アペフチ
分 類 | アイヌ伝承 |
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Ape-huci(アペフチ)《火の老婆》【アイヌ語】 Ape-huci Kamuy(アペフチ・カムイ)《火の老婆のカムイ》【アイヌ語】 Iresu-huchi(イレスフチ)《育ての老婆》【アイヌ語】 Kamuy-huci(カムイフチ)《カムイの老婆》【アイヌ語】 Pake-tunas Kamuy(パケトゥナㇱ・カムイ)《口の早いカムイ》【アイヌ語】 | |
容 姿 | 老婆。6枚の衣をまとい、黄金の杖を持つ。 |
特 徴 | 火の女神。囲炉裏に宿る。 |
出 典 | 『梟の神の自ら歌った謡「銀の滴降る降るまわりに」』ほか |
囲炉裏に宿る年老いた火の女神!?
アペフチはアイヌ伝承に登場する火の女神である。アイヌ語で「ape(アペ)」が《火》、「huci(フチ)」が《老婆》を意味し、アペフチとはその名が示すとおり、一般には老女の姿をした火の女神である。ただし、叙事詩(ユカラ)などでは若い女性の姿で登場することもある。火の女神と言っても、囲炉裏(アペオイ)※に宿る女神で、6枚の衣を身にまとい、手には黄金の杖を持ち、囲炉裏の中に鎮座している。
※アイヌ語では囲炉裏のことを「apeoy(アペオイ)」と呼ぶ。《火を-注ぐ-場所(ape-o-i)》という意味である。
火は人間生活には欠かせないため、古来、神格化されることが多いが、北海道、樺太、千島列島などの北方の寒冷地に住むアイヌの人々にとっても、火は寒気から守ってくれる非常に大切なものであった。火の神であるアペフチは、人家にまつわる神の中でも最も尊いとされ、チセコロカムイ(家の神)と夫婦であると説明する地域もある。
しばしば、《神の老婆》という意味で「カムイフチ(Kamuy huci)」と呼ばれる。年配者ということもあってか、《育ての老婆》という意味で「イレスフチ(Iresu huci)」と呼ばれることもある。他のカムイが客人となって家を訪れるときには、アペフチが客の相手をするという。
アペフチはカムイと人間の仲介者としての側面を持ち、儀式の際には真っ先にアペフチに祈りを捧げ、内容が伝えられる。その後、改めて目的のカムイに内容を伝えるという。インドの火の神アグニやペルシアの火の精霊アータルにも神々と人間を仲介する側面がある。煙が天に向かって伸びていく様子が、神々との仲介というイメージを連想させるのかもしれない。
また、アペフチにはパケトゥナシカムイという別名もある。「パケトゥナㇱ(pake-tunas)」は《口が早い》とか《告げ口をする》というアイヌ語で、神々と人間の仲介をする彼女は、おしゃべりな女神と考えられていた。火のあるところで狩りの計画を立てると、計画をアペフチが獣の神に伝えてしまうため、獲物に逃げられてしまうのである。
《参考文献》
Last update: 2016/04/01