2024年5月11日 インターネットの記事の妥当性
38℃のハイフィーバーが3日ほど続いて、ようやく今日になって少し落ち着いてきた。それでも、まだ頭はぼーっとしているし、満足に身動きがとれる状況ではない。ずぅっとベットに突っ伏していた。そんなわけで、絵を描くプロジェクトも頓挫したし、リニューアルしていた「アバウトな創作工房」をもう少し手を入れる作業もストップ。いろいろと予定が狂ってしまった。
それでも、ようやく今日になって少しだけ動けるようになったので、久々にギリシア神話を眺めていた。そうしたら、意外とWikipediaの情報が不正確な部分があることに気づいた。実はギリシア語って、動詞の格変化で主語の人称が分かるようになっている。だから、主語が省略できる。だから、ヘーシオドスの『テオゴニアー(神統記)』の中で、主語が明確じゃない部分がたくさんある。たとえば、合成獣キマイラを生み出した両親とか、オルトロスの配偶者なんかは、三人称単数の「彼女」が主語であることは分かるが、それが誰なのかは文脈上、明確ではない。キマイラの両親は一般的にはテューポーンとエキドナとされている。それはヘーシオドス以外のアポッロドーロスやヒュギーヌスがそう明示しているから、妥当だ。でも、ヘーシオドスの文章だけでは、実のところ、女神ケートーである可能性も、レルネーのヒュドラ―である可能性も否定はできない。同様に、オルトロスの配偶者は一般的にはキマイラとされていて、子供としてスピンクスとネメアのライオンを儲けている。でも、これも同様に主語が省略されていて、エキドナやケートーの可能性もあって、判然としない。
ちなみに、『テオゴニアー』を日本語に訳した廣川氏は、キマイラの母親である「彼女」をレルネーのヒュドラー、オルトロスの配偶者である「彼女」をエキドナとして訳した。さすがにレルネーのヒュドラーがキマイラを生んだという解釈は受け入れられなかったのか、日本語版のWikipediaではキマイラの母親はエキドナとして解説している。しかし、オルトロスの配偶者の方はエキドナになっていて、日本語のWikipediaは全体的にこの解釈で統一されているようだ。でも、英語のWikipediaでは明確に誰と定めることはなく、3つの可能性を挙げるに留めていて、特にキマイラの母親である「彼女」はエキドナである可能性が高いと評価している。
ちなみに、Perseus Digital Libraryの『テオゴニアー』ではオルトロスの配偶者である「彼女」はエキドナと明確に訳されていて、母と息子の逢瀬という解釈を採っている。一方で、ローブ叢書の『テオゴニアー』では「おそらくキマイラ」と注がつけられていて、兄妹の逢瀬という解釈を採っている。ボクはローブ叢書の解釈が合うように思っている。そういう意味では、ひとつの解釈に定めてしまっているWikipediaの記述は正確性を欠いていると言える。ギリシア神話みたいにアクセス数が多そうな記事でも、こういうことがあるのだなあと思って、ちょっとビックリした次第。
……でも、ボクはポリシーとしてWikipediaはいじらない。いじっても誰かに直されるだけなので、ボクはボクの土俵である「ファンタジィ事典」の記事だけをアップデートするのみである。もしも誰か気になった方がいれば、是非、Wikipediaのキマイラとオルトロスとエキドナの項目の記事を修正くださいな。