アスタロト

分 類ユダヤ・キリスト教魔法書文献
名 称 Astaroth(アスタロト)【ラテン語】
容 姿毒まむしを手にした恐ろしい天使の姿。地獄のドラゴンに跨っている。
特 徴40個の悪霊の軍隊を率いる地獄の公爵。悪臭を放つため、近づいてはならない。過去、現在、未来に関すること、秘密の事柄を教えてくれる。また、一般技術を教える。
出 典ヴァイヤー『悪魔の偽王国』(1577年)、『レメゲトン』「ゴエティア」ほか

悪臭を放つ悪魔は地獄の主計官長!?

アスタロトは、『大奥義書(グラン・グリモワール)』やヨハン・ヴァイヤーの『悪魔の偽王国(プセウドモナルキア・ダエモヌム)』、『レメゲトン』第1部「ゴエティア」など、さまざまな中世の魔法書文献に登場する悪魔。『大奥義書』では、ルキフェル、ベルゼブブと並ぶ第3の地位に据えられており、コラン・ド・プランシーは地獄の主計長官と説明している。『レメゲトン』などでは40個の地獄の軍隊を率いる公爵である。

アスタロトは非常に由緒正しい悪魔で、その起源はウガリット神話の豊穣女神アスタルトに遡れる。女神アスタルトはシュメル・アッカド神話のイナンナ(イシュタル)やギリシア・ローマ神話のアプロディーテーと同じ起源の女神である。しかし、ユダヤ教徒の側からすると野蛮で淫乱な異教の女神だったため、ユダヤ教には悪魔として取り入れられた。しかし、何故か男性の悪魔として描かれる。

悪臭を放つ悪魔で、近くに寄せ付けないようにしなければならない。この臭いを避けるために、銀製の魔法の指輪を顔の前に掲げることも有効である。彼は悪魔たちの創造や堕天の様子を喜んで説明してくれるというが、彼自身は望んで堕天したわけではないと説明する。尋ねれば、過去、現在、未来についての真実や秘密の事柄を教えてくれる。また、自由七科(リベラル・アーツ)をマスターしたい学生にとっては非常にありがたい存在で、この自由七科の学術を教えてくれるという。

『悪魔の偽王国』で描かれるアスタロト

魔術師アグリッパの弟子として知られるヨーハン・ヴァイヤーが著した『悪魔の偽王国(プセウドモナルキア・ダエモヌム)』では69匹の悪霊たちが紹介されている。そこで28番目に紹介されるのがアスタロトである。

§28. Astaroth Dux magnus & fortis, prodiens angelica specie turpissima, insidensque in dracone infernali, & viperam portans manu dextra. Vere respondet de præteritis, præsentibus, futuris & occultis. Libenter de spirituum creatore, & eorundem lapsu loquitur, quomodo peccaverint & ceciderint. Se spontè non prolapsum esse dicit. Reddit hominem mire eruditum in artibus liberalibus. Quadraginta legionibus imperat. Ab hoc quilibet exocista caveat, ne prope nimis cum admittat, ob foetorem intolerabilem quem expirat. Itaque annulum argenteum magicum in manu sua juxta faciem teneat, quo se ab injuria facile tuebitur.

(28)アスタロトは偉大かつ強力な公爵で、地獄のドラゴンに跨り、右手に毒まむしを握った恐ろしい天使の姿で出現する。彼は過去や現在、未来に関する真実や秘密について答える。彼は悪霊たちの創造と堕天、如何にして彼らが罪を犯し、そして堕天したのかを喜んで語る。彼は自らの意思で堕ちたのではないと言う。彼は自由学芸を教え、人間を驚くほど物知りにする。彼は40個の軍隊を統治する。耐え難い悪臭のため、術者は彼が近付かないように注意せよ。それ故、手の中の魔法の銀の指輪を顔の前に掲げよ。この圧迫から容易に術者を守るだろう。

(ヨーハン・ヴァイヤー『悪魔の偽王国』より)

『レメゲトン』第1部「ゴエティア」で描かれるアスタロト

17世紀頃には成立していたと考えられている中世の魔法書『レメゲトン』の第1部「ゴエティア」にアスタロトの記述がある。「ゴエティア」はソロモン王が使役したという72匹の悪霊について、その召喚の手順を具体的に記したもので、必要な呪文や魔法陣、72匹の悪霊たちのそれぞれの能力や紋章(シジル)、召喚に際しての注意事項などが書かれている。「ゴエティア」ではアスタロトは29番目に紹介されている。

(29.) ASTAROTH. - The Twenty-ninth Spirit is Astaroth. He is a Mighty, Strong Duke, and appeareth in the Form of an hurtful Angel riding on an Infernal Beast like a Dragon, and carrying in his right hand a Viper. Thou must in no wise let him approach too near unto thee, lest he do thee damage by his Noisome Breath. Wherefore the Magician must hold the Magical Ring near his face, and that will defend him. He giveth true answers of things Past, Present, and to Come, and can discover all Secrets. He will declare wittingly how the Spirits fell, if desired, and the reason of his own fall. He can make men wonderfully knowing in all Liberal Sciences. He ruleth 40 Legions of Spirits. His Seal is this, which wear thou as a Lamen before thee, or else he will not appear nor yet obey thee, etc.

アスタロトの紋章

(29)アスタロト:29番目の悪霊はアスタロトである。彼は強大かつ強力な公爵であり、ドラゴンに似た地獄の獣に跨り、右手には毒まむしを握った恐ろしい天使の姿で出現する。汝らが賢明なら、彼の不快な息で害されることがないように、彼をあまり近寄らせてはならない。故に、術者は顔の近くに魔法の指輪を掲げなければならなず、さすれば術者を守るであろう。彼は過去や現在、未来に関する真実を答えてくれる。また、あらゆる秘密を嗅ぎつける。如何に悪霊たちが堕ちたかを敢えて語り、そして望むならば、彼自身が堕ちた理由も説明するだろう。彼はあらゆる自由学術に関して人間を驚くほど物知りにできる。彼は40個の悪霊の軍隊を統治する。汝が胸飾りとして身に纏う紋章であり、さもなくば彼は出現もしないし、汝に従うこともない。

(メイザース&クロウリー『ゴエティア』より)

コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』に描かれるアスタロト

フランスの文筆家コラン・ド・プランシーが1818年にまとめた『地獄の辞典』は改訂を重ね、1863年の第6版ではブレトンの悪魔の挿絵が加わった。その中では「アスタロト」として紹介されている。

ブルトンの描くアスタロス

(コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より)

《参考文献》

  • 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
  • 『Pseudomonarchia Daemonum』(著:Johann Weyer,1577年)
  • 『Dictionnaire Infernal』(著:J. Collin de Plancy, 1863年)
  • 『The Book of the Goetia of Solomon the King』(著:S.L.MacGregor Mathers/Aleister Crowley, 1904年)

Last update: 2013/08/11

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