2023年12月5日 初音ミクとVOCALOIDについて語る(その2)

前回、初音ミクについて語ったわけだけど、当時、VOCALOIDにはいろんな可能性があった。たとえば、人間の女性が歌ってくれないようなド下ネタを歌わせるとか、過激な言葉(「殺す」とか「死ね」みたいな)を歌わせるみたいな方向性もあった。アーティストが歌ったら売れないネタ満載の歌をミクに歌わせるという芸風も流行った。それから、初音ミクがプログラムであるという設定を活かして、歌っているうちにミクが心を持つとか、逆に何を歌っても所詮、ミクは機械であるとか、人間のコピーだとか、プログラムエラーで暴走するとか、飽きられて捨てられるとか、そういう初音ミクそのものを題材にした歌も流行った。技術的に人間が歌えないような曲として、超高速で歌うとか、難解な転調を繰り返すとか、超ハイトーンとか、一気に音階を駆け上がるみたいな、人間業ではない歌わせ方をするアプローチもあった。初音ミクから派生キャラクターとして、弱音ハクとか亞北ネルなどが生まれ、彼らを軸にした物語とか世界観が出来上がって、彼らのキャラクターソングっぽい歌も流行った。いずれの可能性も、全て「初音ミク」あるいはVOCALOIDだからこそのアプローチだった。

初音ミクのヒットにとって幸いだったのは、当時、FLASHアニメが黄金期だったこともあると思う。2000年代前半、2ちゃんねらーを中心に、アスキーアートの「モナー」や「ギコ猫」をベースに、FLASHの技術でたくさんのネタ動画が投稿されていて、「もすかう」が爆発的にヒットしていたのがちょうど2005年だった。「もすかう」はドイツのジンギスカンというグループが歌った「モスクワ」の空耳をネタにした動画だった。こういう風に、当時のネット文化の中には、ネタを織り交ぜながら、既存の楽曲に笑える動画を当てる文化が流行っていた。そういうアニメーションを作れる職人たちがたくさんいた。そして、2005年にYouTube、2006年にニコニコ動画がサービスを開始して、FLASH動画のように個人サイトに動画を掲載する文化は緩やかに終わりを告げて、YouTubeやニコニコ動画などのプラットホームに動画をアップロードしてシェアする時代がやってきた。そんな時代背景の中で、初音ミクが生まれて、ここまで普及したと評価できる。