ベレト
分 類 | 魔法書文献 |
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Beleth(ベレト)、Byleth(ビュレト)【ラテン語】 | |
容 姿 | 蒼ざめたウマに跨った悪魔。 |
特 徴 | 気難しい悪魔で、宥めないと言うことをきかない。人間に強い恋愛感情を引き起こす。 |
出 典 | ヴァイヤー『悪魔の偽王国』(1577年)、『レメゲトン』「ゴエティア」(17世紀頃)、『大奥義書』(18世紀頃)ほか |
人間たちに激しい愛情を吹き込む悪霊!?
ベレトはソロモン王が使役したとされる72匹の地獄の悪霊の1匹で、ヨーハン・ヴァイヤーの『悪魔の偽王国(プセウドモナルキア・ダエモヌム)』(1577年)や『ゴエティア』(17世紀頃)などの中世の魔法書文献に登場する。
ベレトは地獄の王で、85個の地獄の悪霊たちの軍隊を率いている。呼び出されると蒼ざめたウマに跨った姿で出現するが、召喚された瞬間から、すでに彼は激怒している。そのため、術者は彼を宥める必要がある。術者は円陣の外側で南と西の方角に手を伸ばし、ハシバミの杖を使って三角陣をつくる。そして、ベレトにその中に入るように命じなければならない。彼がそれを拒否しても、術者は繰り返し、証文と護符を彼に突き付けて命じ続けなければならず、やがて、彼は三角陣の中に入ると言う。あるいはワインが大好物なので、三角陣の中にワインを配置しておけば、喜んで術者の言うことを聞いてくれるとも言われる。ただし、彼はプライドが高いので、王侯貴族に接するように、礼儀正しく丁重に持て成さないといけない。そうすることで、彼は術者を王のように扱い、話をするようになる。彼と相対するときには、術者は必ず左手の中指に銀の指輪を嵌めておき、それを自分の顔を前に翳しておく必要があるという。
ベレトはこのように、召喚すると色々な制約がある面倒臭い悪霊ではあるが、その職能は男女問わず、人間たちに恋愛感情を引き起こすというものである。術者の意のままに激しい欲情を生じさせる。
ベレトはかつては天使の9階級の6番目の能天使の階級に属していたようで、いずれは天界に復帰することを願っているらしい。
『悪魔の偽王国』におけるベレト
魔術師アグリッパの弟子として知られるヨーハン・ヴァイヤーが著した『悪魔の偽王国(プセウドモナルキア・ダエモヌム)』では69匹の悪霊たちが紹介されている。そこで20番目に紹介されるのがベレトである。
§20. Byleth Rex magnus & terribilis, in equo pallido equitans, quem præcedunt tubæ, symphoniæ, & cuncta Musicæ genera. Quum autem coram exorcista se ostentat, turgidus ira & furore videtur, ut decipiat. Exorcista verò tum sibi prudenter caveat: atque ut fastum ei adimat, in manu suscipiat baculum corili [*coruli], cum quo orientem & meridiem versus, foris iuxta circulum manum extendet, facietque triangulum. Cæterum si manum non extendit, & intrare iubet, atque spirituum Vinculum ille renuerit, ad lectionem progrediatur exorcista: mox ingredietur item submissus, ibi stando & faciendo quodcunque iusserit exorcista ipsi Byleth regi, eritque securus. Si verò contumacior fuerit, nec primo iussu circulum ingredi voluerit, reddetur fortè timidior exorcista: vel si Vinculum spirituum minus habuerit, sciet haud dubiè exorcista, malignos spiritus postea eum non verituros, at semper viliorem habituros. Item si ineptior sit locus triangulo deducendo iuxta circulum, tunc vas vino plenum ponatur: & intelliget exorcista certissimè, quum è domo sua egressus fuerit cum sociis suis, prædictum Byleth sibi fautorem fore, benevolum, & coram ipso submissum quando progredietur. Venientem verò exorcista benignè suscipiat, & de ipsius fastu glorietur: propterea quoque eundem adorabit, quemadmodum alij reges, quia nihil dicit absque aliis principibus. Item si hic Byleth accitus fuerit ab aliquo exorcista, semper tenendus ad exorcistæ faciem annulus argenteus medij digiti manus sinistræ, quemadmodum pro Amaymone. Nec est prætermittenda dominatio & potestas tanti principis, quoniam nullus est sub potestate & dominatione exorcistæ alius, qui viros & mulieres in delirio detinet, donec exorcistæ voluntatem explerint: Et fuit ex ordine Potestatum, sperans se ad septimum Thronum rediturum, quod minus credibile. Imperat octogintaquinque legionibus.
