ロック
分 類 | アラビア伝承 |
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رخّ〔Ruẖẖ〕(ルッフ)【アラビア語】 Roc(ロック)【英語】 | |
容 姿 | 巨大な猛禽類。 |
出 典 | 『アルフ・ライラ・ワ・ライラ(千一夜)』、『東方見聞録』(13世紀)ほか |
白いドーム状の建物は、実はロックの卵!?
ロックはインド洋に棲むとされる巨大な鳥で、『千一夜(アルフ・ライラ・ワ・ライラ)』などのアラビア文学にしばしば登場する。「船乗りシンディバードの冒険」には何度もロックが登場する。あるとき、シンディバードは孤島に一人、取り残されてしまう。そこで白いドーム状の建物を発見するシーンがある。周囲を歩くと150歩ほどあり、けれども、入り口が見つからない。不思議に思いながら探していると、やがて空が暗くなって、巨大なロックが飛んでくる。ロックは白いドームの上に覆いかぶさった。卵を温め始めたのであるが、これを見て初めてシンディバードはこの白いドーム状のものがロックの卵であり、自分がロックの巣の中にいるのだと気がつくのである。シンディバードはターバンでロックの脚に自分を縛りつけて無事に島から脱出する。また、別の冒険ではシンディバードの仲間の船乗りたちがロックの卵を破壊し、中の雛を焼いて食べてしまう。それに気づいて怒り狂ったロックの親鳥が飛んできたため、乗組員は急いで船に逃げ込み、海に船を出したが、ロックは大きな岩を投げつけて船をあっという間に沈没させてしまったという。
多くの場合、ロックは巨大なワシのような猛禽類の姿で想像される。三頭のゾウを掴んで飛んでいる絵まであって、ロックがいかに大きな鳥として想像されていたかが分かる。ロックはゾウを掴んで空に舞い上がり、地上に叩き落してその肉を喰らうのだという。
ちなみに英語で「Roc's Egg《ロックの卵》」と言えば、《眉唾のもの、信じられないもの》を意味する。
マルコ・ポーロ、実際にロックの羽毛を見る!?
マルコ・ポーロの『東方見聞録』(※実際にはマルコ・ポーロが語った内容をルスティケロ・ダ・ピサが編纂した『世界の記述(Le Devisement du Monde)』)にも、ロックに関する記述がある。マルコ・ポーロはギリシア・ローマ神話に登場するグリュプスの正体こそ、このロックであると考えているようだが、人から聞いた話としてロックについて述べている。それによれば、ロックはモグダシオ島(マダガスカル島のことらしい)に棲んでいて、巨大な鷲のような姿をした鳥で、翼を広げるとおよそ27メートル、その羽だけでも12メートルはあるらしい。脚の爪でゾウを軽々と持ち上げて、空中から地上に叩き落し、粉々にしてからその肉を喰らうという。実際、マルコ・ポーロはフビライ・ハーン(クビライ・カアン)の宮廷でロックの羽毛を見たという。モグダシオ島に派遣された使節が持ち帰ってフビライ・ハーンに献上したもので、その羽毛だけでもハンカチの90倍の大きさがあったという。
このロックの羽毛、現在ではラフィア椰子の葉、あるいはバショウの葉を加工したものではないかとされている。事実、椰子などの葉を加工したものがロックの羽毛としてしばしばモンゴルに送られていたらしい。スペインにも同様のものが送られていたという。
ちなみに『千一夜』ではインド洋に棲息するとされているロックだが、『東方見聞録』ではマダガスカル島が棲息地として挙げられている。19世紀には絶滅してしまったが、マルコ・ポーロの時代には体長2~3mのエピオルニスという鳥がマダガスカル島に実際に棲息していたという。この鳥はダチョウのような鳥で、空を飛ぶことはできないが、卵は直径30センチほどになったという。伝承に登場するほどは大きくないが、もし現存していれば、地上最大級の鳥になる。この実在の鳥の話に尾ひれがついてロックの伝承と結びついた可能性はあるかもしれない。
ロックが妖霊ジンたちの親玉?!
マルドリュス版の『千一夜』には精霊ジンたちがロックを親玉と仰いでいると思われる記述がある。アラジンがロックの卵が欲しいとランプの精に頼んだところ、「俺たちジンは大ロック様の奴隷だぞ!」などと怒り出したというのである。ただの巨大な猛禽類であるロックが、魔術に長けたあのジンたちを従えているというのが、一体、どういうことなのか、よく分からないのだが、もしかしたらロックには意外と知性があって、精霊ジンたちを支配しているのかもしれない。
《参考文献》
Last update: 2013/01/06