ブラフマー

分 類インド神話
名 称 ब्रह्मा〔brahmā〕(ブラフマー)【サンスクリット】
梵天(仏教)【日本語】
容 姿四つの頭を持った白髭の神。
特 徴創造神。梵(ブラフマン)を擬人化した神。
出 典『リグ・ヴェーダ』ほか

ヒンドゥー教の創造神!?

ブラフマー神はヒンドゥー教の維持神ヴィシュヌ、破壊神シヴァと並ぶ最高神のひとりで、この世界の創造する創造神の役目を負っている。この世界の始まりのときに、ブラフマー神がこの世界の一切を一人で創造した。ヴィシュヌ神がその世界を維持し、そしていつかこの世が終焉するときには、シヴァ神が激しく破壊の踊りを踊り、この世を滅ぼしてしまうのである。従って、この世界の山も川も海も生き物も、そして神々に至るまで、全てがブラフマーによって創造された。

ブラフマーは通常、四つの頭と四つの腕を持った姿で創造される。白髭(しろひげ)の老人で描かれることが多い。それぞれの手には水壷、数珠、笏、ヴェーダ聖典を持っている。シヴァ派の神話によれば、ブラフマーの頭はもともと頭が五つあったが、そのうち一つはシヴァに切り落とされたと説明している。この神話については後述する。

ブラフマーの妻は、水と知恵と音楽の女神サラスヴァティー。ブラフマーのヴァーハナ(騎乗獣)は白い鵞鳥のハムサである。

宇宙の根本原理「ブラフマン」を擬人化!?

ブラフマーはこの世の創造神であり、三大神の一人に名を連ねながら、実質、ブラフマーを最高神として崇める信仰は現在のインドには存在していない。いつの間にかブラフマー信仰は廃れてしまった。それはブラフマーがあまりに抽象的で、一般の庶民には理解しにくかったためだとされる。

古代インド哲学には「ブラフマン(梵)」という概念があった。ブラフマンとは宇宙の根本原理で、宇宙を成り立たせているエネルギーみたいなものだ。あらゆるもの、あらゆる活動の背後にあって、その力が浸透している。本来は文字や儀式に潜む神秘的な力を意味していたらしい。それがやがて宇宙意志になり、人格神となった。それがブラフマーなのである。すなわちブラフマンを神格化したのがブラフマーなのである。非常に抽象的で理解しにくかったため、やがてブラフマー信仰は廃れていった。

また、この世界の創造はすでに終わっており、ブラフマーの活躍は過去のものとなってしまっている点も、ブラフマー信仰が広がらなかった原因かもしれない。この世界の維持のために活躍するヴィシュヌ神や、いつかこの世界を破壊してしまうだろうシヴァ神とは異なり、創造作業を終えたブラフマーは一般庶民の活動に影響を及ぼさなかったのだろう。

しかし『リグ・ヴェーダ』などの古い神話の中では、ブラフマー神はヴィシュヌ神やシヴァ神にさまざまな命令を下す偉い神として登場する。

ブラフマーの誕生、こもごも

ヴィシュヌ派が主張するには、世界の最初にこの世界に存在していたのはヴィシュヌだという。ヴィシュヌ神が千の頭を持った竜王アナンタの背で眠りながら、原初の海の上を漂っていると、臍(へそ)から蓮華(れんげ)が生えてきて、その花の中からブラフマーが誕生したという。そしてヴィシュヌが憤怒したとき、額からシヴァ神が生まれてきたのだという。つまり、ブラフマーもシヴァも、ヴィシュヌからうまれてきたというのである。

しかし、シヴァ派は別の説を主張する。新しい宇宙が生まれたとき、ヴィシュヌ神は大海に漂っていた。するとそこに光明が集まり、ブラフマーが誕生する。ブラフマーは自分よりも前にヴィシュヌが生まれていることに驚き、「私は創造神だが、お前は何か」と尋ねた。するとヴィシュヌ神は「私こそが創造神だ」と答え、二人は言い争いを始めたが結論が出ない。するとそこに巨大なリンガ《男根》が出現した。天高く伸びるリンガはどこまでもそびえていて先端が見えない。また、その根元もどこまでも海の底に伸びていて、終わりが見えない。先に果てに到達したものが偉大な神だという取り決めをすると、ブラフマーは白鳥に変身して天空へ昇り、ヴィシュヌはイノシシに変身して海中へと潜っていった。しかしどこまで行っても果てがないため、二人の神は諦めて元の場所へ戻ってきた。するとリンガの中からシヴァ神が現れ「ブラフマーは私の右腰から生まれ、ヴィシュヌは私の左腰から生まれた」と言い放ったという。シヴァ派によれば、ブラフマーもヴィシュヌもシヴァ神からうまれてきたのだという。

このようにヒンドゥー教では「トリムールティ《三神一体》」という発想で、シヴァ派とヴィシュヌ派の矛盾に折り合いをつけている。

経典に則って儀式を行い、苦行を積んだ者には、それが善人であろうと悪人であろうと、ブラフマーは恩恵を与えなければならない。そのため、天界、人間界、地下世界の三界を支配しようと苦行を積む魔王ラーヴァナに対しても、ブラフマーは強力な力を与えている。

ブラフマーの一日は86億4,000万年!?

ブラフマーの一日は1劫(カルパ)、すなわち86億4,000万年である。世界の創造から終焉までは43億2,000年で、ブラフマーにとって目覚めている昼間が、我々の生きる世界の始まりと終わりなのである。ブラフマーの一生はブラフマーの1年でカウントすると、100年と言われていて、ブラフマーの感覚で数えて100年経つと、この世界は全て消えてなくなり、ブラフマーも姿を消す。そしてもう100年経つと、新たなブラフマーが誕生する。インド人の世界観は壮大である。

ブラフマー、五つの頭で熱い眼差しを向ける!?

ブラフマーの頭は当然、初めは一つだった。あるとき、ブラフマーは川の女神サラスヴァティーを産みだした。ところが、彼女のあまりの美しさに恋に落ちたブラフマーは我を忘れて彼女を見つめた。サラスヴァティーはあまりにブラフマーが見つめるため、その視線から逃れようと脇に移動した。するとブラフマーは新しい首をはやし、彼女を見つめる。サラスヴァティーがブラフマーの後ろに回ると、また頭が生えてきて彼女を見つめる。こうしてブラフマーには四つの頭ができ、四方を見られるようになった。そこで彼女は空中へと逃げ出した。するとブラフマーは上空を見るための第五の頭をはやした。こうして、ようやく彼女は観念してブラフマーの妻となったのである。

シヴァ神、ブラフマーの首を一つ切り落とす!?

さて、あるとき聖者が「この世界の創造者は誰か」とブラフマーに尋ねた。ブラフマーは「それは自分である」と答えた。ところがそこにシヴァが現れて、「自分こそが世界の創造者だ」と主張したため、二人は口論になった。そして遂にシヴァ神は怒り狂い、バイラヴァへと化身すると、ブラフマーの五つあった首の一つを刎ねた。ここに来てようやくブラフマーはシヴァの主張を受け入れるに至った。そして、このとき以来、ブラフマーの首は四つになったのである。

仏教に取り込まれたブラフマー!?

ヒンドゥー教ではいまいち人気のないブラフマーだが、ちゃんと仏教にも取り込まれている。「梵天」がブラフマーのことである。

《参考文献》

Last update: 2011/05/04

サイト内検索