2025年3月21日 人間と妖怪の距離感
香月日輪氏の『妖怪アパートの幽雅な日常①』(講談社文庫,2008年)を読んだ(表紙はミヤマケイ氏のヴァージョン)。
「妖怪」というキーワードがあるものの、文体に少しだけラノベっぽさがあって、今まで敬遠していた。でも、覚悟を決めて読み始めてみたら、とても面白かった。人間と妖怪、こっち側とあっち側との距離感が不思議な物語だと感じた。主人公の夕士は寿荘で人間と妖怪と一緒に暮らしている。それでいて、学校生活では日常を送っている。そこがものすごく地続きになっていて、でも、決して完全には繋がっていかない。夕士が寿荘を退去して日常に戻ろうとすると、あっという間に妖怪たちはいなくなって、寿荘の不思議なゲートは閉じたようになってしまう。でも、戻って来ると、再び、不思議な世界が現れる。この繋がっていそうで繋がっていなそうな距離感がずぅっと続いているのが凄いなあと感じた。
タイトルに「日常」とあるとおり、本当に「日常」が描かれている。そりゃあ、途中、怨霊が出てきて、バトルものめいた展開にはなりかける。強力な妖怪たちも現れて参戦する。でも、それだって、結局、その怨霊を退散させるだけで、退治はしない。怨霊は再びやってくるだろうし、事態は何も解決していない。1冊を通して、ずぅっとそんな感じ。主人公の夕士の家族とのギクシャクした関係も変わらないし、学校生活のギクシャクした感じも変わらない。抱えている悩みも解消しないし、後悔も消えない。少しだけ経験を積んで成長の兆しがある程度。ずぅっと日常があって、それを切り取った感じで、それもまた、人間と妖怪の関係と同様に、ふわっとしていて、リアルだったりする。
そんなわけで、結構、長く続いている人気作品みたいなので、もう少し読み進めてみようかな、と思う。