偉大にして恐ろしき王のビュレトは蒼ざめたウマに跨り、トランペットや交響曲、その他のあらゆる種類の音楽が彼を先導する。術者の前に彼が出現するときには、彼は激高と憤怒の形相を示す。そのため、術者は慎重に慎重を期す必要がある。彼の尊大さを取り除くべく、術者は魔法円の隣でハシバミの杖を持ち、東と南に手を伸ばし、三角形をつくる。手を伸ばし、中に入るように命じても悪霊が拘束されることを拒否した場合には、術者は繰り返しこの行為を続け、じきに彼は中に入ってそこに立ち、術者が命じたことを何でも実行し、危害はなくなる。実際のところ、もしも彼が強情で、最初の命令で魔法円の中に入ろうとしなかったならば、それは術者が臆病者だと見做されている。万が一、悪霊に対する拘束力が弱ければ、悪霊たちがその後、術者を恐れることはなく、いつだって軽んじられるということを、術者はまざまざと思い知ることになるだろう。また、魔法円の近くに三角形をつくることが難しい場合には、ワインで満たされた容器を置く。そうすれば、彼が仲間たちと連れ立って住み家からやってきて、件のビュレトが術者の後ろだてとなって友好的になり、先導に対して公然と彼が術者に従うようになることを術者は確かに理解するだろう。真の術者には、呼び出した者を丁重に迎え入れさせ、彼の尊大さを褒め称えさせよ。彼は他の王に対するのと同じように、術者に敬意を払うようになる。というのも、彼は王たちとしか喋らないのである。魔王アマイモンの場合と同様に、このベレトが術者によって召喚された場合には、術者は左手の中指に嵌めた銀の指輪を常に自分の顔の前に翳さなければならない。このような王の権威と能力を決して侮ってはいけない。何故なら、望むままに男女を錯乱状態に陥れるだけの権威と能力のある術者は他にはいないのだ。彼は能天使の階級の出身で、甚だ疑問ではあるが、彼は第七天に返り咲くことを望んでいる。彼は85個の軍隊を指揮している。
(ヨーハン・ヴァイヤー『プセウドモナルキア・ダエモヌム』より)
キリスト教の世界において「蒼ざめたウマ」というのは、「ヨハネの黙示録」の第6章第8節に登場するヨハネの黙示録の四騎士の1つで、死を象徴するウマである。
『ゴエティア』におけるベレト
17世紀頃には成立していたと考えられている中世の魔法書『レメゲトン』の第1部『ゴエティア』にもベレトの記述がある。『ゴエティア』はソロモン王が使役したという72匹の悪霊について、その召喚の手順を具体的に記したもので、必要な呪文や魔法陣、72匹の悪霊たちのそれぞれの能力や紋章(シジル)、召喚に際しての注意事項などが書かれている。『ゴエティア』ではベレトは13番目に紹介されている。
BELETH.--The Thirteenth Spirit is called Beleth (or Bileth, or Bilet). He is a mighty King and terrible. He rideth on a pale horse with trumpets and other kinds of musical instruments playing before him. He is very furious at his first appearance, that is, while the Exorcist layeth his courage; for to do this he must hold a Hazel Wand in his hand, striking it out towards the South and East Quarters, make a triangle, △, without the Circle, and then command him into it by the Bonds and Charges of Spirits as hereafter followeth. And if he doth not enter into the triangle, △, at your threats, rehearse the Bonds and Charms before him, and then he will yield Obedience and come into it, and do what he is commanded by the Exorcist. Yet he must receive him courteously because he is a Great King, and do homage unto him, as the Kings and Princes do that attend upon him. And thou must have always a Silver Ring on the middle finger of the left hand held against thy face, as they do yet before AMAYMON. This Great King Beleth causeth all the love that may be, both of Men and of Women, until the Master Exorcist hath had his desire fulfilled. He is of the Order of Powers, and he governeth 85 Legions of Spirits.
His Noble Seal is this, which is to be worn before thee at working.
