島の辺りだとされている。しかし、朝鮮半島だと解釈されることもある。その場合、九尾狐は朝鮮半島の出身ということになり、韓国ではそのように語られることも多い。
どうやら、古代中国では、人を喰う恐ろしい獣でありながら、泰平の世に出現する瑞獣とも解釈されていたようで、たとえば、『白虎通義』(前1~1世紀)の巻五「封禅」では、九尾の狐が鳳凰、鸞鳥、麒麟、白虎などの瑞獣と一緒に並べられていて、王の徳が高まると出現すると説明されている。9本の尾は子孫繁栄の象徴らしい。『呉越春秋』(3世紀頃)でも禹が九尾の狐と遭遇したことを吉兆として解釈している。
しかし、『武王伐紂平話』(1321-1323年頃)などでは、殷を滅亡させた悪女・妲己の正体を九尾狐だと描写した。許仲琳も『封神演義』(16世紀)でこの設定を踏襲し、これ以降の中国では「九尾狐は男性を惑わして破滅させる存在」として描かれることが多くなる。
このような悪女としての九尾狐が朝鮮半島に伝わったのが「クミホ」(クミホは九尾狐を朝鮮語で音読したもの)である。
美女に化けて誘惑するクミホ!?
中国で妲己にとり憑いて紂王を破滅させた九尾狐だが、朝鮮半島のクミホも基本的にはそのイメージを踏襲している。
美女に化けて寇家を転覆を目指すクミホ!?
たとえば『寇萊公貞忠直節記』(18~19世紀頃)を見てみよう。北宋の名宰相と言われた寇準(ク・ジュン)を主人公とする韓国の古典小説である。
ク・ジュンはチェ・チャヒョンとの三角関係の果てにチョン・ボンジュを正妻としたが、チェ・チャヒョンはこれに嫉妬し、寇家にクミホを差し向けた。クミホはユ・ホヨンという美女に化けて、無理矢理、ク・ジュンの妻になって寇家に入り込む。それに飽き足らず、チェ・チャヒョンはさらにヨ・ジソンという別の女の妖怪まで差し向ける。クミホが化けたユ・ホヨンはク・ジュンの父であるク・ヨンに毒を飲ませて病気にすると、ヨ・ジソンはチョン・ボンジュの仕業だと濡れ衣を着せて、正妻を投獄に追い込む。ヨ・ジソンはク・ヨンを惑わせ、家族の不和を煽ると、ク・ジュンに色仕掛けで近づく。しかし、ク・ジュンに拒絶されたので、ク・ジュンが自分を襲ったと偽証して、ク・ジュンを幽閉させる。
最近の韓国ドラマさながらのドロドロした展開だが、紆余曲折あって、最終的にはク・ジュンとチョン・ボンジュは彼らの陰謀を暴き、チェ・チャヒョンやクミホは処刑され、寇家の名誉は回復される。
このように、『寇萊公貞忠直節記』の中では、クミホは美女に化けて寇家を転覆させようと暗躍する妖怪として描かれている。
英雄チャン・インゴルに退治されたクミホ!?
『張仁傑傳』(18~19世紀頃)は、第27代高麗王の忠肅王(チュンスクワン)の時代の英雄・張仁傑(チャン・インゴル)の物語だ。
仁州(インジュ)に赴任したチャン・インゴルは、そこで悪さをしていた2匹の老キツネを退治する。老キツネは1000年生きたクミホで、そのうちの1匹は女真族の国に逃げ、その後、将軍に化けて高麗に侵攻してきた。チャン・インゴルはこれを撃破した。死んだ将軍がクミホになり、女真族は降伏した。
残ったもう1匹は中国に渡り、美女に化けて皇帝の后に納まった。そしてチャン・インゴルを中国に招待した。チャン・インゴルは仙界を訪ねて青鷹(ポラメ)を手に入れると、青鷹を伴って皇帝の城を訪れた。突然、青鷹は后に飛び掛かると目玉を抉り出した。あっという間に后はクミホの姿に戻って死んだ。真実を知った皇帝はチャン・インゴルを讃えたという。
『張仁傑傳』でも、クミホは中国の皇帝の后に納まって、悪さをしている。
「狐の珠」を持つクミホ!?
