2015年7月30日 水木しげる不在の一反木綿なんてアリ!?

7月30日時点の英語のWikipediaから「一反木綿」の項目を丸々、引用してみよう。

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Ittan-momen

Ittan-momen (一反木綿 “one bolt(tan) of cotton”?) is a Tsukumogami formed from a roll of cotton in Japanese myth. Most has been handed down to the Kagoshima Osumi district. The Ittan-momen “flies through the air at night” and “attacks humans, often by wrapping around their faces to smother them.”

In popular culture

  • In the anime/manga series, Inu x Boku SS, one of the characters; Renshō Sorinozuka, is an Ittan-momen.
  • In the tokusatsu franchise, Super Sentai, the Ittan-momen was seen as a basis of a monster in series installments themed after Japanese culture.
    • In Ninja Sentai Kakuranger, one of the Youkai Army Corps members the Kakurangers fought was an Ittan-momen.
    • In Samurai Sentai Shinkenger, one of the Ayakashi, named Urawadachi, served as the basis of the Ittan-momen within the series.
    • In Shuriken Sentai Ninninger, one of the Youkai the Ninningers fought was an Ittan-momen, with elements borrowed from a carpet and a magician.
  • In the Yokai Watch franchise features a Ittan-momen yokai called “Ittan-gomen”. Instead of attacking humans, it makes people do something bad then insincerely apologize for it.

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そこはかとなく違和感を覚える解説である。そもそも一反木綿って付喪神なのだろうか。たとえば『付喪神絵巻』には「器物百年を経て、化して精霊を得てより、人の心を誑かす、これを付喪神と号すと云へり」とあって、付喪神は道具が長い年月を経て、化けて出るものである。一反木綿は「道具が長い年月を経て化けた存在」ではないだろう。そもそも、一反木綿というのは鹿児島県肝属郡という狭いエリアに伝わる妖怪だが、一反ほどの木綿のようなものが、夕方にふわっと飛んできて、首に巻き付いて人を窒息死させる、というもの。「木綿」と断定しているのではなく、その外観から、何だかよく分からないけれど「木綿のようなもの」と言っているわけである。

「大衆文化における一反木綿」として挙げられている作品にも違和感を覚える。最初に挙げられているのが『妖狐×僕SS』。確かにこの漫画は長い間、本屋に平積みにされていて、一部では大人気の作品だ。でも、英語圏の人が真っ先に挙げるような作品なのかは甚だ疑問である。二番目に挙げられているのは戦隊もの。忍者戦隊カクレンジャー、侍戦隊シンケンジャー、手裏剣戦隊ニンニンジャー。いずれも「和」の雰囲気を持った戦隊ものなので、外国人にはウケているのかもしれない。最期に挙げられているのは『妖怪ウォッチ』で、これは「大衆文化における一反木綿」として挙げるには順当かもしれない。

でも、日本人だったら、10人が10人、『ゲゲゲの鬼太郎』を挙げると思う。ちょこんと生えた2本の手、吊り上がった2つの目、先端が尻尾のように細くなって、背中に人を乗せて空を飛ぶ一反木綿のイメージは、実のところ、水木しげるの創作だ。実際の鹿児島県の伝承では「木綿のようなもの」とだけあって、姿に関する明確な記述はない。水木しげるがうまく視覚化した産物と言える。境港市が2007年に開催した妖怪人気投票で、一反木綿は鬼太郎を押し退けて堂々の1位に選ばれているが、これは彼の影響が大きいだろう。『ゲゲゲの鬼太郎』や水木しげるが紹介されない点が、何とも不思議な感じがする。

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英語圏では、まだまだ日本の妖怪の知名度は低いのかもしれない。その一方で、『妖怪ウォッチ』や『妖狐×僕SS』、戦隊モノなど、日本の最新の文化は英語圏に着実に流入していて、その中に登場することで、英語圏の人々は日本の妖怪と触れ合っている、とも言える。また、Wikipediaには、最新の情報にはただちに反応できるが、『ゲゲゲの鬼太郎』のような古くから存在する情報はうまく反映させられない、という特徴があるのかもしれない。実際、『ゲゲゲの鬼太郎』のWikipediaの登場人物の項目には、ちゃんと一反木綿の名前が挙がっていて、結構な分量を割いて解説されている。

一般的な日本人が抱く一反木綿のイメージと、英語のWikipediaの記述には、若干の乖離があるわけだが、翻れば、日本人が抱く海外の妖怪のイメージも、現地の人からすれば、的外れだったり、乖離があったりすることも大いに考えられる。特に資料の乏しい国の妖怪だったら、尚更だ。ボクも、海外の妖怪をリサーチするときには気をつけなきゃいけない。