ムルムル
分 類 | キリスト教、魔法書文献、悪魔学 |
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Murmur(ムルムル)、Murmus(ムルムス)、Murmux(ムルムクス)【ラテン語】 | |
容 姿 | 公爵冠を乗せた戦士。ハゲタカあるいはグリフォンにまたがる。 |
特 徴 | 地獄では公爵兼伯爵。哲学を教える。死者の魂を呼び出して質問に答えさせる。堕天する前は座天使(ソロネ)、あるいは天使(エンジェル)の地位。 |
出 典 | 『デーモン偽君主国』(1577年)、『ゴエティア』(17世紀頃)、『地獄の辞典』(1818~1863年)ほか |
死者の魂と語り、哲学と音楽を愛する悪霊!?
ムルムルはヨハン・ヴァイヤーの『デーモン偽君主国』やソロモン王が書いたとされる魔法書『レメゲトン』第1部「ゲーティア」に名前が挙げられている悪霊。ハゲタカ、あるいはグリフォンにまたがって、戦士の格好をして出現する。その際には、トランペットを吹き鳴らす従者がムルムルを先導するという。
ムルムルは哲学を完璧に教えてくれる存在である……といってもあんまりぱっと来ないかもしれないが、実は哲学を教えるということは、中世ヨーロッパの魔術師たちにとっては、非常に重要なことだった。ヨーロッパには古くから自由七科という考え方があった。奴隷ではなく、自由人として生きるために必要な7つの教養という意味で、文法、修辞学、論理学、算術、幾何、天文、音楽があった。そして、この上位に、これら自由七科を統合する学問として、哲学が位置づけられていて、哲学は神学を学ぶための予備学であった。従って、神さまについて学ぼうと思ったら、自由七科と哲学の習得が必須だったのである。このムルムルは、そんな哲学を完璧に教えてくれるという非常にありがたい悪霊なのである。
ムルムルは地獄では公爵と伯爵を兼任しているようで、30個の悪霊の軍隊を指揮しているようだ。
『デーモン偽君主国』のムルムル
§ 39. Murmur magnus Dux & Comes: Apparet militis forma, equitans in vulture, & ducali corona comptus. Hunc præcedunt duo ministry tubis magnis: Philosophiam absolute docet. Cogit animas coram exorcista apparere, ut interrogatæ respondeant ad ipsius quæsita. Fuit de ordine partim Thronorum, partim Angelorum.
ムルムルは偉大なる公爵で、伯爵である。ハゲタカに乗って、公爵冠をかぶり、戦士の姿で出現する。大きなトランペットを持った彼の2匹の従者が彼に先行する。彼は完璧に哲学を教え、術者の前に魂を連れてきて、術者が尋ねたいことを答えさせる。彼は一時は座天使の地位に、一時は天使の地位にあった。
(Johann Weyer『PSEUDOMONARCHIA DÆMONUM』)
『レメゲトン』「ゴエティア」のムルムル
魔法書『レメゲトン』は、ソロモン王が書いたという触れ込みで広まったもので、その第1部「ゴエティア」には、ソロモン王が召喚し、使役したとされる72匹の悪霊が紹介されている。この書物は、16世紀のさまざまな文献をもとにつくられたもので、少なくとも17世紀初頭までは遡ることができる。この書物の中にはソロモン王が使役したという72人の悪霊たちの姿や性格、能力、召喚する際の魔方陣や注意点などが書かれている。
(54.) MURMUR, or MURMUS. - The Fifty-fourth Spirit is called Murmur, or Murmus, or Murmux. He is a Great Duke, and an Earl; and appeareth in the Form of a Warrior riding upon a. Gryphon, with a Ducal Crown upon his Head. There do go before him those his Ministers, with great Trumpets sounding. His Office is to teach Philosophy perfectly, and to constrain Souls Deceased to come before the Exorcist to answer those questions which he may wish to put to them, if desired. He was partly of the Order of Thrones, and partly of that of Angels. He now ruleth 30 Legions of Spirits. And his Seal is this, etc.
(54)ムルムル、あるいはムルムス:54番目の悪霊はムルムル、ムルムス、あるいはムルムクスと呼ばれている。彼は偉大な公爵であり、伯爵である。彼は公爵冠を頭に乗せた戦士の姿で、グリフォンにまたがって出現する。けたたましいトランペットの音とともに、彼の従者たちが先行する。彼の職能は、哲学を完璧に教えること、死んだ魂を術者の前に登場させ、求められれば、術者が彼らに聞きたい質問を答えさせる。彼は一時は座天使の地位に、一時は天使の地位にあった。現在、彼は30個の悪霊の軍団を支配している。彼の紋章はこれである。
(Mathers & Crowley『GOETIA: The Lesser Key of Solomon the King』)
『地獄の辞典』のムルムル
Murmur, grand-duc et comte de l'empire infernal, démon de la musique. Il paraît sous la forme d'un soldat montè sur un vautour et accompagné d'une multitude de trompettes; sa tête est ceinte d'une couronne ducale; il marche précédé du bruit des clairons. Il est de l'ordre des Anges et de celui des Trônes.
ムルムル 地獄の帝国の偉大な公爵で伯爵。音楽の悪霊。彼は戦士の姿でハゲタカに乗って、多数のトランペット吹きを伴って出現する。頭には公爵冠をかぶっていて、ラッパの音が先導されて行進する。彼は天使、あるいは座天使の地位にある。
(J. Collin de Plancy『Dictionnaire Infernal』)
《参考文献》
Last update: 2012/03/31