朝鮮半島のクミホが中国や日本の九尾狐と異なるのは、「狐の珠」にまつわる伝承である。
孫晋泰(ソン・チンテ)は『朝鮮民談集』(1930年)の中でさまざまな朝鮮半島の民話を収集しているが、その中にしばしば「狐の珠(여우구슬、ヨウグスル)」の伝承が現れる。これは狐の神通力がこもった不思議な珠である。クミホは美女に化けて、この珠を口にくわえて現れる。そして、人間の若者と口づけし、口移しで珠を交換する。これによって、人間は精気を吸い取られていく。
たとえば、ある学童が書堂(儒教を学ぶ私塾)に通っていたところ、美しい少女に出会って恋に落ちる。しかし少女が口づけだけは拒んだため、学童は彼女がクミホだと気づく。そして「口づけを許さないなら、二度と会わない」と脅す。仕方なく少女が口づけを許すと、学童は彼女の口の中から「狐の珠」を取り出して飲み込んでしまう。こうして、この学童は神通力を身につけることができたという。
別の話では、「学童100人と口づけを交わして殺せば昇天できる」と信じたクミホが女性に化けて書堂を訪れた。99人まで口づけで命を奪ってきたクミホは、最後の1人も色仕掛けで近づいた。クミホは「狐の珠」をこの学童の少年の口の中に入れたり出したりして精気を吸い、数日経つと、学童はみるみるうちに衰弱していった。書堂の師匠が異変に気付き、「その女はきっとクミホだ。「狐の珠」を飲み込め」と助言した。こうして、学童は狐の珠を飲み込んで神通力を身につけたという。
いずれの話でも、学童は慌てていたため、天を見上げずに地面しか見なかった。そのため、地上のことは理解できるようになったが、天のことは分からないままだったと伝えられている。
医者になったチン・グクテ!?
同様の話が済州島にも残っていて、ここには秦國泰(チン・グクテ)という名医の伝説が残っている。グクテは幼い頃、書堂に通っていた。ある日、帰り道に美しい少女と出逢った。少女は不思議な五色の珠を持っていて、その珠で口遊びをするように誘ってきた。少女は珠を口に含むとグクテの口に運び、グクテも同じように珠を彼女の口に運ぶ。やがて、グクテは連日、この女性との口遊びに興じるようになる。しかし、次第にグクテは衰弱していった。不審に思った書堂の師匠が「少女が玉を渡してきたら飲み込んで、天・地・人の順に見るように」と言い聞かせた。翌日、グクテが珠を飲み込むと、娘は九尾狐に変身して襲いかかってきた。驚いたグクテは一目散に書堂まで逃げ出し、師匠のもとに駆け寄った。「ちゃんと天・地・人を眺めたか」と問われ、グクテは初めて師匠の顔を眺めた。
結局、チン・グクテは、天と地には通じることができなかったが、人には通じることができ、医術に長け、その後、さまざまな病を治療することができたという。
チョン・ウチの神通力も「狐の珠」!?
15世紀に朝鮮に実在したとされる学者の田禹治(チョン・ウチ)も幼少期にキツネの口の中にあった「狐の珠」を飲み込み、神通力を得たとされる。また、クミホから天書を奪って道術を習得したとされる。このように、クミホは人間にはない知識や能力を持っている存在で、人間はクミホの持つ「狐の珠」を得て、神通力を会得できるものと考えられていたことが分かる。
どうやらクミホは人間になりたいらしい!?
最近の韓国のドラマなどでは、クミホは人間になることを望んでいるようだ。たとえば、1000人分の肝臓を喰らうことでクミホは人間になれる。そのため、クミホは次々と男性を誑かして、その肝臓を喰らう。
人間になるための肝臓の数については諸説ある。ただし、肝臓を喰らうことで人間になれるという明確な伝承は存在しないので、この設定は近年の創作である。
面白いのは、現代のクミホは、ときどき、人間を誘惑しているうちに、情にほだされ、本当に人間と恋仲になることである。ここが現代のクミホの魅力的なところである。
たとえば、映画『KUMIHO 千年愛』(1994年)、ドラマ『九尾狐外伝』(2004年)、ドラマ『僕の彼女は九尾狐<クミホ>』(2010年)、ドラマ『九家の書 ~千年に一度の恋~』(2013年)、『九尾狐(クミホ)伝』(2020年)など、多数の作品が作られている。
《参考文献》
- 『한곡 요괴 도감』(著:고성배,2019年)(韓国語)
Last update: 2025/09/14
