2024年9月4日 いろんな異世界に行って戻ってきた男の記録!?
『異境備忘録』という怪しい書物がある。宮地水位なる人物が、天狗界や神仙界、幽明界など、さまざまな世界を行き来した記録である。そこには、悪魔界というのも出てくる。残念ながら(?)、宮地水位は悪魔界には行かなかったようだが、水位は実際に魔王一行が空を行列しているのを目撃したという。そのときに一緒にいた川丹先生(2000年以上生きた仙人!)に魔王たちのことを教えてもらったのだという。
悪魔界について書かれているのは『異境備忘録』の8章で、その書き出しがとても魅力的だ。
悪魔界へは一度の入りたる事なし。されども此界の魔王どもは見たる事あり。
要するに「悪魔界には一度も入ったことはないけど、この魔界で魔王たちを見たことはあるよ」というトンデモない書き出しである。しかも、少し後にはこんなことも書いてある。
余明治十三年七月十九日の夜に魔神行列して空を通行しけるを川丹先生と共に見て、右の名をも聞きてやがて書付けたり。
要するに「俺は明治13年7月19日の夜、魔神が列になって空を飛んでいったのを川丹先生と一緒に見て、名前も聞いたのですぐに記録したよ」というわけだ。
それによれば、悪魔界には12人の魔王がいて、その筆頭は造物大女王で、続いて無底海大陰女王、積陰月霊大王がいるらしい。それに続く形で、神野長運、野間閇息童、神野悪五郎月影、山本五郎左衛門百谷、焔野典左衛門、羽山道龍、北海悪左衛門、三本団左衛門、川部敵冥がいるという。
しかも、実は魔界は大昔に2つに分かれたらしく、造物大女王が治める魔界とは別の魔界は西端逆運魔王が治めているらしい。そして、他にも独立した魔界があって、前三鬼神、飯綱智羅天、後天殺鬼などといった魔王がいるらしい。
……と、まあ、トンデモな内容なわけだけれど、生々しくてとても面白い。
とは言え、この魔王たちが古い伝承に根差しているのかと言えば、おそらくそんなことはなくって、実際は宮地水位の創作ということになるのだろう。山本五郎左衛門と神野悪五郎が魔王として名前を連ねているところも、『稲生物怪録』を念頭においているのだろう。
ずぅっとひょーせんさんが「造物大女王」のイラストを描いていて、いつかはちゃんと解説したいなあと思っていたんだけど、昨今、何故だかXで山本五郎左衛門がフィーチャーされているので、重い腰を上げてまとめてみようかなあ、と思っている。でも、結局、出典元は『異境備忘録』しかないので、それ以上の情報はないわけで、『異境備忘録』に書いてあることをつらつらと書くしかないのであることよ。