2025年5月21日 絵文字の歴史1:ファンタジィ事典の多言語化
本日、NTTドコモが「ドコモ絵文字」の提供を順次終了することを発表した。ひとつの大きな時代の終わりを感じた。
ボクは2009年からウェブサイト「ファンタジィ事典」を運営している。当時から妖怪の名前は原語表記することをモットーとしていた。古代ギリシアの妖怪なら古代ギリシア文字、聖書の妖怪ならヘブライ文字、シュメル神話の妖怪なら楔形文字。だから、いつだってコンピュータにおける文字表記との格闘だった。ミャンマー文字なんかは昔っから文字化けしていたし、楔形文字や古代エジプト文字、アヴェスター文字なんかもずぅっと課題だった。こういう世界各地の文字を、どうやったらウェブブラウザ上で文字化けせずに印字できるのか。そんなことに苦しんできた。
多分、大半の人には伝わらないと思う。それでも書いてみる。ボクは「ファンタジィ事典」をhtmlのタグ打ちで書いている。ソースを開いてもらえれば分かると思うが、世界各地の文字は数値文字参照(NCR)になっている。たとえば、古代ギリシア文字のα(アルファ)だったら「α」と書いている。ヘブライ文字も楔形文字もミャンマー文字も、みんな、こうやって数値文字参照で記述している。そして、文字コードはutf-8になっているので、別に数値文字参照しなくても直接、古代ギリシア文字を打てばいいじゃないかという声もあるかもしれない。でも、そうはいかない理由がある。
実は「ファンタジィ事典」は事典サイトなので、更新が面倒臭い。たとえば、新規で妖怪を追加することを想像してみて欲しい。たとえば、イギリス伝承の「アーヴァンク」を追加したとする。そうしたら、afanc.htmlという項目ができるだけでなくて、更新履歴のところにアーヴァンクが載る。五十音検索のア行にも載る。イギリス伝承の項目にも載る。それを全部、管理するのは難しい。若い頃にはデータベースという考え方がよく分かっていなかったボクは、それならばExcelで全て管理しようと決意した。メモ帳に妖怪の説明だけを書いて、Excelに紐づけて、全てExcelマクロでhtml化している。テキストファイルにhtmlの本文だけを書いておいて、後は全てExcelでhtmlに変換して書き出している。Excelの文字コードが基本的にはShift_JISなので、テキストファイルはShift_JISで、マクロで最後にutf-8に変換している。
……みたいな技術的なことを書くと意味分からんと思う人がいるかもしれない。でも、裏側はそういうことなのだ。WordPressなんかはphpファイルがデータベースにアクセスして、その場でhtmlを吐き出している。同様のこととして、ボクは箱庭形式で、デスクトップ上でExcelをデータベース的なものとして取り扱って、htmlを吐き出してサーバにあげている。
そんなボクからすると、絵文字の歴史というのは、まさに文字コードとの戦いの歴史だと認識している。現在、絵文字は国際社会に広く受け入れられている。「emoji(イーモジ)」などと呼ばれて、誇るべき日本の文化だとされている。オバマ大統領も2015年のスピーチの中で、日本由来のものとして、空手やカラオケ、漫画、アニメと並べて、絵文字を挙げているし、栗田穣崇氏が監修したドコモ絵文字は、2016年10月にニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されている。それでも、ボクは文字コードの歴史の観点では、日本の技術者たちの敗北だったと思う。……ちょっと思うところがありすぎて長くなりそうなので、絵文字の歴史の詳細については次回に譲りたい。(続く)