バエル

[魔法書文献][悪魔学]

名称Bael,Baël(バエル)【ラテン語】
容姿カエル、人間、猫の3つの頭を持った悪魔。蜘蛛の身体で描かれることもある。
特徴人間を透明にする能力がある。起源はカナアンの天候神バアル。
出典『プセウドモナルキア・ダエモヌム』(1577年)、『ゴエティア』(17世紀頃)、『グラン・グリモワール』(18世紀頃)ほか

魔法書で最初に紹介される悪霊はカナアン出身!?

バエルはソロモン王が使役したとされる72匹の地獄の悪霊の1匹で、ヨーハン・ヴァイヤーの『プセウドモナルキア・ダエモヌム』や『ゴエティア』などの中世の魔法書文献に登場する。

彼は東方(オリエント)を支配する地獄の王で、66個の悪霊たちの軍隊を率いている。彼の姿は変幻自在で、猫だったり、カエルだったり、人間だったりするが、よく知られているのは、これらの3つの頭を持った姿である。コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』の中で描かれたブルトンの木版画では、蜘蛛の身体にこれらの3つの頭を持った不気味な悪魔として描かれている。

バエルは人間を透明にする能力がある。これは言葉通りの意味なのかもしれないが、黒魔術の分野では、気配を消す、目立たないようにしてくれるという意味として解釈されることもある。また、人間を賢くしてくれるという。

元々、バエルはウガリット・カナアン神話に登場する天候神バアルに起源を持つのだろう。バアルは《主》という意味で、ウガリット(現在のシリア)やカナアン(現在のイスラエル、ヨルダン、)と言った地域の「神さま」一般の意味になったが、ユダヤ・キリスト教からすると異教の神だったので、聖書の中では悪魔のように描かれた。バエルはこのイメージを引き継いでいる。東方(オリエント)を支配するというのも、ここに由来するのだろう。悪魔学の中では非常に重要な悪魔で、『プセウドモナルキア・ダエモヌム』でも『ゴエティア』でも、最初に紹介されている。また、『グラン・グリモワール』では、魔王ルキフェルから現世の富と財宝の管理を任されている地獄の宰相ルキフゲ・ロフォカレに仕える悪魔として、多くの悪霊たちを率いる存在として描かれている。

ちなみに、現在では別の悪魔として知られるベルゼブブは《崇高なる主》を意味するバアル・ゼブルに由来している。また、バルベリトとして知られる悪魔も、バアル・ベリトというシケム人が崇めていた神さまに由来している。

ブルトンの描いたバエル
ブルトンの描いたバエル

『プセウドモナルキア・ダエモヌム』に登場するバエル!?

魔術師アグリッパの弟子として知られるヨーハン・ヴァイヤーが著した『プセウドモナルキア・ダエモヌム(悪魔の偽王国)』では69匹の悪霊たちが紹介されている。そこで最初に紹介されるのがバエルである。

Primus Rex, qui est de potestate Orientis, dicitur Baël, apparens tribus capitibus, quorum unum assimilatur bufoni alterum homini, tertium feli. Rauca loquitur voce, formator morum & insignis certator, reddit hominem invisibilem & sapientem. Huic obediunt sexagintasex legiones.

第1番目は東方を支配している王で、バエルと呼ばれており、3つの頭、ひとつはカエル、ひとつは人間、そして3番目は猫の頭を持った姿で出現する。彼は嗄れた声で喋り、人間を透明にしたり、賢くしたりする。また、66個の軍隊を従えている。

(ヨーハン・ヴァイヤー『プセウドモナルキア・ダエモヌム』より)

『ゴエティア』に登場するバエル!?

17世紀頃には成立していたと考えられている中世の魔法書『レメゲトン』の第1部『ゴエティア』にもバエルの記述がある。『ゴエティア』はソロモン王が使役したという72匹の悪霊について、その召喚の手順を具体的に記したもので、必要な呪文や魔法陣、72匹の悪霊たちのそれぞれの能力や紋章(シジル)、召喚に際しての注意事項などが書かれている。『ゴエティア』でもバエルは最初に紹介されている。

BAEL. - The First Principal Spirit is a King ruling in the East, called Bael. He maketh thee to go Invisible. He ruleth over 66 Legions of Infernal Spirits. He appeareth in diverse shapes, sometimes like a Cat, sometimes like a Toad, and sometimes like a Man, and sometimes all these forms at once. He speaketh hoarsely. This is his character which is used to be worn as a Lamen before him who calleth him forth, or else he will not do thee homage.

バエル:第1番目の悪霊は東方を治める王で、バエルと呼ばれている。彼は汝を透明にする。66個の地獄の悪霊の軍隊を統治している。彼はさまざまな姿、ときには猫、ときにはカエル、ときには人間、ときには同時にこれら全ての姿で出現する。彼は嗄れた声で喋る。これが彼を眼前に召喚する術者の前で胸飾りとして身に纏うべき彼の紋章で、さもなくば、彼は術者に忠誠を誓わないだろう。

バエルの紋章
バエルの紋章

(メイザース&クロウリィ『ソロモン王の小さな鍵 ゴエティア』より)

『グラン・グリモワール』に登場するバエル

『グラン・グリモワール』によれば、地獄の組織としては、皇帝ルキフェル、皇子ベルゼブト、大公アスタロトの3人が筆頭にいて、そこに宰相ルキフゲ・ロフォカレ、総司令官サタナキア、司令官アグリアレプト、中将フレウレティ、准将サルガタナス、元帥ネビロスの6人が続く。そして、6人にそれぞれ3人ずつ、合計18人の悪霊が従っているという。バエルはアガレスマルバスとともにルキフゲ・ロフォカレに従っているという。

The first is the great Lucifuge Rofocale, the infernal Prime Minister who possesses the power that Lucifer gave him over all worldly riches and treasures. He has beneath him Bael, Agares and Marbas along with thousands of other demons or spirits who are his subordinates.

第1は偉大なるルキフゲ・ロフォカレで、地獄の宰相で、彼の持つこの世の全ての富と宝物を支配する力はルキフェルが彼に与えたものだ。彼は統治する。彼はその他の数千という悪霊たちとともに、部下としてバエル、アガレス、そしてマルバスを従えている。

(『グラン・グリモワール(大奥義書)』より)