ベレト:13番目の悪霊はベレトと呼ばれている。彼は強力な王で恐ろしい。彼は蒼ざめたウマに跨っていて、彼の御前でトランペットやその他の楽器が演奏している。彼は最初に出現した時点で、激怒していて、術者は勇気を振り絞るときである。そのために、術者はハシバミの杖を手に持ち、南と東の方角に打ち出して、円陣の外に三角陣を描き、それから以下のような悪霊の証文と護符によって、彼にその中に入るように命じなければならない。もしも彼が三角陣の中に入らなければ、汝の脅しで彼の前に証文と護符を復唱する。そうすれば、彼は従順になってその中に入り、術者に命じられたことを実行するだろう。しかし、彼は偉大なる王であるため、彼を丁重に迎え入れ、王や王子たちが彼に仕えるのと同様に彼に敬意を払わなければならない。そして、アマイモンの御前するのと同様に、汝は常に左手の中指に嵌めた銀の指輪を汝の顔に翳していなければならない。この偉大なる王ベレトは男女の両方に生じ得る全ての愛を引き起こし、熟練した術者の願望を満たす。彼は能天使の階級にいて、85個の悪霊の軍隊を統治している。これは彼の高貴な紋章で、術中、汝の前に身に着けるべきものである。
(メイザース&クロウリィ『ソロモン王の小さな鍵 ゴエティア』より)
コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』におけるベレト
フランスの文筆家コラン・ド・プランシーが1818年にまとめた『地獄の辞典』は改訂を重ね、1863年の第6版ではルイ・ル・ブルトンの悪魔の挿絵が加わった。この中にベレトも紹介されていて、ブルトンはホルンを吹くネコの図版を添えている。
Byleth, démon fort et terrible, l'un des rois de l'enfer, selon la Pseudomonarchie de Wierus. Il se montre assis sur un cheval blanc, précédé de chats qui sonnent du eor et de la trompe.
L'adjurateur qui l'évoque a besoin de beaucoup de predence, car il n'obéit qu'avec fureur. Il faut pour le soumettre avoir à la main un bâton de coudrier; et, se tournant vers le point qui sépare l'orient du midi, tracer hors du cercle où l'on s'est placé un triangle; on lit ensuite la formule qui enchaîne les esprits, et Byleth arrive dans le triangle avec soumission. S'il ne paraît pas, c'est qui l'exorciste est sans pouvoir, et que l'enfer méprise sa puissance. On dit aussi que quand on donne à Byleth un verre de vin, il faut le poser dans le triangle; il obéit plus volontiers et sert bien celui qui le régale. On doit avoir soin, lorsqu'il paraît, de lui faire un accueil gracieux, de le complimenter sur sa bonne mine, de montrer qu'on fait cas de lui et des autres rois ses frères: il est sensible à tout cela. On ne négligera pas non plus, tout le temps qu'on pasera avec lui, d'avoir au doigt du milieu de la main gauche un anneau d'argent qu'on lui présentera devant la face. Si ces conditions sont difficiles, en récompense celui qui soumet Bylet devient le plus puissant des hommes. --- Il était autrefois de l'ordre des puissances; il espère un jour remonter dans le ciel sur le septième trône, ce qui n'est guère croyable. Il commande quatre-vingts légions.
ビュレトはヴァイヤーの『悪魔の偽王国』によれば、地獄の王の1人で、強力で恐ろしい悪魔である。彼は白馬に座っている姿を示し、ホルンやトランペットを鳴らすネコたちが先導する。
術者は彼の怒りに身を任せなければいけないため、彼を呼び起こす術者は細心の注意が必要である。彼を抑えるためには手にハシバミ製の杖を持つ必要がある。そして、東と南を分かつ点に向かって向きを変え、配置した円陣の外側に三角陣を描く。それから悪霊たちを拘束する儀式を暗唱し、ビュレトは服従して三角陣に入る。彼が出現しない場合、術者は力不足で、地獄の連中に彼の力は見くびられている。また、ビュレトに葡萄酒を与える際には、それを三角陣の中に配置しなければならないと言われている。彼はますます従順になって、自分を扱ってくれる人々によく仕える。彼が出現したときには、彼を丁重に歓迎し、彼の容姿を褒め、彼や彼の同胞であるその他の王たちを大切にしていることを示すように留意が必要である。彼はこれら全てに敏感である。また、彼と過ごす間は常に左手の中指に嵌めた銀の指輪を忘れることなく顔の前に翳しておく必要がある。このように条件は難しい分、その見返りとして、ビュレトを制した者は最強の人間になれる。―――彼は、かつては能天使の階級に属していた。彼はいつの日か天界の第七天に戻ることを望んでいるが、それはほとんど信憑性がない。彼は80個の軍隊を指揮している。
(コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』より)
《参考文献》
- 『Pseudomonarchia Daemonum』(著:Johann Weyer,1577年)
- 『Dictionnaire Infernal』(著:J. Collin de Plancy, 1863年)
- 『The Book of the Goetia of Solomon the King』(著:S.L.MacGregor Mathers/Aleister Crowley, 1904年)
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
Last update: 2024/06/04