ブエル

分 類魔法書文献
名 称 Buer(ブエル)【ラテン語】
容 姿星の姿。あるいは人馬(ケンタウルス)の姿。ライオンの頭から5本のヤギの足が生えた姿でも描かれる。
特 徴哲学、論理学、薬草の知識を与え、病を治す力も持つ。
出 典『プセウドモナルキア・ダエモヌム』(1577年)、『ゴエティア』(17世紀頃)、『グラン・グリモワール』(18世紀頃)ほか

人々の病を治す悪霊!?

ブエルはソロモン王が使役したとされる72匹の地獄の悪霊の1匹で、ヨーハン・ヴァイヤーの『悪魔の偽王国』や『レメゲトン』「ゴエティア」などの中世の魔法書文献に登場する。

地獄では総裁とされ、50個の悪霊の軍団を率いている。召喚すると、哲学、論理学、そして薬草の効能に関する知識を与え、人々の病も治してくれる。姿は独特で、星の姿とされる。ブレトンはライオンの頭から5本のヤギの足をはやした姿の悪霊として描いている。

『悪魔の偽王国』で描かれるブエル

魔術師アグリッパの弟子として知られるヨーハン・ヴァイヤーが著した『悪魔の偽王国(プセウドモナルキア・ダエモヌム)』では69匹の悪霊たちが紹介されている。そこで7番目に紹介されるのがブエルである。

Buer Præses magnus conspicitur in signo *. Absolute docet philosophiam, practicam, ethica item & logica, & herbarum vires: Dat optimos familiares: Ægros sanitati restituere novit, maxime & homines. Quinquaginta legionum habet imperium.

ブエルは大総統で*の記号で出現する。彼は実用的、理論的な哲学、論理学、そして薬草の効力を完全に教える。彼は最良の使い魔を与える。主に人間の病気を健康に戻す。彼は50個の軍団を持っている。

(ヨーハン・ヴァイヤー『悪魔の偽王国』より)

『レメゲトン』「ゴエティア」に描かれるブエル

17世紀頃には成立していたと考えられている中世の魔法書『レメゲトン』の第1部「ゴエティア」にブエルの記述がある。「ゴエティア」はソロモン王が使役したという72匹の悪霊について、その召喚の手順を具体的に記したもので、必要な呪文や魔法陣、72匹の悪霊たちのそれぞれの能力や紋章(シジル)、召喚に際しての注意事項などが書かれている。「ゴエティア」ではブエルは10番目に紹介されている。

BUER.--The Tenth Spirit is Buer, a Great President. He appeareth in Sagittary (♐), and that is his shape when the Sun is there. He teaches Philosophy, both Moral and Natural, and the Logic Art, and also the Virtues of all Herbs and Plants. He healeth all distempers in man, and giveth good Familiars. He governeth 50 Legions of Spirits, and his Character of obedience is this, which thou must wear when thou callest him forth unto appearance.

ブエル:第10番目の悪霊はブエルで、大総統である。彼は太陽が人馬宮にあるときに、まさに人馬宮(射手座)の姿で出現する。彼は道徳哲学、自然哲学、論理学、そして、あらゆる薬草の効能を教える。人間の心身の病気を癒し、よい使い魔を与える。50個の悪霊の軍団を統治し、彼の従順の記号はこれで、汝が彼を目の前に出現するように呼び掛けるときに身につけていなければならない。

ブエルの紋章
ブエルの紋章

(メイザース&クロウリー『ゴエティア』より)

『大奥義書』に描かれるブエル

『大奥義書(グラン・グリモワール)』によれば、地獄の組織としては、皇帝ルキフェル、皇子ベルゼブト、大公アスタロトの3人が筆頭にいて、そこに宰相ルキフゲ・ロフォカレ、総司令官サタナキア、司令官アグリアレプト、中将フレウレティ、准将サルガタナス、元帥ネビロスの6人が続く。そして、6人にそれぞれ3人ずつ、合計18人の悪霊が従っているという。ブエルはグソイン、ボティスとともにアグリアレプトに従っているという。

コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』に描かれるブエル

フランスの文筆家コラン・ド・プランシーが1818年にまとめた『地獄の辞典』は改訂を重ね、1863年の第6版ではブレトンの悪魔の挿絵が加わった。ブエルはライオンのような頭から、ヤギのような足を5本はやした印象的な姿で描かれている。

Buer, démon de seconde classe, président aux enfers; il a la forme d'une étoile ou d'une roue à cinq branches, et s'avance en roulant sur luimême. Il enseigne la philosophie, la logique et les vertus des herbes médicinales. Il se vante de donner de bons domestiques et de rendre la santé aux malades. Il commande einquante légions.

ブルトンの描くブエル

ブエルは二流の悪霊で、地獄の大総統である。彼は星の形、または5つの軸を持つ車輪の形をしていて、それ自体で前方に転がる。彼は哲学、論理学、薬草の効能を教える。彼は素晴らしい使い魔を与え、病人の健康を回復することができる。50個の軍団を指揮している。

(コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より)

ブエルの姿に関する描写は、ヨーハン・ヴァイヤーは「*の記号」と記述している。これは、五芒星、あるいは六芒星の姿で出現すると解釈されることもある。コラン・ド・プランシーもそのように解釈して「星の形」と記述している。一方、「ゴエティア」では「人馬宮(♐)」とされる。これは弓矢を持ったケンタウロスの姿とも解釈できる。

《参考文献》

  • 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
  • 『Pseudomonarchia Daemonum』(著:Johann Weyer,1577年)
  • 『Dictionnaire Infernal』(著:J. Collin de Plancy, 1863年)
  • 『The Book of the Goetia of Solomon the King』(著:S.L.MacGregor Mathers/Aleister Crowley, 1904年)

Last update: 2021/09/04

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